急性腹症の初期対応の基本は2ステップで考える。ステップ1でバイタルサインの異常を検索し,異常があれば蘇生と根治的治療を並行して行う。バイタルサインに異常がなければステップ2に進み,外科的処置が必要な病態がないかを検索する
初期輸液は,末梢静脈ルートから晶質液で速やかに開始する。貧血に対して,血中ヘモグロビン値7~9g/dLを目標に赤血球輸血を行う。腹腔内感染症を疑った場合,血液培養採取後,できるだけ早期に抗菌薬を投与する
腹痛に対しては,診断前早期から鎮痛薬の投与が推奨される
急性腹症は救急外来で最も接する機会が多い疾患群である。同時にこれまで,その診療を具体的に示す教科書はなく,一般的には上級医の診療を「見て覚える」典型的疾患でもあった。
しかし,エビデンスに基づく『急性腹症診療ガイドライン2015』1)(以下,GL)が作成され,その方法の1つのあり方が明確に示された。本稿では,GLが示す初期対応のポイントについて概説したい。
GLは基本的初期対応として2 step methodsを推奨している(図1)。急性腹症には急激に様態が悪化する疾患が含まれており,ステップ1でlife-threateningな(生命を高度に脅かす)病態と疾患を鑑別する。ステップ2では,life-threateningではなくとも緊急手術などの外科的治療が必要な疾患を鑑別する。
ステップ1では患者のバイタルサインABCDを確認する。ABCDとは,A:Airway(気道),B:Breathing(呼吸),C:Circulating(循環),D:Dysfunction of central nervous system(意識障害)である2)。ABCDのいずれかに異常がある場合,緊急処置(蘇生)が必要となる。A,Bの異常では,気道確保をして呼吸に問題があれば酸素投与を行うか,さらに状態が悪ければ気管挿管を行い人工呼吸器の装着が必要となる場合がある。Cの異常では,循環の確保のために静脈路を確保し初期輸液を開始する。Dに関しては,普段の意識レベルと比較して意識低下がある場合,敗血症や出血性ショック,高アンモニア血症などの重篤な病態が合併している可能性がある。ABCDに異常のある患者に対して,根治的治療が困難な場合は,気道の確保や静脈路確保などの初期治療を行った上で専門施設への転院を躊躇してはいけない。ステップ1で問題を呈する疾患を図1に示す。
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