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心房細動患者に対する自動血圧計を用いた血圧測定法

No.4760 (2015年07月18日発行) P.66

今井 潤 (東北大学大学院薬学研究科教授)

登録日: 2015-07-18

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

心房細動患者の血圧測定(自動血圧計での家庭血圧測定)において,正確な測定が可能なのかどうか疑問に思っています。家庭血圧測定では,「2回の平均を記録する。1回測定の場合は,その値を測定値とする」という原則がありますが,不整脈患者も同様にこの原則に従って血圧測定を行ってよいのでしょうか。 (愛知県 N)

【A】

今日,心房細動患者の血圧測定に関して確立した評価法はありません。これは心房細動に限らず,不整脈の頻発している患者に対して共通して言えることです。特に聴診法では,不整脈発生時に音の質と強さに連続性がなくなります。これが,コロトコフ音の第1相に近いところで生じたり,第5相に近いところで生じたりすると,収縮期血圧,拡張期血圧がともに,誤ったレベルで,高くも低くもとらえられるという現象が生じます。
実際の臨床の場では,予測できないようなところでコロトコフ音が聞こえるのをよく経験します。また,心房細動患者のコロトコフ音を聴取しているとき,その音の質,強弱が1拍ごとに大きく変化することも経験します。
したがって,心房細動を含めた不整脈患者のコロトコフ法による血圧測定では,1度の機会に3回以上の血圧測定を行い,血圧値を平均することで,不整脈の影響を弱くする方法がガイドラインに記されています。
それでは,家庭血圧計のような自動血圧計では,心房細動を含む不整脈患者の血圧を正しく測定しうるのでしょうか。今日よく使用されている自動血圧計の多くは,その原理がリバロッチ・コロトコフ法からカフ─オシロメトリック法に変更されています。この方法は,カフの加圧後の減圧時に認められるカフ内圧の漸増,漸減の過程を微分し,その変曲点を収縮期血圧,拡張期血圧の近似点としたアルゴリズムを用いて血圧値を決定するというものです。心房細動を含めた不整脈があると,このカフ内圧の振動がスムーズでなくなるため,うまくアルゴリズムに乗らなくなった場合,血圧値が算出できなくなります。これは,特に期外収縮による不整脈が徐脈の状態で生じているときに認められます。また多彩な不整脈が同時に出ているときや,高頻度な不整脈が認められるときに生じます。
一方,心房細動時には,徐脈の場合を除き,全体としてのカフ内圧の漸増,漸減の過程は維持されることが多く,そのため,計測のアルゴリズムに乗る場合も多くなります。したがって,自動血圧計は,血圧値を示してくれます。
カフ─オシロメトリック法では,心房細動患者のカフ内圧の不整脈による変化を,むしろアルゴリズムで平均化して血圧値を算出している可能性があります。そしてその値は,コロトコフ法で得られたものより,安定したものであると推定されます。とはいえ,心房細動という不整脈があるわけですので,厳密な意味で,収縮期血圧,拡張期血圧をこの方法がうまくとらえているかどうかの確証はありません。むしろ収縮期血圧,拡張期血圧の近似値をとらえていると考えるべきでしょう。したがって,カフ─オシロメトリック法の自動血圧計による血圧測定も,コロトコフ法の場合と同様,3回以上の繰り返し測定を行い,その平均値をとることが推奨されます。

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