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(3)ホルモン補充療法の対象者─ヘルスケアとしての広がりと将来[特集:ホルモン補充療法(HRT)の変遷と現状]

No.4865 (2017年07月22日発行) P.39

髙松 潔 (東京歯科大学市川総合病院産婦人科教授)

小川真里子 (東京歯科大学市川総合病院産婦人科准教授)

登録日: 2017-07-21

最終更新日: 2017-07-19

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  • ホルモン補充療法(HRT)の有用性がきわめて高いとされるものは,のぼせやほてりといった血管運動神経障害様症状,萎縮性腟炎・性交痛の治療,骨粗鬆症の予防と治療であり,更年期の抑うつ症状,脂質異常症の治療や皮膚萎縮の予防にも有用性が高い

    アンチエイジングの効果も期待されており,死亡率が低下することが示されている

    近年,さらなる適応の拡大が検討されており,データが集積されつつある

    乳癌のリスクへのHRTの影響はとても小さいことでコンセンサスが得られており,逆に大腸癌,胃癌,食道癌,肺癌等はHRTによりリスクが低下することが知られている

    HRTは,閉経後の愁訴に対して,施行可能かどうか検討する価値のある治療法である

    1. HRTの歴史と適応の変遷

    ホルモン補充療法(hormone replacement therapy:HRT)は,1890年にフランスの生理学者であったBrown-Séquardがブタの卵巣抽出物を知り合いの助産師に投与したところ,「女らしくなった」ことがその始まりとされている。当時,流行していた動物の臓器や臓器製剤を用いて病気や機能障害を治療する臓器療法(organotherapy)の1つであり,適応としては女性性の回復,QOLの維持・向上と言えよう。

    その後,ホルモンという考え方が普及し,1942年には米国で初めてエストロゲン製剤として現在も使用されている結合型エストロゲン(プレマリン®)が発売されたが,HRTとして広まったのは,米国の婦人科医Wilsonが1966年に発刊した“Feminine Forever”(邦題『永遠の女性』)がきっかけと言われている。「閉経に伴う諸症状は,エストロゲン低下が原因であり,エストロゲン服用により改善することもできるし,防ぐこともできる。すべての女性は,どの年齢にもかかわらず,一生にわたり満足した性生活を送ることができる」と記述したことが,常に若くありたいという女性の琴線に触れ,HRTは大ブームとなった。

    その後,1986年には,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)によって,骨粗鬆症の治療にHRTを用いることが承認されており,心疾患への効果への期待から,1992年には,米国内科学会(American College of Physicians:ACP)より「すべての女性は,予防的なHRTを考慮すべきである」という推奨が出されている。さらに,1990年代には,更年期障害,骨粗鬆症,脂質代謝以外にも,皮膚への効果,歯牙の維持や変形性関節症リスクの低下など,いわゆる予防医学としてアンチエイジング的な効果をも期待し,閉経後の万能薬的な扱いとなりつつあった1)

    しかし,1998年にランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)であるHERS(Heart and Estrogen/Progestin Replacement Study)において,「HRTは,冠動脈疾患の二次予防には効果がない」ことが報告された。2002年には,同じく大規模RCTであるWomen’s Health Initiative(WHI)研究におけるHRT試験のうち,有子宮女性に対するエストロゲン+黄体ホルモン併用投与試験が主として乳癌リスク上昇を理由として途中中止となったことから,HRTへの懸念が広がり2),WHIショックとも言える状況となった。

    以降,HRTの有害事象に対する報告が相次ぎ,2004年に報告されたWHI研究における子宮摘出後女性に対するエストロゲン単独投与試験においても,冠動脈疾患への有用性が認められなかったことなどから3),HRTには逆風が吹く状態となった。米国FDAは,2003年にHRT製剤の添付文書を改訂し,HRTは,閉経に伴う中等度から高度の血管運動神経障害様症状(ホットフラッシュや寝汗),腟や外陰部萎縮症状(腟乾燥感や性交痛など),骨粗鬆症の予防に対し,「必要最少量で最短期間」投与するべきであるとしており,現在もHRT製剤の適応の多くはこの3つとされている。

    一方,WHIショックから10年以上が経過し,この間に新しい知見やWHIデータの再解析などから,HRTのリスクとベネフィットについてはパラダイムシフトがみられる。既に,乳癌リスクに及ぼすHRTの影響はきわめて小さいことに国際的なコンセンサスが得られており,施行期間などについても,一律の制限ではなく,症状に応じてフレキシブルな対応をすることが推奨されている4)。わが国においても,「ホルモン補充療法(HRT)ガイドライン2012年度版」が策定され,安全・安心かつ有効にHRTが施行できる状態になっている5)。近年では,国際的にもさらにHRTの適応を拡大する考え方が主流となりつつあり,HRTガイドライン2017年度版の改訂も進んでいる。そこで本稿ではHRTの適応について最近の考え方をまとめる。

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