【Q】
女性ホルモン製剤の副作用で血栓症が発症する機序を。 (和歌山県 T)
【A】
女性ホルモン製剤を経口投与すると,消化管から吸収され,門脈を経て肝内に取り込まれる。肝内エストロゲンは肝組織を刺激して凝固系を活性化するため,静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)のリスクとなる。したがって,内服するエストロゲン量が多ければ多いほど肝刺激が強く,VTEリスクは高くなることがわかっており,臨床的には閉経後のホルモン補充療法(hormone replacement therapy:HRT)や経口避妊薬(OC)を使用する場合,VTEリスクは大きな有害事象の1つとなる。
HRTの場合,経口の結合型エストロゲン(conjugated equine estrogen:CEE)を内服するとVTEリスクが上昇するが,経皮の17β-エストラジオール(estradiol:E2)の場合はそのリスクはないことが報告されている(文献1)。この理由は経皮投与のため,初回肝通過効果がないことに加え,17β-E2はCEEと比較すると肝刺激作用が弱いことから,凝固系がほとんど変化しないためである。
OCに含まれるエストロゲンはエチニルエストラジオール(EE)であるが,EEのエストロゲン強度はCEEと比較して高いため,HRTよりもOCのVTEリスクは高い。1990年代までわが国ではEEで50μgの中用量OCが中心であったが,現在ではVTEリスクなどの有害事象を低減する目的で20~30μgまで低用量化されている。
米国食品医薬品局の報告を見ると,VTEの発症頻度はOC非使用者で年間1万人に1~5人で,OC使用者で3~9人まで上昇することが示されている。一方,妊娠中は5~20人,産褥12週間は40~65人であり,妊婦や褥婦に比較するとOCによるVTEリスクは比較的小さいと考えられている。
OCを投与する場合,肥満,喫煙,高齢者へはVTEリスクを上昇させることがわかっているため,注意する必要がある。特にOC投与を50歳以後まで継続すると,毎月月経が発来し,更年期症状も出現しないため閉経時期がわからないことがある。更年期~閉経の時期はHRTが適切であるが,OCを継続しているとエストロゲン強度が高いためVTEリスクがさらに上昇することが報告されている(文献2)。このため,適切な時期にOCからHRTへの変更を考慮するべきである(図1)。
VTE発症は女性ホルモン投与を開始してから3カ月以内が最も高率と言われている。このため,少なくとも投与後3カ月間は1カ月ごとに診察して,VTE発症の有無を確認するため,abdominal pain(激しい腹痛),chest pain(激しい胸痛,息苦しい,押しつぶされるような痛み),headache(激しい頭痛),eye/speech problem(見えにくい所がある,視野が狭い,舌のもつれ,失神,痙攣,意識障害),severe leg pain(ふくらはぎの痛み・むくみ,握ると痛い,赤くなっている)を問診するべきである。OCやHRT投与中に上記症状が出現すれば,D-ダイマー測定や下肢エコーを行い,VTEが存在するか否かを迅速に診断し,必要があれば循環器内科や脳神経外科に紹介するべきである。
1) Canonico M, et al:BMJ. 2008;336(7655):1227-31.
2) Roach RE, et al:J Thromb Haemost. 2013;11(1): 124-31.