【Q】
喘息の重症度にかかわらず,好酸球性副鼻腔炎を合併した症例の喘息,鼻炎,副鼻腔炎,中耳炎のコントロールは難しく,全身性ステロイドの間欠的投与や局所的なステロイド投与でしのいでいるのが現状です。手術療法にも限界があり,内科で診る機会が増えております。どのように治療薬を選択されますか。三菱京都病院・安場広髙先生のご教示をお願いします。
【質問者】
田中裕士:NPO法人札幌せき・ぜんそく・アレルギー センター理事長/医大前南4条内科院長
【A】
昔よくみられたいわゆる「蓄膿症」は好中球性でしたが,最近では好酸球性のものが増加し,喘息患者の約40%に副鼻腔炎が合併し,そのうち80%以上が好酸球性副鼻腔炎(eosinophilic chronic rhinosinusitis:ECRS)であるとされています。喘息の重症度が上がるに従って合併率は上がり,ステップ4.5では,約55%にECRSがみられます(文献1)。逆にECRSの70%程度に喘息が合併しており,もはや別の疾患とは考えられないレベルに達しています。しかも,これは慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:CO
PD)にはみられない喘息だけの特徴です(文献2)。
私たちは,微粒子吸入ステロイドを,スペーサーを使って口から吸う(エアロチャンバーもしくはオプティチャンバーで,笛がかすかに鳴る程度の流速で吸う)ことで肺に十分沈着させたあと,鼻から静かに吐くことによって,呼気中に残存する吸入ステロイドを鼻腔の奥にある副鼻腔開口部周辺に届かせる「経鼻呼出法」を考案し,この喘息とECRSを同時に治療する方法を既に多くの症例で実践しています。解剖学的構造を考えても,前方から点鼻ステロイドを注入するよりは有効性が高いと考えています。
最も粒子径の細かいHFA-BDP(hydrofluoroalkane-beclometasone dipropionate,キュバールTM)の800μg/日の経鼻呼出法では,アレルギー性鼻炎の鼻閉や鼻汁には70%有効であり,治療が困難とされていたECRSによる嗅覚障害や副鼻腔CT所見にも約半数で顕著な改善が得られています(文献1)。アズマネックスでも30%の有効性があり,シムビコートでは,吸気流速を上げるほど粒子径が細かくなって経鼻呼出される量が増えることを,特殊なレーザー光線を使って証明しています。この経鼻呼出法は,耳鼻科領域でもECRSの術後再発の予防に利用されはじめています。
ECRSが存在すると,喘息患者の末梢気道閉塞が強くなって重症化しやすく(文献1) ,FeNO(fractional exhaled NO,呼気中一酸化窒素濃度)も高くなります(文献3) 。コントロールが良好でもFeNOが高い喘息や,嗅覚障害を伴う喘息は,必ず副鼻腔CTを撮って経鼻呼出法を試みることが重要ですし,花粉症にも効果があるので,吸入ステロイドは経鼻呼出法を最初から指導するほうがよいと考えられます。抗IgE抗体であるオマリズマブやロイコトリエン受容体拮抗薬も有効であるとされており,これらを駆使した,上気道と下気道アレルギーを同時に治療するairway medicineを,さらに広めていきたいと考えています。
▼ Airway Medicine研究会.
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1) 安場広髙:臨免疫・アレルギー科. 2011;55(2):210-5.
2) 安場広髙:アレルギーの臨. 2011;31(11):1021.
3) Kobayashi Y, et al:J Asthma. 2015;52(10):1060-4.