閉経女性の子宮内膜症罹患率は約2~5%とされ,発症にはエストロゲン作用が重要な役割を有する
閉経後子宮内膜症には,手術療法の有用性が高い
子宮内膜症患者にホルモン補充療法を行う場合には,再発やがん化に注意して定期的に観察する
卵巣チョコレート囊胞のがん化の診断においては,壁在結節の有無と急速な囊胞径増大に注意する
子宮内膜症は生殖年齢女性のおよそ10%が罹患し,疼痛と不妊を主症状とする。本症はエストロゲン依存性であることから,閉経後には自然に軽快するが,新たに発症あるいは再発することがある。閉経女性における正確な子宮内膜症罹患率は不明であるが,およそ2~5%と推定されている1)。疼痛などの症状を有する場合は,手術による根治術が有用である。
子宮内膜症患者約4万人を対象とした疫学調査において,閉経後女性の割合は2.6%であり,そのうち80歳以上の高齢者が9人含まれていた1)。子宮内膜症が,生涯にわたる管理を要する疾患であることを裏付ける事実である。また,頻度は低いが,子宮内膜症性卵巣囊胞(卵巣チョコレート囊胞)のがん化には注意が必要である。閉経後の子宮内膜症患者に対するホルモン補充療法(hormone replacement therapy:HRT)の是非については,エビデンスが十分ではないことから,再発やがん化に関して長期間の観察が必要である。
閉経女性のエストロゲン産生源は末梢組織(主には脂肪組織など)であり,アンドロゲンから変換されるエストロン(E1)が主である。E1は子宮内膜症組織中の17β-hydroxyl steroid dehydrogenase(17β-HSD) type 1により,活性の強いエストラジオール(E2)に変換される。その一方で,正常な子宮内膜組織と異なり,子宮内膜症組織では17β-HSD type 2が欠損しているために,E2が蓄積する。その結果,局所で高濃度となったE2がプロスタグランジンE2産生を刺激することにより,疼痛が発生すると考えられている。
Bendonらは,閉経後に起こる子宮内膜症について,「エストロゲン閾値説」を提唱している2)。微細あるいは一時的な病変が,エストロゲン濃度が閾値を超えると局所で活性化される結果,閉経後でも病巣が刺激されるという仮説である。Tokiらは,21例の閉経後子宮内膜症(稀少部位子宮内膜症も含む)を組織学的に検討しており,閉経後の低エストロゲン状態においても,子宮内膜症組織がホルモン感受性や細胞増殖能を有することを示している3)。
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