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なぜ女性は出産後・中年期以降に太りやすい?【肥満の生物学的意義】

No.4774 (2015年10月24日発行) P.64

岩佐弘一 (京都府立医科大学大学院女性生涯医科学講師)

登録日: 2015-10-24

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

女性は中年期以降,あるいは出産以降に肥満になる傾向がある気がしますが,これに生物学的意義,進化論的な意義はありますか。寿命との関係や生活習慣病との関係も教えて下さい。 (兵庫県 K)

【A】

中年期以降,特に閉経後と出産以降に共通するのはエストロゲン(estrogen:E)の急激な減少です。Eが減少すると,レプチンが減り,グレリンが増えることにより食欲が亢進します(文献1)。
レプチンは脂肪細胞によってつくり出され,強力な飽食シグナルを伝達し,交感神経活動亢進によるエネルギー消費増大をもたらし,肥満の抑制や体重増加の制御の役割を果たします(文献2)。そのため,レプチンが減少すると内臓脂肪が燃焼しづらくなります。グレリンは,胃で産生され,下垂体に働き成長ホルモンの分泌を促進し,視床下部に働いて食欲を増進させます(文献3)。Eが不足すると,内臓脂肪を蓄積するアセトアルデヒド脱水素酵素1A1が活性化します(文献4)。
妊娠中のEやプロゲステロンの急激な増加により,インスリン抵抗性が増大するとともに,胎盤においてインスリンを分解する酵素が産生されるため,妊娠後期のインスリン活性は非妊時の50~70%にまで低下すると言われます(文献5)。すなわち,妊娠中はインスリンの分泌量が大幅に増加し,摂取した糖は脂肪となり体内にどんどん蓄えられます。妊娠中に体重が増加しすぎると,出産後に厳重な食事制限などをしない限り非妊時の体重に戻すことは困難です。
肥満は,高血圧,脂質異常症,糖尿病などの心血管系に悪影響を及ぼす内科的疾患の原因になるばかりでなく,婦人科的にも月経異常,多嚢胞性卵巣症候群や子宮内膜癌の原因となります。肥満が原因で疾患が併発すれば,寿命の短縮につながることもありますので,肥満に対しては,食事や運動などの生活指導を行い,厳重な体重管理を行う必要があります。
現代日本社会においては,肥満に生物学的意義や進化論的な意義は認められません。中年以降や出産以降の肥満は,飽食の時代にみられる現象と言えます。絶えず飢餓の危機にさらされていた時代では,体力の低下する中年以降や母乳哺育を要する出産後において,エネルギー消費節約に働く内分泌的変化は,生体防御の点から,大きな生物学的意義を有していたと考えられます。

【文献】


1) Somogyi V, et al:Nutr Res Rev. 2011;24(1):132-54.
2) 小川佳宏, 他:日内会誌. 2001;90(4):705-10.
3) Inui A, et al:FASEB J. 2004;18(3):439-56.
4) Petrosino JM:Nutrients. 2014;6(3):950-73.
5) Butte NF:Am J Clin Nutr. 2000;71(5 Suppl):1256S-61S.

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