【Q】
開腹術後に腸閉塞の既往がある場合,再発予防の目的で大建中湯が長期投与されているのを散見します。長期内服のデメリットよりも再発予防のメリットのほうが大きいと考えますが,周術期ではなく,容態が安定している時期において,大建中湯が腸閉塞の再発を予防することを示す具体的な知見をご教示下さい。 (埼玉県 S)
【A】
大建中湯は,人参,乾姜,山椒,膠飴の4つの生薬からなる漢方薬です。胃腸を温めて機能を高めることで消化管の蠕動を整え,消化吸収を促進し,お腹の張りや痛み,下痢や便秘などを解消します。使用目標については,原典の『金匱要略』に「お腹が冷えて痛み,嘔気のため飲食ができず,腹の中がウネウネと動き,痛みが激しく手を触れることもできないようなもの」と,イレウスにみられるような症状が記載されています。
大建中湯のイレウスに対する有効性については,術後早期の予防的投与と発症時の保存的治療においては確認されていますが,今のところ長期投与が有効という明確なエビデンスはありません(漢方治療が個人の体質を基準にすることも関係しているかもしれません)。ただ,腸管癒着形成抑制作用(文献1) ,消化管運動亢進作用(文献2) ,門脈血流増加作用(文献3) ,消化管ホルモン分泌促進作用(文献4) などが確認されており,イレウスの再発を繰り返す場合,試みてもよい方法かと思います。実際に大建中湯を使うことで,再発が減ることはよく経験することです。術後でなくても,たとえば,子宮内膜症による癒着があり,しばしばお腹が冷えて腹痛を訴える患者に使ってみたところ,痛みがなくなったという例もあります。発症に腹部の冷えが関連しているのであれば,安定している時期にも使用することは,理にかなっていることであると思います。
そのほか,養生も大切です。大建中湯が適応となるような患者さんには,日頃から冷たいものを摂りすぎないよう指導しておく必要があります。
注意点として,大建中湯に含まれる生薬の乾姜と山椒は,温める力の強い「熱薬」であるため,体に熱のこもった「熱証」タイプに投与すると効果がないばかりか,口内炎や胃痛,食欲低下などをきたすことがあります。投与する際は,冷え症であること(例:寒がり,冷房が苦手,長湯を好むなど)のほか,お腹を触ると冷たい,冷えてお腹が痛くなる,下痢をする,温めると痛みが緩和する,といったことを確認すれば,より確実で効果も上がります。
補足ですが,お腹の張りが強い場合,桂枝加芍薬湯を加えるとより効果的です。
1) Kono T, et al:J Crohns Colitis. 2010;4(2):161-70.
2) Akamaru Y, et al:J Gastrointest Surg. 2015;19(3):467-72.
3) Ogasawara T, et al:Hepatogastroenterology. 2008;55(82-83):574-7.
4) Nagano T, et al:Biol Pharm Bull. 1999;22(10):1131-3.