現在の植込み型心臓ペースメーカの適応となる疾患,機種についてお教え下さい。
(長崎県 N)
医学的適応決定にあたり,徐脈性不整脈による症状の質と重症度,ならびに症状と徐脈性不整脈の因果関係把握が最も重要です。一般に,無症候性徐脈性不整脈は適応となりません。しかし,どこまで無症候と診断できるか,疑問です。
現在のペースメーカ植込みの平均年齢は80歳です。高齢者においては,自覚症状を正確に把握することが困難な場合があります。植込み前は無症候または軽症と思われた場合でも,ペースメーカ植込み後に劇的にADL,QOLの改善がみられる患者がいます。意識消失や労作時呼吸苦が徐脈性心疾患の原因であるのに,高齢者では加齢や認知機能低下による症状と判断されてしまう場合があります。症状と徐脈性不整脈の関係を見きわめることが肝要です。
適応疾患は心臓刺激伝導系の洞結節機能の低下による洞不全症候群と房室結節伝導能の低下による房室ブロックです。頻度は低いものの徐脈性心房細動が植込み適応となる場合があります。各疾患の詳細な適応基準に関しては日本循環器学会循環器病ガイドラインシリーズ(http://www.j-circ.or.jp/guideline/)の「不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)」をご参照下さい1)。
従来のペースメーカは電池と電子回路からなる電気刺激発生装置(generator)と電気刺激を心臓に伝えるための導線(lead)からなります。generatorは前胸部に,leadは鎖骨下静脈を介して心臓に留置することが一般的です。generatorに心房用と心室用の2本のleadを接続し,それぞれセンシングとペーシングを行うDDDタイプと,心房または心室,いずれか一方にleadを留置し,センシングまたはペーシングを行うSSI(心房ならAAI,心室ならVVI)タイプがあります。どのタイプを選択するかは,基礎疾患,年齢,患者状態,生活状況,社会的要因などにより決定されます。
ペースメーカの作動モードは,プログラマーと呼ばれる通信機器により設定可能です。ペースメーカの中には,体動,呼吸,リードインピーダンス等の変化に応じて心拍数を変動させる機能があります。また,家庭内に通信端末を置くことにより,ペースメーカ本体の情報をインターネット経由でモニタリングすることが可能です。一部のペースメーカは特定の施設でMRI撮影が可能です。以上のように,現在のペースメーカは多様な機能を備えています。
2017年9月から,小型化したgeneratorを直接右心室に留置するリードレスペースメーカ(図1b)が,わが国でも使用可能となりました。欧州は2015年4月,米国は2016年4月から,同タイプが使用されています。ペースメーカ適応基準におけるVVI型が適応で,心房細動や心房粗動の併存,またペーシング時の房室伝導の同期の必要性,さらに患者の年齢,活動レベルなどを考慮した上で,使用は検討されるべきです。特に,経静脈リードの留置を避けることが望ましい患者に対しては,第一優先の選択肢となります2)。
【文献】
1) JCS Joint Working Group:Circ J. 2013;77(1): 249-74.
2) Reynolds D, et al:N Engl J Med. 2016;374(6): 533-41.
【回答者】
丹野 郁 昭和大学江東豊洲病院循環器内科教授