24日、2017年度改訂ガイドラインに関する記者会見を開催し、改訂された7本のガイドラインのうち4本について解説した(残り3本は25日の記者会見で解説)。
解説したのは、研究班班長を務めた市田蕗子氏(富山大学)。
ガイドラインの改訂は2011年以来6年ぶりで、近年の診断・治療技術の進歩を反映した全面改訂となった。加えて「診療体制の整備」、「小児科から内科への移行期医療の問題」にも言及している。背景には患者数の増加がある。
先天性心疾患は100人中1人に認められ、治療技術が進んだ現在では95%が成人となる。そのため患者総数は約50万人に及び、心筋梗塞の年間発症数を上回る。先天性心疾患はもはや稀な疾患ではないにもかかわらず、2011年時点で成人先天性心疾患専門施設としての条件を満たすのは14施設のみだった。そのためガイドラインには、人材育成を含め、あるべき診療体制の姿についても記載することとなった。
また、先天性心疾患児は成長に伴い、保護的な支援を受ける小児から、自己決定で医療を受ける成人に移行せざるを得ない。ここまで患者が増えた以上、医療機関による支援に加え、本人による病状理解や自己管理などが必要となる。この移行を上手に行わなければ、受診中止も含め、患者を危険な状態に置きかねない。そのため、先天性心疾患児が成人期医療へ移行する際の、注意事項も詳細に記されている。
解説は研究班班長の中谷 敏氏に代わり、大原貴裕氏(東北医科薬科大)が担当した。
新ガイドラインは旧版に比べ、研究班参加学会が増えた。また作成班にも歯科を招くなど、より広い専門科で構成した。
主な変更点は、①画像診断、細菌学的診断の進歩を記載、②早期手術の適応、中枢神経系合併症例に対する手術時期、③予防法——だという。また新たな章として、デバイス感染、非細菌性血栓性心内膜炎、右心系感染性心内膜炎(IE)、妊娠中IE、高齢者IEが加わった。
予防に関して議論になったのは、「歯口科手技に際しての予防抗菌薬の使用」だったという。2008年のわが国のガイドラインは積極推奨の立場だが、近年の欧米ガイドラインは一様に、抑制的な姿勢を取るようになった。しかし研究班が最新のエビデンスを再検討したところ、2008年ガイドライン通りの推奨で問題ないと明らかになり、積極推奨が維持された。
研究班班長を務めた青沼和隆氏(筑波大学)が解説した。
本ガイドラインは2007年に発行され'12年に小改訂された「QT延長症候群とBrugada症候群診療ガイドライン」の改訂版である。'11年から'17年にかけて蓄積された多くのエビデンスを反映し、大改訂となった。それに合わせ名称も、より一般的なものに改められた。
先天性QT延長症候群やBrugada症候群、早期再分極症候群など7つの遺伝性不整脈について、それぞれ「総論」、「疫学」、「遺伝的背景」、「診断」、「リスク評価」、「治療」が示されている。
臨床で使いやすいよう、先天性QT延長症候群では臨床的リスクスコアを用いた診断基準が示され、Brugada症候群と早期再分極症候群では、診断・治療の手順をフローチャート化するなどの工夫がされている。
研究班班長の筒井裕之氏(九州大学)が解説に当たった。この記者会見では、「予防」と「緩和ケア」の重要性が強調された。
新ガイドラインでは、心不全を病態の進行具合により4つの「ステージ」に分類した。まだ心不全を発症しておらず、心疾患危険因子のみを認める段階が「ステージA」、心不全未発症だが器質的心疾患を認めると「ステージB」、心不全を発症すると「ステージC」、治療抵抗性を呈す段階に至ると「ステージD」である。このようにステージ化することにより、「次ステージに移行しないように」という予防意識を持ってもらうのが狙いだという。
また今回の改訂では、これまでのガイドラインでは言及がなかった「緩和ケア」が書き加えられた。緩和ケアは「ステージC」心不全から適応となる。治療抵抗性となった「ステージD」以前からの開始推奨である。このような早期からの緩和ケアを推奨したのは、慢性心不全では「終末期」がいつ訪れるかの判断がしばしば困難となるためだという。すなわち安定した状態から急激に増悪して死にいたる癌と異なり、慢性心不全は急性増悪を繰り返しながら徐々に増悪し、最後も急速に悪化して死に至る。そのため、「心不全が症候性となった早期の段階から」の実践が推奨されることとなった。
なお本ガイドラインは、学会HPからのPDF版無料ダウンロードに加え、利便性を高めるためエッセンスのみをまとめた「ポケット版」も作成された。冊子とモバイルアプリの2形態が発売されている。