過去の研究により染色体の形態に異常があっても保因者の表現型・リプロダクション・染色体不分離に影響のないものを正常変異と定義し,その頻度は2~3%である。正常変異の大部分が両親からの優性遺伝であるが,突然変異もある。代表的な正常変異は,9番染色体腕間逆位〔inv(9)(p12
q13)〕であり,約2%の頻度で存在する。inv(9)では,すべての例が親からの優性遺伝であり,de novoの報告はない。そのほかの正常変異には,ヘテロクロマチン・セントロメア近傍の変異〔1qh+,9qh+,16qh+,inv(1),3ph,10ph,16ph,18ph〕,アクロセントリック染色体短腕・茎部(21
p-,21pstkstk,21ps+など),Yの長さの変異〔Yqh+,inv(Y)など〕などがある。
出生前羊水染色体検査における結果説明の方法によっては,不安が高まり妊娠中断した報告も存在する。上記のような問題を避けるために,正常変異の場合は,報告書に記載しない検査会社もある。
一方,均衡型相互転座,ロバートソン転座のような染色体構造異常もあるが,一般的には表現型は正常である。大部分は,親からの優性遺伝であるが,de novoも存在する。羊水検査で児に均衡型相互転座を発見したときは,両親が染色体正常ならば胎児は6~7%の確率で表現型異常を持つ可能性がある。
正常変異との相違は,染色体不分離などにより習慣流産,不均衡型転座の児が出生する可能性がある点で,正常変異と同様のカウンセリングをしないよう留意する必要がある。
▼ 梶井 正:染色体異常を見つけたら. 日本人類遺伝学会.
[http://www.cytogen.jp/index/download.html]