2002年の米国のWHI研究の中間報告は,ホルモン補充療法(HRT)に対する環境を一変させた
WHI研究のサブ解析による見直しや,新しい知見が出されるにつれ,WHI研究の結果を他の集団に当てはめることは,妥当ではないことが明らかとなってきた
より安全にHRTを行うためには,①エストロゲン製剤の種類の選択,②低用量化,③投与ルート,④黄体ホルモンの種類の選択,⑤投与時期を考慮した個別化,が必要である
HRTを安心して行うためには,良好な医師─患者関係の構築が重要である
ホルモン補充療法(hormone replacement therapy:HRT)は,閉経後の女性や両側卵巣摘出女性に対しエストロゲン単独投与,あるいは黄体ホルモンとの併用(ただし,子宮を有する女性では)を行う療法である。20世紀の後半には,高齢女性の健康維持・増進を目的に,米国ではおよそ600万人の女性にHRTが施行されていた1)。HRTがこれほど普及していたのは,高齢化社会の到来に加え,閉経後女性に特有な疾患の発生にエストロゲンの欠乏が深く関与していること,すなわち動脈硬化症,脂質異常症,認知力低下,骨粗鬆症などの病態のメカニズムに対する理解が深まったこと,加えてHRTは失われたホルモンを補うものであるとの認識が定着し,さらにはその効果を実証した多くの臨床データが蓄積し,医療関係者ばかりでなく一般女性においてもHRTの有用性に対する意識が高まったことが背景にある。
ところが,HRTの効果を検証する目的で行われた大規模臨床研究,いわゆるWomen’s Health Initiative(WHI)研究の中間報告1)では,HRTの効果を認めつつも,その総合評価において,「HRTは,有益性よりもリスクのほうが高い」との結論が発表された。本報告は,マスメディアを通じて全世界に発信されたために,HRTに対する期待や評価は瞬く間に後退する事態となった。同時にWHI研究に対しては,その正確性において様々な検証が行われ,WHI研究は特殊な対象で行われた臨床試験であり,その結果を他の集団に当てはめることは妥当ではないとされるようになった。
現在では,より安全にHRTを行うための新しい知見が集積され,特に長期使用におけるガイドラインや指針が作成されてきた2)~4)が,その姿勢は,国や組織により同一ではない。
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