痛風発作の緩解や予防に用いられるコルヒチンがごく低用量で,心筋梗塞(MI)例の心血管系(CV)イベントを抑制することが,5000例近くを登録したランダム化試験“COLCOT”の結果,明らかになった。2017年に報告されたCANTOS試験1)に引き続き,抗炎症作用を有する薬剤による,アテローム性動脈硬化イベント抑制が示された形となった。Jean-Claude Tardif氏(モントリオール心臓研究所研究センター,カナダ)が報告した。
アテローム性動脈硬化の進展には,脂質代謝異常に並び,炎症が大きな役割を果たすことが知られている。そこでTardif氏らは,強力な抗炎症作用が知られているコルヒチンが,MI既往例のアテローム性動脈硬化イベントとCV死亡を減少させるとの仮説を立て,検証することとした。
対象となったのは,MI発症から30日以内で,至適薬剤治療を受けている4745例である。重症心不全例や左室駆出率低下例は除外されている。平均年齢は61歳,93%がPCIを施行されていた。またほぼ全例が抗血小板薬とスタチンを服用し,β遮断薬も90%近くが服用していた。
これら4745例は,コルヒチン0.5mg/日群(2366例)とプラセボ群(2379例)にランダム化され,22.6カ月間(中央値),二重盲検法で追跡された。
その結果,1次評価項目である「CV死亡・非致死性心停止・MI・血行再建を要する不安定狭心症・脳卒中」の発生率はコルヒチン群:5.5%,プラセボ群:7.1%となり,コルヒチン群における有意なリスク低下が認められた(ハザード比 [HR]:0.77,95%信頼区間[CI]:0.61-0.96)。これはIntention-to-Treat解析による数字だが,脱落例やプロトコール違反例を除いて解析しても同様に,有意なリスク低下が観察された(HR:0.71,95%CI:0.56-0.90)。
一方,有害事象は,悪心(1.8% vs. 1.0%,P=0.02)と腹部膨張(0.6% vs. 0.2%,P=0.02),肺炎(0.9% vs. 0.4%,P=0.03)が,コルヒチン群で有意に多かった。一方,下痢に関しては有意差はなかった。
指定討論者として登壇したAruna Pradhan氏(ハーバード大学,米国)は作用機序として,炎症性サイトカインであるインターロイキン6の上流に位置する,NLRP3インフラマゾームをコルヒチンが抑制した結果ではないかと推論していた。なお同氏によれば,安定冠動脈疾患例を対象に,アテローム性動脈硬化イベント抑制作用をコルヒチンとプラセボで比較する,ランダム化二重盲検試験の“LoDoCo2”[EudraCT Number:2015-005568-40]が,来年後半には報告予定とのことである。
本試験はケベック州政府,ならびにカナダ保健研究所,複数の慈善財団から資金提供を受けて行われた。また報告と同時に,N Engl J Med誌にオンライン掲載された2)。
COLCOT試験では,MI例亜急性期に対するコルヒチンによるCVイベント抑制作用が示された。では急性期でも,PCI施行時に生ずる炎症を抑制すれば,炎症による心筋障害を抑制し,ひいては良好な転帰が期待できるだろうか。このような疑問のもと試行されたランダム化試験 “COLCHICINE-PCI”の結果が,Binita Shah氏(ニューヨーク市立大学,米国)により報告された。
COLCHICINE-PCI試験の対象は,PCI適応判断のため血管造影を施行した虚血性心疾患714例である。経口ステロイド・NSAID服用例や,ランダム化直近24時間の間にストロングスタチン開始例は除外されている。
これらはコルヒチン群(PCIの1〜2時間前に1.2mg,PCI施行直後に0.6mg)とプラセボ群にランダム化され,最終的にPCIを施行されたコルヒチン群(206例)とプラセボ群(194例)が比較された(いずれもランダム化された例の56%に相当)。平均年齢は65歳強,急性冠症候群例は約半数のみだった。またおよそ4分の1にMI既往があった。
その結果,1次評価項目である「PCI関連心筋障害」が認められたのは,コルヒチン群:57.3%,プラセボ群:64.2%で,有意差は認められなかった(P=0.19)。「心筋障害」の定義は,血中トロポニン濃度の「基準値上限超過」,あるいは「PCI施行前から20%以上上昇」である。
同様に,2次評価項目の1つである「30日間の死亡・MI・血行再々建」の発生率も,コルヒチン群:11.7%,プラセボ群:12.9%となり,有意差は認められなかった(P=0.82)。
一方,炎症性マーカーである,IL-6とhsCRP濃度はいずれも,PCI施行後22~24時間にかけ,コルヒチン群で有意に低値となっていた(ただしそれ以前の時間帯では,IL-6とhsCRPとも両群間に差なし)。
指定討論者のSubodh Verma氏(トロント大学,カナダ)は,先述のCANTOS試験1)を念頭に,PCI施行前から炎症性マーカーが高値を示した例のみでの解析,あるいは安定冠動脈疾患例を除外した解析を見たいとの見解を示した。
なお現在,ST上昇型MI例に対するPCI施行後48時間以内コルヒチン開始の有用性をプラセボと比較するランダム化試験“CLEAR SYNERGY”が進行中で,2021年末終了予定である(NCT03048825)。
本試験は,VA Career Development AwardとAHAから資金提供を受けて行われた。
昨年の本学会ではランダム化試験“REDUCE-IT”が報告され,高用量エイコサペンタエン酸(EPA)製剤による,血中トリグリセライド(TG)高値例のCV死亡・虚血性脳心イベント抑制作用が明らかになった3)。今回は,その機序を考えるにあたり興味深いデータが報告された。Matthew Budoff氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校,米国)が報告したEVAPORATE試験である。スタチンへのEPA製剤追加で,不安定プラーク進展が抑制される可能性が示唆された。
EVAPORATE試験は,冠動脈プラークに対するEPA製剤の作用をプラセボと比較したランダム化二重盲検試験である。
対象は,20%以上の冠動脈狭窄を1枝に認め,スタチンを含むコレステロール低下薬服用にもかかわらず,血中TG値:135~499mg/dLだった(試験デザイン論文では200~499mg/dL)80例である。平均年齢は55歳強,約70%が糖尿病,75%強が高血圧を合併していた。スタチンは全例で服用されている。
これら80例が,イコサペント酸エチル(4mg/日,REDUCE-IT試験と同用量)群とプラセボ群に40例ずつランダム化され,二重盲検法で追跡中である。追跡期間は18カ月の予定で,今回報告されたのは,事前設置された9カ月時点の中間解析が報告された。
その結果,1次評価項目である「MDCT血管造影上の冠動脈低吸収プラーク(脂質に富んだプラークの指標)体積」増加率は,EPA製剤群で21%の低値となったものの,有意差には至らなかった(P=0.469)。
しかし,不安定プラークと考えられる「非石灰化プラーク体積」(35% vs.43%,P=0.01),ならびに全プラーク体積(15% vs. 26%,P=0.0004)の増加率はいずれも,EPA製剤群で有意に進展が抑制されていた。有用性が否定できないため,本試験は予定通り,あと9カ月間継続される。
指定討論者のStephen Nicholls氏(アデレード大学,豪州)は,本試験参加例のLDL-C値が「40~115mg/dL」(導入基準)だったにもかかわらず,プラセボ群において看過できないプラーク進展が認められた点に着目し,CVリスクとしてのTG高値の重要性を再認識する必要性を指摘した。
本試験は,Amarin Pharma Inc社の出資を受けて行われた。
本年の欧州心臓病学会(ESC)で報告されたPARAGON-HF試験では,左室収縮能の保たれた心不全(HFpEF)例に対するARB・ネプリライシン阻害薬(ARNi:Angiotensin Receptor/Neprilysin inhibitor)はARBに比べ,「CV死亡・心不全入院」を有意に抑制しなかった4)。しかし,本学会で示された追加解析の結果,この作用には男女差のある可能性が示された。John J V Mcmurray氏(グラスゴー大学,英国)が報告した。
PARAGON-HF試験の対象は,「左室駆出率(LVEF)≧45%」かつ,左室肥大・拡大とNT-proBNP上昇を認め,利尿薬使用下でNYHA分類Ⅱ~Ⅳ度だった心不全4822例である。平均年齢は73歳,LVEF平均値は58%,77%がNYHA分類Ⅱ度だった。これら4822例はARNi群とARB群にランダム化され,35カ月間(中央値)観察された。その結果,ARNi群における1次評価項目である「CV死亡・心不全入院」のリスク比(RR)は0.87(95%CI:0.75-1.01)で,ARB群と有意差を認めなかった(ESC報告)。
しかし今回,男女別に分けて解析したところ(事前設定追加解析),男性ではARNi群の「CV死亡・心不全入院」RRは1.03(95%CI:0.84-1.25)で,ARB群と有意差を認めなかった一方,女性(今回解析対象の51.7%)では0.73(同:0.59-0.90)と有意なリスク低下を認めた。性差による交互作用P値は0.017である。
そこで女性におけるイベントの内訳を見ると,ARNi群で著明な減少を認めたのは「心不全入院」のみだった(RR:0.67,95%CI:0.53-0.85)。ARNi群とARB群の心不全入院発生率曲線は,試験開始3カ月後ほどで解離を始め,観察期間を通じて離れ続けていた。一方,心不全入院が減少したにもかかわらず,CV死亡リスクに有意差はなかった(HR:1.02,95%CI:0.76-1.36)。
ARNiによる「CV死亡・心不全入院」抑制作用に男女差が生じた機序としてMcmurray氏は,①女性の方が男性よりも「LVEF:40~65%(低値)」の割合が多かった(全体の事前設定解析で,LVEF≦57%[中央値]例のみならば,ARNi群で1次評価項目リスクは有意に低),②女性では閉経後で,もとよりcGMP-PKG情報伝達系が減弱していたため,ARNiによるこの系の活性化が著明だった─などを挙げた。しかし偶然である可能性も否定できないとし,さらなる検討が必要だと述べた。
なお,指定討論者であるLynne Warner Stevenson氏(バンダービルト心臓・血管研究所,米国)は,女性のARNi群における「CV死亡・心不全入院」リスク減少率は,心不全入院既往の「ない」例に比べ「ある」例で大きく,心不全入院既往の有無による交互作用は0.050だったとする,別の解析結果を示していた。
本試験はNovartis社のサポートを受けて行われた。また報告と同時に,Circulation誌にオンライン掲載された5)。
9月に欧州糖尿病学会(EASD)で報告されたRCT “DAPA-HF” 試験6)では,2型糖尿病を合併しない心不全例においても,SGLT2阻害薬による「心不全増悪・CV死亡」への作用が示され,大きな話題となった(事前設定サブグループ解析)。本学会では,2型糖尿病非合併例におけるさらに詳細なデータが,John J V Mcmurray氏(グラスゴー大学,英国)により報告された。
DAPA-HF試験の対象は,心不全に対する至適治療下にありながら「LVEF≦40%」,かつ血中NT-proBNP値上昇を認める,NYHA分類II~IV度心不全4744例である。SGLT2阻害薬群(ダパグリフロジン10mg/日,2373例)とプラセボ群(2371例)にランダム化され,二重盲検法で18.2カ月間(中央値)観察された。
その結果,糖尿病非合併例(2605例)のみの検討においても先述の通り,SGLT2阻害薬群ではプラセボ群に比べ,1次評価項目である「心不全増悪(定義後述)・CV死亡」HRは0.73(95%CI:0.60-0.88)と,有意に低値となっていた。両群の発生率曲線は,試験開始直後から乖離を始め,差は試験終了まで開き続けた。発生率で比較すると,SGLT2阻害薬群:9.2%,プラセボ群:12.7%となり(AstraZeneca社リリースによる),必要治療者数(NNT)は29例という計算になる。
次に1次評価項目の内訳を見ると,SGLT2阻害薬群で著明に減少していたのは「心不全増悪(心不全入院,利尿薬を要した救急外来受診)」(HR:0.62,95%CI:0.48-0.80)のみであり,CV死亡のHRは0.85(同:0.66-1.10)だった。なおいずれも,2型糖尿病合併の有無による有意な交互作用は認められなかった。
次に安全性だが,腎機能増悪(推算糸球体濾過率50%以上の減少,あるいは末期腎不全移行,腎疾患死)はSGLT2阻害薬群:0.8%,プラセボ群:1.2%で有意差はなかった。また「重度低血糖」と「糖尿病性ケトアシドーシス」は,SGLT2阻害薬群,プラセボ群とも1例も報告されていない。「治療中止を要する有害事象」の発現率も,プラセボ群:4.5%,SGLT2阻害薬群:5.3%で有意差はなかった。
左室収縮能が低下した心不全(HFrEF)に対する転帰改善作用が示唆される形となったSGLT2阻害薬だが,現在,HFpEF例の転帰改善作用を検討するランダム化試験も進行している。エンパグリフロジンを用いたEMPEROR-Preserved試験(NCT03057951)は20年11月終了予定,ダパグリフロジンのDELIVER試験は21年6月に終了の予定だ。
DAPA-HF試験はAstraZeneca社から資金提供を受け実施された。
急性冠症候群例に対しては2004年に報告されたPROVE-IT試験7)以来,治療による到達LDL-C値は低ければ低いほど良いとするエビデンスが集積しつつある。では,同じ虚血性イベントである脳梗塞ではどうだろう? この点を検討したランダム化試験“Treat Stroke to Target“がPierre Amarenco氏(パリ大学,フランス)により報告された。
Treat Stroke to Target試験の対象は,フランスと韓国で登録された,アテローム性動脈硬化病変を認める,脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)近時発症の2873例である。平均年齢は67歳,TIAは14%のみだった。脳卒中・TIA発症からランダム化までの日数中央値は6.0日間,12%に脳血管障害の既往があった。
これら2873例はLCL-C目標値「70mg/dL未満」群と「100±10mg/dL」群にランダム化され,非盲検下で3.5年間(中央値)観察された。
その結果,試験期間中のLDL-C平均値は,試験開始時の135mg/dLから,「70mg/dL未満」群で65mg/dL,「100±10mg/dL」群で96mg/dLとなった。
そして1次評価項目である「CV死亡(含・突然死),脳梗塞・潜因性脳卒中,緊急頸動脈血行再建を要するTIA,MI,緊急血行再建を要する不安定狭心症」の発生率は,「70mg/dL未満」群で8.5%,「100±10mg/dL」群は10.9%となり,「70mg/dL未満」群における有意なリスク低下が認められた(補正後HR:0.78,95%信頼区間[CI]:0.51-0.98)。
ただし本試験は,スポンサーの資金不足により早期中止となっている。その結果,予定登録患者数(3786例)のみならず,1次評価項目イベント発生数も想定していた385に遠く及ばず,277のみである。なお1次評価項目は,試験開始時(2010年)の「血管系死亡,非致死性の脳卒中再発・MI」から本年5月,先述した1次評価項目に変更されている(ClinicalTrials.govによる)。
なお,LDL-C低下により増加が懸念される頭蓋内出血は,「70mg/dL未満」群でHR:1.38(95%CI:0.68-2.82)となり,有意なリスク増加は認められなかった。また韓国で登録された712例のみで検討すると,「70mg/dL未満」群における1次評価項目HRは1.11(同:0.57-2.15)で,有意差を認めなかった。ただしフランス登録例(HR:0.73,95%CI:0.57-0.95)との有意なばらつきは認められなかった(交互作用P=0.26)。
本試験はフランス政府,ならびに脳卒中サバイバー非営利団体(SOS–Attaque Cérébrale Association)からの出資で行われた。またPfizer,Astra-Zeneca,Merckの各社からも条件なしの補助金を受けた。
本研究は報告と同時に,N Engl J Med誌にオンライン掲載された8)。
【文献】
1) Ridker PM, et al:N Engl J Med. 2017;377(12): 1119-31.
2) Tardif JC, et al:N Engl J Med. Nov.16, 2019.
3) Bhatt DL, et al:N Engl J Med. 2017;380(1):11-22.
4) Solomon SD, et al:N Engl J Med. 2019;381(17): 1609-20.
5) McMurray JJV, et al:Circulation. Nov.17, 2019.
6) McMurray JJV, et al:N Engl J Med. 2019;381(21): 1995-2008.
7) Cannon CP, et al:N Engl J Med. 2004;350(15): 1495-504.
8) Amarenco P, et al:N Engl J Med. Nov. 18, 2019.