【Q】
抗ARS(aminoacyl transfer RNA synthetase)抗体陽性が疑われた場合に,間接蛍光抗体法による抗核抗体検査で抗細胞質抗体を示唆する染色の有無,抗Jo-1抗体を最初に確認しますが,抗Jo-1抗体が陰性であった場合に,最近では「MESACUPanti-ARSテスト」を施行します。この検査で陽性であった場合,または陰性でも臨床的にほかの抗ARS抗体陽性が考えられる場合,詳細な同定を依頼する意義や,依頼すべきケースなどについて,慶應義塾大学・平形道人先生のご教示をお願いします。
【質問者】
亀田秀人:東邦大学医療センター大橋病院 膠原病リウマチ科教授
【A】
リウマチ・膠原病専門医以外の読者の先生方もいらっしゃると思いますので,まず,抗ARS抗体の測定法とその臨床意義について説明し,ご質問にお答えしたいと思います。
(1)抗ARS抗体とその測定法
ARSに対する自己抗体は,抗Jo-1抗体が多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)患者血清に発見されて以来,これまでに8種類の抗ARS抗体が報告されています(表1)(文献1~3)。これらの抗ARS抗体陽性例は,筋炎を中心として,間質性肺炎(50~90%),多発関節炎(50~90%),レイノー現象(60%),発熱(80%),手指の角質化と色素沈着(mechanic’s hand「機械工の手」)などを高頻度に併発することから,「抗ARS抗体症候群」とも呼ばれています(文献1~5)。
従来,抗ARS抗体の測定は,きわめて煩雑な手順を要する免疫沈降法で行われていたため,日常臨床で用いられるには困難がありました。しかし,近年,5種類のARSリコンビナント抗原(Jo-1, PL-7, PL-12, EJ, KS)を混合して固相化したELI
SA(MESACUP TM anti-ARSテスト)〔注〕が開発されました(文献2,3)。同測定系では抗ARS抗体がPM/DM患者に特異的に検出され(特異度97.7%),その検出率はPM/DM患者の29.5%,特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonia:IIP)患者の10.6%と報告されています(文献2,3)。
(2)抗ARS抗体の臨床意義
抗ARS抗体は,PM/DMに特異的な自己抗体の中で最も高頻度(20~30%)に検出され,疾患特異性も高いとされています。したがって,本抗体が検出された場合はPM/DMが強く疑われ,その診断を進めることが大切です。本抗体はPM/DMなど膠原病の診断・分類基準を満たさないIIP患者の10%に見出されることもあります。さらに,抗ARS抗体陽性例の臨床経過を検討すると,筋炎が先行する例も間質性肺炎が先行する例もあり,本抗体の測定はPM/DMの診断だけでなく,抗ARS抗体症候群に伴う臨床症状の発症を予測する上でも有用です(文献4~6)。
(3)詳細な同定を依頼する意義や依頼すべき ケース
MESACUPTM anti-ARSテストでは,5種類(Jo-1,PL-7,PL-12,EJ, KS)の抗ARS抗体が一括して検出でき,従来のRNA免疫沈降試験との判定一致率は99.8%と報告されています(文献3) 。しかし,抗原を混合して固相化しているため,個々の抗ARS抗体は同定できません。これまで,抗ARS抗体の中では最も高頻度に検出される抗Jo-1抗体陽性例の“間質性肺炎併発PM”という均質な臨床像が抗ARS抗体陽性例の特徴とされてきましたが,近年,抗PL-12,抗KS抗体と(膠原病の診断基準を満たさない)間質性肺炎例,抗EJ抗体とDMとの密接な関連など,各抗ARS抗体の特異性により臨床所見が異なることも示唆されています(文献4~6)。したがって,抗ARS抗体特異性と関連する臨床所見を認める場合,詳細な同定が役立つこともあります。本測定系ではOJ,Zo,Ha(に対する自己抗体)は検出されないので,抗ARS抗体症候群の関連臨床症状を認めるものの,抗ARS抗体陰性の場合,これら3種類の抗ARS抗体を同定する利点があります。さらに,臨床所見より抗ARS抗体症候群が強く疑われ,抗細胞質抗体陽性でありながらMESACUPTM anti-ARSテスト陰性という予想外の結果を得られた場合,免疫学的反応性,感度・特異性もまったく異なる測定系であるという点からも,免疫沈降法による詳細な同定を考慮に入れるべきと考えます。
〔注〕保険適用の条件
・抗ARS抗体:PM/DMの診断の補助として測定する。190点。
・抗ARS抗体と抗Jo-1抗体定性,同半定量または同定量を併せて実施した場合は主たるもののみ算定する。
【文献】
1) 平形道人:日臨免疫会誌. 2007;30(6):444-54.
2) Nakashima R, et al:PLoS One. 2014;9(1):e85062.
3) 村上昭弘,他:医と薬学. 2014;71(8):1403-10.
4) 平形道人:分子リウマチ治療. 2010;3(1):1-6.
5) 平形道人:内科. 2012;109(6):1480-2.
6) Hirakata M, et al:Curr Opin Rheumatol. 2000;12(6):501-8.