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子宮動脈仮性動脈瘤の発生メカニズムと対処法

No.4756 (2015年06月20日発行) P.64

松原茂樹 (自治医科大学産科婦人科教授)

登録日: 2015-06-20

最終更新日: 2018-11-27

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【Q】

流産手術(人工も含む)後,数週間出血が続き,ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)弱陽性で子宮内膜が肥厚し,そこに拍動性の血流が認められる症例があります。手術時に絨毛を確認し,微量な絨毛の遺残がある場合,再処置が必要とされますが,仮性動脈瘤の可能性が高いため再手術がためらわれます。以下をご教示下さい。
(1) 子宮動脈仮性動脈瘤発生のメカニズム(絨毛遺残と因果関係があるのか)と診断法。
(2) 本症例への対処法。 (静岡県 Y)

【A】

重要なご質問です。いろいろな動脈に仮性動脈瘤はできますが,今回は子宮動脈仮性動脈瘤(仮性瘤)に限定して述べます。
[1]仮性瘤の発生メカニズムと診断法
仮性瘤の発生メカニズムは十分には解明されていません。絨毛遺残とは無関係だと想定されています。仮性瘤の典型例は,(1)帝王切開後,(2)通常1週~1月後に性器出血,(3)カラードプラで子宮内に拍動性血流(+),です。
発生メカニズムは,次の通りです。
(1)帝王切開中に子宮動脈(またはその分枝)壁が一部切れるが,手術中は出血しないので気づかれない。(2)損傷部が破れて出血するが,周囲組織で被覆されいったん止血する。しかし,出血は続いていて“瘤”が形成され,瘤が破れた場合は大出血する。(3)破綻前でも破綻後でも,瘤内には動脈性血流が「渦巻いて」いる〔拍動性血流(+)〕。
帝王切開後だけでなく,正常経腟分娩後(文献1),ご質問例のような流産手術後(文献1,2),先行妊娠がない場合(文献3)などでも,仮性瘤は起こりうることがわかってきました。しかし,なぜ,特定の人だけに起こるのかということや,もともと血管病変がある人に起こりやすいのかどうか(文献4),そして自然消失例がどのくらい存在するのかということなどは未解明です。産後後期出血を示す最大頻度疾患は,絨毛遺残とそれに伴う胎盤ポリープです。仮性瘤が知られる前は「仮性瘤を胎盤遺残だと誤認」してしまった例も多々あったでしょう。仮性瘤を胎盤遺残と関連づける論調もありますが,両者が混同されていたためであろうと考えられます。
診断については,子宮内拍動性血流が最も重要です。次に造影CTです。CTで左右どちらの子宮動脈由来であるのかがわかります。さらに骨盤血管造影で“瘤”そのものを明示させます。
[2]仮性瘤の対処法
出血があれば動脈塞栓術を行います。出血がない場合は,動脈塞栓術を行う,あるいは自然待機をする,という2つの意見があります。筆者は前者です。骨盤血管造影で責任血管を同定し,塞栓します。通常は対側の子宮動脈も塞栓します。子宮は側副血行路が豊富だからです。メトトレキサート(MTX)は使いません。仮性瘤は,胎盤遺残とは無関係と考えられているためです。瘤と胎盤遺残が同時に存在する稀な場合にはMTX選択の余地がありますが,筆者にその経験はありません。
最悪の展開は,この疾患の存在に気づかず,子宮内容除去術(アウス)を行ってしまうことです。この場合,瘤が破綻して大出血します。
筆者らの研究(文献5)によれば,仮性瘤は従来想定されていたよりもはるかに高頻度に存在します(2~3/1000分娩)。気づかれないで,「自然消失」してしまう例もあるでしょう。疾患自然史は不明です。無症状の仮性瘤で比較的小さいものは動脈塞栓術を行わずに,自然経過をみる,との考えもあります。しかし,現段階では,瘤が破裂するかしないかを判別する方法がありません。そのため筆者らは,仮性瘤を発見したら動脈塞栓術を行い,後顧の憂いを絶つ方針を採用しています。今後,この点についての研究が待たれます。

【文献】


1) Matsubara S:Arch Gynecol Obstet. 2011;283(3):669-70.
2) Matsubara S, et al:J Obstet Gynaecol Res. 2010;36(4):856-60.
3) Matsubara S, et al:Acta Obstet Gynecol Scand. 2014;93(7):723-4.
4) Matsubara S:Int J Gynaecol Obstet. 2014;125(1):84-5.
5) Baba Y, et al:Arch Gynecol Obstet. 2014;290(3):435-40.

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