プロトンポンプ阻害薬(PPI)長期投与例ではClostridium difficile感染症(CDI),高ガストリン血症による胃病変,内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)後の総胆管結石再発に注意すべきである
認知症,骨粗鬆症,小腸内細菌異常増殖(SIBO),collagenous colitisもPPI投与例での発症が危惧されている
肺炎はPPI開始初期に発症しやすい
Clostridium difficile感染症(Clostridium difficile infection:CDI)は,その多くが抗菌薬投与後の腸内細菌叢の攪乱によって生じ,医療施設内での院内感染が問題となる。高齢者など免疫力が低下した入院患者に多く認められ,欧米を中心に患者数が急増し問題となっている。近年,CDIとプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)の関連が示唆されている。PPIを内服している患者では再発性CDIのリスクが約4.2倍であった1)。また,Bavishiらのシステマティックレビューによると,PPIの長期投与はC. difficile腸炎のリスクを2~3倍に増加させる2)。Oshimaらのメタアナリシスでは,PPI使用はCDIの発症リスクと有意に相関した(OR:2.34,95%CI;1.94~2.82,P<0.00001)3)。PPI投与がCDIを発症させる機序は明らかではないが,これらの統計学的な結果からPPIがCDIの要因のひとつであると言ってよさそうである。PPI投与患者が腸炎症状をきたした際は,CDIを鑑別に挙げるべきである。
PPIは上部消化管の酸関連疾患における欠かせない薬剤である反面,PPI長期投与により胃の腫瘍性病変が出現することが近年報告されている。PPIは胃酸分泌を抑制し胃内pHを上昇させるため,胃前底部に存在するG細胞からのガストリン分泌が促進される。したがってPPIの長期投与は高ガストリン血症を持続させるため,ガストリンによる増殖促進作用が腫瘍性病変発症をきたすと推測されている。Tran-Duyらは4つのstudyに関しメタアナリシスを行い,PPI投与が胃癌のリスクを増加させていたことを明らかにした(OR:1.43,95%CI;1.23~1.66)4)。ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染患者に対するPPI長期投与により,胃内の過形成ポリープから腺癌を発症したとの症例報告がある5)。
以上から,胃癌の主な原因はH. pylori感染であるものの,H. pylori除菌で用いるPPIを長期投与すると,かえって胃癌のリスクになりうることが示唆される。特にH. pylori感染を伴いつつも,薬剤アレルギーや耐性菌などの問題で除菌が困難な症例に対し,消化性潰瘍予防のためにPPI長期投与をしているケースでは,胃癌発がんリスクが高いことを念頭に置いて厳重な経過観察が必要と考える。
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