【Q】
食後高血糖などの血糖値の変動は動脈硬化をきたす危険因子として重要視されています。胃切除後のoxyhyperglycemiaでは血糖値が大きく変動しますが,糖尿病患者が胃切除を行った場合,予後は悪いのでしょうか。 (石川県 Y)
【A】
胃切除術後の患者において,食後に急峻な血糖上昇とそれに続いて急激に血糖降下する血糖変動のことをoxyhyperglycemiaと呼びます。oxyhyperglycemiaは,摂取した糖が小腸に急速に流入,吸収されて高血糖をきたし,それに反応してインスリン過分泌が引き起こされる結果生じる現象であり,耐糖能異常によるものではないと考えられています。一方,インスリン過分泌が食事のたびに繰り返されることで,膵β細胞の疲弊をもたらし,耐糖能の悪化の懸念もあります。
しかし,糖尿病患者において,胃切除術後の血糖コントロールの変動について長期に検討した報告では,術後に血糖は改善するという報告が多くあります(文献1)。その理由として,術後に体重が減少するためにインスリン感受性が改善することや摂食量自体が減少することが推察されています。
肥満外科手術は,胃の容量を小さくしたり,栄養素を吸収する小腸をバイパスさせることによって減量を得る手術です。高度肥満症患者の確実な減量方法として,世界中で年間約34万件以上も行われています。日本でも2014年にスリーブ状胃切除術が保険収載され,徐々に施行数が増加しています。肥満外科手術は,減量効果だけでなく,合併する糖尿病を劇的に改善させることが注目されています(文献2)。耐糖能が改善する機序については様々な仮説が唱えられていますが,その中の有力な説として,インクレチン(glucagon-like peptide-1:GLP-1)の関与があります。バイパス術後は,食物は下部小腸に流れ込みます。下部小腸にはGLP-1分泌細胞が豊富に存在しており,GLP-1分泌が刺激され,そのためにインスリン分泌が刺激され,耐糖能が改善するというものです(文献3)。実際に,肥満外科手術後にGLP-1分泌が上昇することが多数報告されています。同様に,胃癌術後にもGLP-1が上昇することが報告されています(文献4)。Roux-en-Y法再建術では,食物は上部小腸をバイパスし,下部小腸に流れ込み,GLP-1分泌が刺激されます。このような機序も胃切除術後の血糖コントロール改善に寄与している可能性があると考えられます。
1) 近藤高志, 他:日消外会誌. 1986;19(8):1689-98.
2) Schauer PR, et al:N Engl J Med. 2014;370(21):2002-13.
3) Vetter ML, et al:Ann Intern Med. 2009;150(2):94-103.
4) Yamamoto H, et al:Dig Dis Sci. 2005;50(12):2263-7.