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骨盤臓器脱の治療

No.4765 (2015年08月22日発行) P.53

岡垣竜吾 (埼玉医科大学病院産婦人科教授)

登録日: 2015-08-22

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

骨盤臓器脱の治療にはペッサリーや骨盤底筋群体操などの保存的療法と,手術療法とがありますが,どの程度の症状から手術を勧めればよいか,また術式の選択はどのようにすればよいか,埼玉医科大学・岡垣竜吾先生のご教示をお願いします。
【質問者】
難波 聡:埼玉医科大学病院産婦人科講師

【A】

骨盤臓器脱はQOLを障害する疾患であり,治療開始の目安はQOLの障害の程度をみて決めます。具体的には下腹部の違和感,立位や歩行時の臓器下垂感,歩行困難など脱出そのものに起因する不快感のほかに,排尿機能の障害(排尿困難,残尿,頻尿,尿失禁など),排便の障害,性機能の障害(性交時痛,性交障害,性交時出血など)が生じてくるので,これらの症状でどれくらい困っているか問診します。
軽症のときは生活指導(便秘や咳の防止,日常的に腹圧のかかる動作習慣があれば避ける)と骨盤底筋訓練を行います。
解剖学的にPOP-Q(pelvic organ prolapse quan-tification)法でstageⅡ以上,すなわち,怒責をかけたときに尿道,膀胱,子宮,小腸,直腸いずれかの計測点の最下垂部位が -1cm(腟口から1cm奥)まで下垂してきたときが治療開始の目安と言われています。
ただし,解剖学的所見は必ずしも自覚症状と一致しません。また,stageⅡを目安とすることへの異論もあり,「膀胱や直腸の下垂は -0.5cmまで症状が出にくいのに対し,子宮頸部は -5cmで既に訴えが出るので,こちらを目安としたほうがよい」との主張もあります(文献1)。
いずれにしても,患者さんの訴えに従ってペッサリー療法もしくは手術療法を行います。原則として,まず保存的療法であるペッサリー療法から検討します。高度の脱出ではペッサリーが滑脱してしまい治療困難である場合もありますが,具体的にペッサリーの適用限界が定められているわけではありません。(1)ペッサリーが容易に自然脱出してしまうとき,(2)腟壁潰瘍による性器出血などの有害事象が発生したとき,そのほか,(3)外来管理が困難になったとき,に手術を考慮します。患者さんがペッサリーを希望せず手術を希望したときには,その時点で手術を検討します。
骨盤臓器脱に対する最適の術式は確定していません。
(1)欧米では子宮(亜)全摘+子宮頸部・腟壁仙骨前固定術をゴールドスタンダードと呼ぶことが多く,解剖学的には最も自然な腟の状態に近い修復であるため,若年で性交渉がある症例にはベストであると思われます。開腹法はやや侵襲が高いため,腹腔鏡下手術やロボット支援下手術が試みられています。
(2)経腟メッシュ手術は人工材料の埋め込みに伴う特有の合併症(メッシュ露出など)がありますが,手術そのものは低侵襲であることから,膀胱のみの下垂症例などに向いています。
(3)腟式子宮全摘術+腟断端仙骨子宮靱帯固定術(または仙棘靱帯固定術)は子宮頸部の下垂に有効で,術後の腟の挙上も良好ですが,腟の奥が狭くなります。
(4)腟閉鎖術は高齢者や子宮全摘後の症例で有効な場合があります。性交はできなくなります。
当院では以上の術式を年齢,性的活動性,下垂のタイプにより使いわけていますが,「子宮を残したい」「異物を入れたくない」などの本人希望も考慮するため,「推奨する術式」を医師がいくつか提示し,最終的な術式は患者さん本人が選択することになります。

【文献】


1) Dietz HP, et al:Int Urogynecol J. 2014;25(4): 451-5.

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