WHOは“Global status report on alcohol and health 2014”で,世界の心疾患死亡の8%はアルコールに起因すると報告している。また,わが国の疫学調査では,男性ではエタノール換算で1日当たり69g(日本酒換算3合)以上,女性では46g(同2合)以上の摂取から心疾患死亡リスクが上昇し,飲酒量と心疾患死亡リスクには関連があることが示されている1)。
アルコールの過剰摂取は心筋を障害し,心不全や不整脈を起こし心臓死に至るとされる。アルコールによる心障害の機序は複雑でいまだ不明な点が多いが,エタノールが心筋を直接障害することで,心筋細胞のアポトーシス,ミトコンドリア機能障害や収縮蛋白質の発現異常などを引き起こすことが知られている2)。また,心筋細胞のアポトーシスを誘導する一方で,それに対抗する細胞保護的に働くシグナル経路を破綻させるなど,エタノールによる心筋障害には複数の機構が協調的に関与していることが示唆されている3)。
アルコールによる心障害の治療には,酸化ストレスやアポトーシスなどの障害機構を抑制するだけでなく,同時に心筋の保護・修復機構を活性化させるような治療法を考える必要がある。
【文献】
1)Inoue M, et al:J Epidemiol Community Health. 2012;66(5):448-56.
2)Gardner JD, et al:Compr Physiol. 2015;5(2): 791-802.
3)Noritake K, et al:PLoS One. 2015;10(8): e0136952.
【解説】
則竹香菜子*1,上村公一*2 *1東京医科歯科大学法医学 *2同教授