2月19日から21日までロサンゼルス(米国)で開催された国際脳卒中学会(ISC)から、主に一般医家向けのトピックスを取り上げた。
今回のISCでは,昨年の米国心臓病学会(AHA)にて報告されたTreat Stroke to Target(TST)試験から新たな解析が発表され,アテローム動脈硬化性脳梗塞に対する積極的LDLコレステロール(LDL-C)療法は,長期継続により脳卒中を抑制することが明らかになった。一方,脳梗塞と一過性脳虚血発作(TIA)では,積極的LDL-C療法の有用性が異なる可能性も示唆された。Late Breakingセッションで,Pierre Amarenco氏(パリ大学,フランス)が報告した。
TST試験の対象は,アテローム動脈硬化性疾患を認め,かつ3カ月以内の脳梗塞(修正ランキンスコア0~3)既往,あるいは15日以内のTIA既往を有する,フランスと韓国で登録された2860例である。スタチンを基礎薬として,LDL-C目標値「70mg/dL未満」群と「100mg/dL未満」群にランダム化され,追跡された(非盲検)。
すでにAHAで報告されたように,「70mg/dL未満」群では「100mg/dL未満」群に比べ,「虚血性脳血管障害,急性虚血性心イベント・心臓血管系死亡」(1次評価項目)リスクが,相対的に22%有意に減少していた1)。しかしその際,観察期間中央値が2.0年の韓国コホートでは,5.3年のフランスコホートと異なり,リスクの有意な低下を認めなかった(ただしコホート間に有意な交互作用なし)。短期間のスタチン治療では,有用性が十分に発揮されなかった可能性もある。
そこで研究者らは今回,長期追跡が可能だった,フランスコホート2148例のみの解析を試みた。平均年齢は65歳強,約7割が男性で,BMI中央値は26kg/m2,試験開始時のLDL-C平均値は140mg/dL弱だった。
試験開始後の到達LDL-C平均値は,「70mg/dL未満」群で66mg/dL,「100mg/dL未満」群で96mg/dLだった。血圧,HbA1c,喫煙率はいずれも,両群間に有意な差は認めなかった。
その結果,1次評価項目発生率は,「70mg/dL未満」群で9.6%と,「100mg/dL未満」群の12.9%に比べ,有意に低くなっていた(補正後ハザード比[HR]:0.74,95%信頼区間[CI]:0.57-0.95)。治療必要数(NNT)は31となる。
次に1次評価項目を項目別に比較すると,「心筋梗塞・冠血行再建術」(HR:0.66,95%CI:0.67-1.20)や「脳梗塞・TIA」(同0.83,0.64-1.08)では有意差を認めないものの,「70mg/dL未満」群におけるリスク減少傾向が認められた。一方,頸動脈・冠動脈血行再建術リスクに差はなかった(同1.01,0.75-1.36)。また「脳出血・脳梗塞」リスクは,「70mg/dL未満」群で有意に低かった(同0.72,0.54-0.96)。
また,興味深いことに,脳梗塞例とTIA例の間で,積極的LDL-C低下の有用性が異なっていた。すなわち,脳梗塞例では,「70mg/dL未満」群の1次評価項目HRが0.63(95%CI: 0.48-0.83)となっていたのに対し,TIA例では1.94(同0.94-4.03)だった(交互作用P=0.005)。
本試験におけるTIAの定義は,2009年のAHA/ASAステートメント2)に従い,画像上梗塞を認めないものに限られている(画像上陽性であれば,発作が短時間で消失しても「脳梗塞」)。Amarenco氏らはこの結果に驚くとともに,このようなTIAは虚血以外に起因する可能性があるため,今後この種の試験に登録すべきではないとの考えを示した。「TIA」の定義を再考するにも,興味深い結果ではないだろうか。
本試験はフランス政府,ならびに脳卒中サバイバー非営利団体(SOS‒Attaque Cérébrale Association)からの出資で行われ,Pfizer,Astra-Zeneca,Merckの各社からも条件なしの補助金を受けた。また患者登録が遅れたため,予定例数登録を待たず,早期中止となっている。
本結果は,学会報告翌日,Stroke誌にオンライン公開された3)。
わが国で行われたランダム化試験“CAS-CARE”が発表された。血管平滑筋増殖抑制などを介したステント再狭窄抑制作用が期待されたシロスタゾール追加による,頸動脈ステント留置例のステント再狭窄抑制を比較した試験だが,非追加群との間に有意差は認められなかった。Late Breakingセッションにて,山上 宏氏(国立循環器病研究センター)が報告した。
CAS-CARE試験の対象は,45~80歳で,30日以内にステント留置が予定されている,狭窄度50%以上の症候性頸動脈狭窄,または狭窄度80%以上の無症候性頸動脈狭窄631例である。心不全例は除外されている。平均年齢は70歳,症候性狭窄例は48%,42%に脳梗塞既往があった。
これらはシロスタゾール以外の抗血小板薬を服用する群(非シロスタゾール抗血小板薬群)と,それらにシロスタゾール100~200mg×2/日を併用する群(シロスタゾール群)にランダム化され,非盲検下で2年間追跡された。シロスタゾール群では,アスピリン(66% vs. 85%),クロピドグレル(60% vs. 80%)とも,服用率は有意(P<0.001)に低かった。
その結果,1次評価項目である2年間のステント再狭窄(50%以上狭窄)の発生率は,シロスタゾール群:10.8%,非シロスタゾール抗血小板薬群:19.6%となり,シロスタゾール群におけるHRは0.64と低値ながら,有意差とはならなかった(95%CI:0.41-1.02)。
また,2次評価項目の1つである心血管系イベント(脳卒中・一過性脳虚血発作,心筋梗塞,大動脈解離,動脈瘤破裂,肺塞栓症,末梢動脈疾患)・全死亡の発生率も,シロスタゾール群の6.2%に対し,非シロスタゾール抗血小板薬群では6.7%と,有意差は認められなかった。脳梗塞(シロスタゾール群:3.4% vs. 非シロスタゾール抗血小板薬群:2.6%),脳出血(同:1.2% vs. 1.0%)も同様に有意差はなかった。
なお,「頭蓋内出血・輸血を要する出血」の頻度は,有意ではないが,シロスタゾール群で2.2%と,非シロスタゾール抗血小板薬群の1.3%よりも高値となっていた。
山上氏は本試験の限界の1つとして,登録症例数が当初予定されていた900例の8割弱にとどまった点を挙げていた。
本試験は,公益財団法人神戸医療産業都市推進機構内の,医療イノベーション推進センター(TRI)から資金提供を受けて行われた。大塚製薬株式会社はTRIに研究資金を寄付したが,本試験には一切関係していないとされた。
2型糖尿病例では脳卒中リスクの上昇が知られているが,脳卒中高リスク例の特定には網膜症チェックが有用である可能性が示された。大規模試験“ACCORD-Eye”追加解析の結果,明らかになった。Ka-Ho Wong氏(ユタ健康大学,米国)が,一般口演で報告した。
ACCORD-Eye試験の対象は,心血管系2次予防,または高リスク1次予防の2型糖尿病2828例である。平均年齢は62.1歳,62%を男性が占めた。また31%が糖尿病性網膜症を合併していた。これらはHbA1c目標値「6.0%」未満群と「7.0-7.9%」群にランダム化され,追跡された。
その結果,平均3.5年間の追跡期間中117例(4.1%)が脳卒中を発症した。糖尿病性網膜症例の割合は,脳卒中発症群(41.0%)の方が,非発症群(30.5%)よりも有意(P=0.016)に多かった。そこで糖尿病性網膜症群と非網膜症群に分けて比較したところ,糖尿病性網膜症群における脳卒中発症HRは1.55(95%CI:1.07-2.24)となっていた。なお,両群の脳卒中発症曲線は観察開始直後から乖離を始め,差は開き続けた。さらに多変量解析で脳卒中発症リスクを求めると,「糖尿病性網膜症」のHRは1.52(95%CI:1.05-2.20)となり,「男性」(同2.03,1.31-3.13),「心血管系疾患既往」(同1.60,1.10-2.33)に次ぐ大きなリスクとなっていた。
なお,この「糖尿病性網膜症に伴う脳卒中リスク増加」は,血糖低下治療,脂質低下治療,降圧治療(いずれも「積極」vs. 「通常」)のいずれにも,有意な影響を受けていなかったという(交互作用P値>0.05)。この点は,より詳細な解析が求められるだろう。
脳卒中後,およそ3割がうつ状態を経験するとされているが,発症後の経時的変化の詳細は必ずしも明らかではない。この点を,米国レジストリを用いて詳細に検討した結果が発表された。Liming Dong氏(ミシガン大学,米国)が,一般口演で報告した。
解析の対象とされたのは,テキサス州の多人種住民レジストリであるBASIC(Brain Attack Surveillance in Corpus Christi)プロジェクトに登録された682例である。平均年齢は65.9歳,発症時NIHSS平均値は4.2だった。
これらを対象に,脳卒中発症3カ月後と6カ月後(572例),さらに1年後(563例)に,面談の上,うつ状態を評価した。うつ状態の評価には,PHQ-8質問票を用いた。「興味喪失」,「抑うつ」,「自尊心喪失」,「睡眠障害」,「疲労」,「食欲変化」,「集中力欠如」,「精神運動性の変化」の8項目につき,頻度を2週間中「まったくない」,「数日」,「8日以上」,「ほぼ毎日」の4択で回答し,0から24まで点数化する。10点以上が「うつ状態」である。
その結果,脳卒中発症3カ月後,35.2%がうつ状態にあったが,6カ月後には24.5%へ減少した。しかしそれ以上の経時的減少は認められず,1年後も25.9%がうつ状態にあった。また,脳卒中後に認められたうつ状態は,4パターンに分類可能だった。症候が「軽度・なし」,「中等度」,「重度」に加え,「疲労・睡眠障害のみ」である。発症3カ月後時点では,この「疲労・睡眠障害のみ」の割合が,「軽度・なし」に次いで2番目に多かった(27.5%)。
うつ状態から回復した患者の割合だが,発症3カ月後から6カ月後では50.8%だったのが,6カ月後から1年後では39.6%に減っていた。
またうつ状態例のみで検討しても,改善が多く見られたのは発症3カ月後から6カ月後の間であり,6カ月以上経過すると増悪する例が増える傾向にあった。
Dong氏は実臨床において,「疲労・睡眠障害のみ」タイプのうつ状態が見逃されている可能性を懸念していた。
頸動脈内膜剥離術(CEA)後には抗血小板療法が必要となるが,各種ガイドラインはアスピリンを推奨するにとどまり,クロピドグレルを追加した抗血小板薬2剤併用(DAPT)の位置付けは明確ではない。しかしCEAの有用性を検討したランダム化試験4)やレジストリ研究5)では,3割前後の患者でDAPTが施行されている。このような背景を受け,大規模レジストリデータを用いた,CEA後のアスピリン単剤(SAPT)とDAPTの比較が報告された。症候性の頸動脈肥厚例に限れば,DAPTのほうが有用である可能性が示された。Tathan Belkin氏(ペンシルバニア大学,米国)が,一般口演で報告した。
解析対象となったのは,2003年から18年にかけ,米国・カナダの血管手技レジストリに登録されたCEA施行前例(8万7074例)から,抗凝固療法使用例,抗血小板薬非使用例,クロピドグレル単剤例を除外した7万2122例である。SAPTで退院していたのは64.6%,DAPTは35.4%だった。平均年齢は70歳,37.2%が症候性例だった。
これらSAPT群とDAPT群では背景因子が異なるため,傾向スコアを用いて背景因子をマッチさせた1万7398例で比較を行った。
その結果,退院後2年間の「脳卒中・一過性脳虚血発作(TIA)・死亡」の発生率は,両群間に有意差を認めなかった。しかし症候性患者に限れば,DAPT群で約2.5%,有意(P=0.03)に低値となっていた。ただし,「死亡」を除いた「脳卒中・TIA」のみでは,症候性患者でも,DAPT群とSAPT群の間で発生率に差はない。同様に5年生存率も,症候性患者では,DAPT群でSAPT群に比べ約2.5%,有意(P=0.01)に良好だった。傾向スコアマッチではなく,全例で多変量解析をしても,5年間生存のオッズ比は,DAPT群で有意に高値となっていた。
Belkin氏は,ランダム化試験の必要性を訴えた。
脳主幹動脈閉塞に対する血管内治療(経皮的脳血栓回収術)追加の有用性は確立されている。ではtPA静注を省き,より早期に血管内治療を始めればさらに転帰は改善するだろうか。この問いに答えるべく,わが国の研究者が取り組んだのがランダム化試験“SKIP”である。鈴木健太郎氏(日本医科大学脳神経内科)がLate Breakingセッションにて報告した。「tPAスキップ」血管内治療は,「tPAあり」に対する非劣性を証明できなかった。
SKIP試験の対象は,内頸動脈,ないし中大脳動脈本幹に閉塞を認め,「発症前修正ランキンスケール(mRS)≦2」かつ「発症直後NIHSS≧6」で,「ASPECTS≧6点,またはDWI ASPECTS≧5点」の,発症から穿刺までが4時間以内だった204例である。tPA静注なしで血栓回収術を行う「直接血管内治療」群(101例)と,tPA施行後に血栓回収術を行う「ブリッジング」群(103例)にランダム化され,90日間追跡された。
その結果,1次評価項目である「90日後mRS:0-2」の達成率は「直接血管内治療」群:59.4%,「ブリッジング」群:57.3%で,有意差はなかった(オッズ比[OR]:1.09,95%CI:0.63-1.90)。この結果は,年齢,性別,心房細動の有無,ASPECTSの高低,動脈閉塞部位など別に比較しても同様だった。
このように「90日後mRS:0-2」達成率は「直接血管内治療」群の方が高かったものの,OR下限が,非劣性マージンである「0.74」を下回ったため,「ブリッジング」群に対する「非劣性」は証明されなかった(ITT解析)。プロトコール遵守例のみで検討しても,同様だった。
一方,36時間以内の全頭蓋内出血は,「直接血管内治療」群:34%,「ブリッジング」群:50%と,「直接血管内治療」群で有意なリスク減少を認めた(HR:0.50,95%CI:0.28-0.88)。ただし「症候性」頭蓋内出血に限ると,両群間に有意差はなかった。なお,また2次評価項目である「90日間死亡」に,両群間で有意差はない。
「直接血管内治療」群における「非劣性」が認められなかった理由として,鈴木氏は両群とも再開通率が非常に良好だった点を挙げた。両群とも90%を超えていたという。また興味深いことに,本研究では血管内治療開始までの時間に,群間差は認められなかった(tPAによる遅延認めず)とのことである(ISCインタビューでの発言)。
【文献】
1) Amarenco P, et al:N Engl J Med. 2020;382(1):9.
2) Easton JD, et al:Stroke. 2009;40:2276-93.
3) Amarenco P, et al:Stroke. 2020. Feb 20. [Epub ahead of print]
4) Huibers A, et al: Eur J Vasc Endovasc Surg. 2016; 51(3), 336-42.
5) Aronow HD, et al:Stroke. 2016;47(9):2339-46.