【Q】
2014年7月に発売された『カール先生の大腸内視鏡挿入術[Non-loop法の挿入理論とテクニック]』を読み,非常に参考になった。
他の報告で,漢方薬の麻子仁丸と造影剤のガストログラフィンの併用により大腸のぬめりが増すという報告をみた。この方法の利点・改善点について。
前記書籍の著者である軽部病院・軽部友明先生に。 (宮城県 Y)
【A】
大腸内視鏡検査の前処置薬として,前日に麻子仁丸(2.0g×2包),検査当日にガストログラフィン100mL+水100mLを併用することで大腸のぬめりが増して,S状結腸までの挿入に有用であるとの報告に対する質問である。
以下に,ガストログラフィンと麻子仁丸の性質を考慮した筆者の意見を述べる。
ガストログラフィンは浸透圧比約9の高浸透圧造影剤であり,その高浸透圧により下剤効果が期待できる。実際に術後癒着性イレウスの治療に経口ガストログラフィン投与が奏効した報告(文献1)や,胎便病に対するガストログラフィン注腸の有効性の報告(文献2)があるが,高浸透圧による脱水には十分注意が必要である。
これは私見であるが,非常に優れた経口腸管洗浄剤がある現在においては,ガストログラフィンを大腸内視鏡検査の前処置薬として使用することは一般に普及するとは思えない。ぬめりに関しても,現存の腸管洗浄剤でも十分なぬめりは得られるはずである。
次に麻子仁丸についてであるが,麻子仁丸は,麻子仁,杏仁の油成分により水分吸収を抑制して大腸粘膜を潤す。そのほか,大黄による瀉下作用に加え,枳実による消化管運動亢進作用,厚朴による胃腸の蠕動調節作用,芍薬による鎮静・鎮痙・鎮痛作用を併せ持つ,高齢者の体力低下時の弛緩性便秘によく用いられる漢方薬である。透析患者のように水分制限をせざるをえない患者にも有効であるとの報告がある(文献3)。
一般的に広く行われている大腸内視鏡検査の前処置では,前日にセンノシドなどの下剤を服用させる。センノシドの主成分であるセンナは大黄を精製したものである。麻子仁丸はその瀉下作用に加えて,鎮痙・鎮静・鎮痛作用や腸管を潤す作用を併せ持つ。
このことを考えると,頓服的な使い方で,どの程度効果が期待できるのかと疑問は残るが,通常の下剤よりも大腸内視鏡検査の前処置薬として,より有効である可能性はあると思われる。
1) 成田 努, 他:小児臨. 1997;50(5):963-6.
2) 住田 裕, 他:日未熟児新生児会誌. 1998;10(2):191 -5.
3) 前田陽一郎, 他:漢方医. 2014;38(1):33-5.