舌痛症は口腔心身症のひとつとして分類され,確立された薬物療法がなく,しばしば治療抵抗性である。西洋医学的には治療抵抗性であっても漢方薬が奏効することは多いため,当科開設後5年間の舌痛症患者の漢方治療経過を後方視的に調べた。
全39例が,標準的治療を2つ以上受けるも奏効せず,治療抵抗性であった。5割以上の症状改善が得られた39例中23例(59.0%)においてさらなる解析を行ったところ,有効かつ頻用された漢方処方は清熱補気湯を筆頭に4例,味麦益気湯3例の順であり,一定の傾向は認められなかった。そのため,漢方処方単位ではなく生薬単位で頻用されたものを調べたところ,四君子湯を構成する生薬4つ(甘草・人参・茯苓・朮)の使用頻度が突出しており,以下,当帰・麦門冬・生姜・芍薬・柴胡・陳皮の順であった。それら頻用された生薬の薬効から考察すると,治療抵抗性の舌痛症においては,①四君子湯を必要とするような胃腸機能・エネルギーの低下(気虚)が最も重要な要因として存在し,かつ,②当帰・麦門冬・芍薬を必要とするような乾燥・潤滑液不足,③柴胡・陳皮を必要とするような炎症・psychosomaticな要素なども複合的に影響して症状が発現しており,それらの改善を図ることが治療のキーポイントとなっている可能性が示唆された(文献1)。
1) Okamoto H, et al:Evid Based Complement AlternatMed. 2013;2013:354872.