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(3)新しい腫瘍マーカーをめざして─次世代の研究開発戦略[特集:腫瘍マーカーの実力]

No.4867 (2017年08月05日発行) P.42

山田哲司 (国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター教授)

登録日: 2017-08-04

最終更新日: 2017-08-02

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  • スクリーニングに有用性が示された腫瘍マーカーは前立腺特異抗原(PSA)に限られる

    腫瘍マーカーの適切な陽性的中率は,次段階のスクリーニングの効率によって決まる

    アポリポA2蛋白アイソフォームは膵癌患者で低下する早期診断血液マーカーである

    日本医療研究開発機構(AMED)の次世代がん医療創生研究事業では,新しい腫瘍マーカーの探索と検証を支援している

    腫瘍マーカーの第三者検証を行う仕組みがわが国にも必要である

    1. 腫瘍マーカー

    1 腫瘍マーカーの特性と活用

    腫瘍マーカー(tumor marker)は,基本的に腫瘍細胞により産生され,患者の血液,尿,便,そのほかの体液などに検出される蛋白質やペプチド,糖鎖などの分子で,多くの場合特異抗体で検出され,酵素免疫測定法などによって定量することで臨床に用いられている。通常,健常者に比べ高値を示し,腫瘍の診断や鑑別診断,進行度の判断,治療効果の判定,治療後の経過観察等,臨床上何らかの有用性を示すものを言う。理想を言えば,特異度が高く,健常者にはまったく検出されないものが望ましいが,現実的には感度と特異度の両面を兼ね備えた腫瘍マーカーはほとんどないのが現状である。

    前立腺特異抗原(prostate-specific antigen:PSA)は,前立腺疾患に高い特異性を示し,がんのスクリーニングに有用性が示された唯一の腫瘍マーカーである。PSAを用いた前立腺癌の検診は有効性について議論がある1)が,PSA陽性者に対する二次スクリーニングと診断・治療,さらにはサーベイランスが十分確立していないことが問題であって,PSA自体の良し悪しを問う議論は焦点がずれているように筆者は考える。

    CA19-9(carbohydrate antigen 19-9)を一次スクリーニングに用いた膵癌検診の前向きな臨床研究が,韓国において7万人規模で実施されている2)。この研究はランダム化比較試験ではなく,CA19-9のスクリーニングにおける有用性を明らかにすることは目的でなかったが,CA19-9の膵癌特異性が低く,陽性的中率が十分でなかったことが問題であったと報告されている。しかし,上記のようにスクリーニングの適切な陽性的中率は,次の段階のスクリーニング(二次スクリーニング)の効率(被験者への負荷,コスト等)によって決まる。消化管の内視鏡検査のような効率の良い二次スクリーニング法が膵癌で開発されれば,結果の解釈が異なるはずである。

    2 なぜ,腫瘍マーカーによる早期診断が困難なのか

    がんの治療成績の向上のために早期診断が最も有効であることは論を俟たない。しかし,がん細胞から分泌された腫瘍マーカー分子を,早期のがん患者の血中で検出することはしばしば困難である。これは体重60kgの人に2gの腫瘍ができた場合を想像してみればわかりやすい。全身の1/3万の量の腫瘍が分泌する分子を末梢血中で検出するのは,マーカーにかなり高い特異性がなければ不可能である。そのため,腫瘍(細胞)に反応して生体が産生する分子(たとえば自己抗体)が早期診断に利用できるのではないかと期待されている。p53に対する自己抗体がその代表例で,わが国では保険適用されている(「腫瘍マーカーの現状」の項を参照)。

    一方,筆者らが同定したアポリポA2蛋白(apolipoprotein A2)のヘテロダイマー(heterodimer)・アイソフォーム(isoform)は,膵癌患者や膵癌の高リスク群で逆に減少する血液マーカーである3)4)。膵臓には大量のカルボキシペプチダーゼ(carboxypeptidase)があり,膵癌によってわずかでも膵組織の破壊があれば,カルボキシペプチダーゼが血中に流出し,この酵素に感受性の高いヘテロダイマーが減少するものと考えられる。アポリポ蛋白質は主に肝臓で産生されるため,厳密な意味で腫瘍マーカーとは言えないが,定量・再現性の良い測定系であり,確実に減少を検出できれば早期診断に応用できると考えられる。

    3 バイオマーカー

    腫瘍マーカーより広い意味で用いられる言葉としてバイオマーカー(biomarker)がある。米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)によって,バイオマーカーは「様々な生理的な状態,疾患の病態の変動や,様々な治療に対する反応などと相関する生体試料から得られる何らかの客観的な指標」と定義されている。バイオマーカーは腫瘍の検出に限らず,がんの再発や転移,患者の生命予後,治療の奏効性や副作用の予測に応用され,個別化医療に貢献することが期待されている。

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