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卵巣機能低下症例に対する不妊治療 【卵胞活性化療法(IVA)の開発・臨床応用に成功】

No.4817 (2016年08月20日発行) P.59

河村和弘 (聖マリアンナ医科大学生殖医療センター センター長)

登録日: 2016-08-20

最終更新日: 2016-10-30

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【Q】

不妊症症例のうち,特に卵巣機能低下症例に対して,排卵誘発などが困難であるため治療に難渋することがあります。患者への説明や治療法の提示を含め,聖マリアンナ医科大学・河村和弘先生にご教示を頂きたく存じます。
【質問者】
吉野 修:富山大学大学院医学薬学研究部産婦人科学 准教授

【A】

卵巣機能低下とは,卵巣内の卵胞数が減少し,定期的な卵胞発育がみられなくなり,月経不順,エストロゲン低下症状,排卵障害による不妊などをきたす状態です。
胎児期に形成された原始卵胞は,出生後は体内において再度形成されず,加齢とともに減少していきます。残存卵胞数の減少に伴い上記の症状が出現し,残存卵胞数が1000個以下になると,原始卵胞の活性化が起きず発育卵胞のリクルートが停止して閉経に至ります。通常は52歳頃で閉経しますが,何らかの病因により急激に卵胞が減少する場合があり,40歳未満で閉経する早発卵巣不全という病態があります。
このような卵巣機能低下症例では,残存卵胞の減少のため排卵誘発を行ってもまったく卵胞発育が認められないか,ごくわずかな卵胞発育しか認められなくなります。患者への説明として,どんな治療を行っても減少した卵胞数を増やすことはできないこと,卵胞が減少するのを停止させることも不可能であることを伝え,完全に閉経する前の月経不順が出現している時期の患者であれば,比較的排卵誘発に反応し卵胞発育が得られるので,早期に治療を進めていくことを勧めます。また,当院ではこの段階の卵巣機能不全の独身女性に対して,妊孕性温存を希望する場合は卵子凍結保存を勧めています。卵胞減少がさらに進み無月経となった患者に対する最も確実な不妊治療は,提供卵子を用いた体外受精胚移植となりますが,多くの患者は自らの卵子での妊娠を切望しています。
私たちは,閉経に至った患者でも卵巣内に卵胞がまだ残存していることに着目し,薬剤を用いて残存卵胞を人為的に活性化させ卵胞を発育させる卵胞活性化療法(in vitro activation:IVA)の開発・臨床応用に成功しました。IVAでは腹腔鏡下に片側卵巣を摘出し,残存卵胞が含まれている卵巣皮質を単離して1mm大に細切し,卵胞の活性化に必要なPI3K活性化薬を用いて体外組織培養を行います。培養後に卵巣断片を洗浄し,腹腔鏡下に卵管漿膜下に移植します。移植後は,排卵誘発を含むホルモン療法を施行することで,60%の患者で卵胞発育が得られるようになります。これまで当院では,2013年に世界初のIVAによる妊娠・分娩を報告してから,2例の妊娠例と1例の出産例を報告しました(文献1,2)。また,海外にてもIVAの再現性は確認され,スペイン,中国で既に妊娠例が出ています(文献2)。
IVAでは,卵巣摘出時に組織検査にて残存卵胞の有無を確認していますが,術前に残存卵胞の有無を予測することは現行のホルモン検査では困難です。上記の組織検査の結果から,最も信頼性の高い指標は無月経期間でした。IVAが奏効した平均無月経期間は約3年,最長は9年であり,長期の無月経患者はIVAの適応にはなりません。最近は,血中抗ミュラー管ホルモン値を測定することで,ある程度卵巣機能を評価することが可能となっています。したがって,月経不順を放置せず,卵巣機能を一度は評価する啓蒙活動も大切と考えます。

【文献】


1) Kawamura K, et al:Proc Natl Acad Sci U S A. 2013;110(43):17474-9.
2) Kawamura K, et al:Hum Reprod. 2015;30(11):2457-60.

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