株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

第135回:学会レポート─2021年欧州糖尿病学会(EASD)

登録日:
2021-11-22
最終更新日:
2021-11-22

執筆:宇津貴史(Takashi Utsu,医学レポーター/J-CLEAR会員)

9月27日から5日間、欧州糖尿病学会(EASD)の第57回学術集会が、完全オンラインで開催された。バーチャル企業展示なども充実し、オンライン開催のフォーマットも進歩を続けているようだ。ここでは、唯一シンポジウムが組まれた臨床試験である“TriMaster”など、大規模試験について紹介したい。

TOPIC 1
血糖低下作用を最大化する追加薬剤選択を目指して:RCT“TriMaster”(1)

欧米ガイドラインが推奨する2型糖尿病(DM)薬剤治療は、メトホルミンを第一選択薬とし、血糖管理不十分な場合に他剤併用を検討するのが一般的である。この併用薬選択にあたって考慮されるのは合併症や有害事象などであり、「血糖低下作用の最大化」という観点はない。エビデンスがないためだ。そこでエビデンスの空白を埋めるべく実施されたのが、ランダム化試験(RCT)“TriMaster”である。その結果、患者の表現型を基準とした薬剤選択により、より良好なHbA1c低下作用が得られる可能性が示された。Beverley Shields氏(エクセター大学、英国)らが報告した。

TriMaster試験では2つの仮説が検証された1)。すなわち、HbA1cの低下作用は「BMI>30kg/m2ならばDPP-4阻害薬よりもグリタゾン系薬で大」(仮説1)、「推算糸球体濾過率(eGFR)<90mL/分/1.73m2ならば、SGLT2阻害薬よりもDPP-4阻害薬が強力」(仮説2)─である。

背景にあるエビデンスは、「BMI>30kg/m2」例に対するグリタゾン系薬のHbA1c低下作用増強[ADOPT試験]2)やDPP-4阻害薬での減弱傾向[PRIBA試験]3)、また「eGFR<90mL/分/1.73m2」における、SGLT2阻害薬を上回るDPP-4阻害薬のHbA1c低下作用4)などである。

これらの仮説を検討すべく、対象患者(後述)はグリタゾン系薬(ピオグリタゾン)群、SGLT2阻害薬(カナグリフロジン)群、DPP-4阻害薬(シタグリプチン)群の3剤をランダムな順番で服用する、6通りのパターンにランダム化され、二重盲検法で追跡された。各薬剤の服用期間は12週間で、服用終了時ごとに各種評価を実施した。薬剤変更時の非服用期間は設定されていない(ただし解析の結果、有意なキャリーオーバー効果は観察されず)。また、薬剤不忍容の場合、服用を中止後、直ちに次の薬剤に移行した。

対象となったのは、メトホルミン(±SU剤)服用下で「HbA1c:7.5-12.2%」だった2型DM 503例である。

平均年齢は61.9歳、男性が73%を占めた。スクリーニング時のHbA1c平均値は8.5%で、52%がSU剤を併用していた。

その結果、1次評価項目の「到達HbA1c」を全体で比較すると、グリタゾン系薬、SGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬とも、およそ7.6%で、群間差は認められなかった。ただしこの値は、服用を12週間継続し、服薬アドヒアランスが80%以上だった例のみを対象とした結果である(グリタゾン系薬:421例、DPP-4阻害薬:391例、SGLT2阻害薬:408例)。

次に、先述仮説の検討を示す。

まず、全例をBMIの高低で2群に分け、グリタゾン系薬とDPP-4阻害薬によるHbA1c低下作用を比較した(仮説1)。すると、「BMI≦30kg/m2」(141例)では、DPP-4阻害薬群でグリタゾン系薬群に比べ0.13%の低値となった(有意差なし)。一方、「BMI>30kg/m2」(215例)ではグリタゾン系薬群のほうがHbA1cは0.14%の有意低値となっていた。適切に患者を選択すれば、漫然処方に比べ、同じ血糖低下薬を用いてもHbA1cに最大0.27%の差がつく計算である(P=0.003)。

次に、eGFRの高低で2分して、DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬を比較した。すると、eGFR「60-90mL/分/1.73m2」例ではDPP-4阻害薬群でSGLT2阻害薬群に比べ、HbA1cは0.15%の有意低値となった一方、「>90mL/分/1.73m2」例ではSGLT2阻害薬群で0.09%の低下傾向が見られた。適切な患者選択によるHbA1c差は0.24%となる(P=0.002)。

なおBMI、eGFRいずれの高低も、薬剤への「忍容性」と「低血糖リスク」には影響していなかった。

本研究は、英国国立衛生研究所(NIHR)から資金提供を受けて実施された。

TOPIC 2
患者から見た血糖低下薬の評価は?: RCT“TriMaster”(2)

TriMaster試験の主目的は、メトホルミン服用2型糖尿病(DM)例に対する、HbA1c低下作用最大化を目指した追加併用薬選択の検討だが(「TOPIC 1」参照)、全例がグリタゾン系薬とSGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬を二重盲検下で服用しているため、これら薬剤に対する患者評価の比較も可能である。この点についても、Beverley Shields氏(エクセター大学、英国)から報告があった。

解析対象となったのは、メトホルミン(±SU剤)服用下で「HbA1c:7.5-12.2%」だった2型DM 503例中、上記3剤を順次12週間ずつ服用する6群にランダム化され、試験終了まで脱落しなかった457例である。各薬剤に対する評価の調査は服用期間終了時に実施した。

その結果、患者から「好ましい」との評価が最も多かった薬剤はSGLT2阻害薬(38.7%)であり、次いでDPP-4阻害薬(34.8%)、グリタゾン系薬(25.8%)だった。

この点について探索的解析を実施したところ、いずれの薬剤でも「好ましい」と回答した患者では、他剤に比べ「有害事象」が少なかっただけでなく、「HbA1c到達値」も低くなっていた(いずれも検定は示されず)。
さて、「有害事象」の報告数は、DPP-4阻害薬で他剤に比べ有意に少なかった(最多はSGLT2阻害薬)。にもかかわらず、「薬剤非忍容」率は9.3%と、グリタゾン系薬(5.5%)、SGLT2阻害薬(8.6%)に比べ、高い傾向が認められた(P=0.052)。この理由は不明だという。なお、DPP-4阻害薬で他剤に比べ多い傾向が見られた有害事象は、「気分が悪い(sick)」(10%弱)のみだった。

本研究は、英国国立衛生研究所(NIHR)から資金提供を受けて実施された。

TOPIC 3
現代のCV高リスク2型糖尿病例における、多面的リスク低減による転帰改善作用は?: RCT 2報併合解析

一般的に、2型糖尿病(DM)例の心血管系(CV)イベント抑制には、血糖だけでなく血圧や血清脂質の改善も図る、多面的介入が有用であるとされている。主たるエビデンスはランダム化試験(RCT)“Steno-2”5)だろう。しかしSteno-2が報告されたのは2003年であり、かつ対象は160例という少数、かつ盲検化はされていなかった。そこで「多面的介入」の有用性を今日の大規模2型DMコホートで検討したらどうなるか。2つの大規模RCTメタ解析の結果を、Steno-2試験を実施したステノ糖尿病センター(デンマーク)のFrederik Persson氏が報告した。血糖と血圧、脂質代謝管理の進んだ現在では、CVイベント抑制における「早期腎転帰改善」の重要性が増している可能性が示された。

本解析の対象は、RCT“LEADER”と“SUSTAIN-6”に参加した、1万1678例である。全例CV高リスク2型DM例で、GLP-1アナログまたはプラセボを服用し、二重盲検法で観察された。これらにおいて、試験開始1年後の「リスク因子改善」数と、その後の転帰との関係が検討された。

今回「リスク因子改善」とされたのは以下の6点、すなわち「1%以上のHbA1c低下」、「5%以上の体重低下」、「5mmHg以上の収縮期血圧(SBP)低下」、「19.4mg/dL以上のLDL-C低下」、「推算糸球体濾過率(eGFR)維持(非低下)」、「30%以上の尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)低下」─である。Persson氏によればいずれも、臨床現場で簡便に評価可能な項目について、担当医が「改善」と考えるであろう数字を選んだという(連続変数として扱わなかったのは、臨床現場における「指標」としての活用を目指したため)。

その上で、試験開始1年後に上記「改善」が認められた数「0」~「4以上」に従い5群に分け、その後の転帰を検討した。「改善」数が多いほど、多面的介入に成功しているという解釈である。

解析対象1万1678例の平均年齢は64.3歳、女性が36.5%を占めた。また、HbA1cは平均8.7%、SBPは136mmHg、LDL-Cは89.8mg/dL、eGFRは80.3mL/分/1.73m2(以上平均値)、UACR中央値は15.3mg/gだった。

試験開始1年後、リスク因子改善「0」群の割合は9.0%、「1」は27.1%、「2」は30.3%、「3」は21.5%、「4以上」が12.0%だった。上記背景因子はこれら5群間で若干のばらつきを認めたものの(検定不表示)、CV疾患既往はいずれの群も80%強に認められ、有意差はなかった。

その結果、試験開始1年後から試験終了までの「CV死亡・心筋梗塞(MI)・脳卒中」(MACE)の多変量解析後ハザード比(HR)は予想に反し、リスク因子改善数が増えても減少していなかった(5群間のHRに有意差なし。また傾向P値=0.08)。

ただし、上記MACEに「血行再建再施行・不安定狭心症/心不全による入院」という、少し客観性に劣る評価項目を加えた拡張MACEでは、傾向P値は0.004となり、リスク因子改善数増加に伴うHRの有意低下傾向が認められた。しかし5群間のHR差はさほど大きくない(「4以上」群でも、対「0」群HRは0.82、95%信頼区間[CI]:0.66-1.02)。

この結果に対し座長のPeter Novodvorsky氏(臨床実験医学研究所、チェコ)は、GLP-1アナログの多面的作用によるCV保護が、古典的リスク因子減少に伴うCVイベント抑制をマスクしてしまった可能性を指摘していた。

一方CVイベントと対照的に、多面的改善に伴う著明なリスク低下を示したのが、「腎症」だった(傾向P値:<0.0001)。リスク因子改善数「4以上」群におけるHRは0.43(0.29-0.65)である。

次に、上記イベントリスク減少における「リスク因子改善」が転帰に与える影響を検討したところ、MACEでは「1%以上のHbA1c低下」による影響が最大で、次いで「30%以上のUACR低下」、「eGFR非低下」となっていた。拡張MACEでも同様である。これらより、2型DM例のCVイベント抑制には、「早期のUACR低下」ならびに「eGFRの維持」も重要ではないかというのが、Persson氏の見解だった。

なお腎症では、「30%以上のUACR低下」に次いで「eGFR非低下」、そして「5mmHg以上のSBP低下」がリスク減少の要因になっていた。

本研究はNovo Nordisk AVSの支援を受けた。また執筆と編集も、同社の資金による外部ライターの支援を受けた。なお本研究の論文は10月21日、Diabetes Obes Metab誌Webサイトに提出された。

TOPIC 4
DPP-4阻害薬24週間服用は心不全合併2型糖尿病例の心臓に悪影響を及ぼさず: RCT“MEASURE-HF”

心血管系(CV)高リスク2型糖尿病(DM)例に対するDPP-4阻害薬は、ランダム化試験(RCT)“SAVOR-TIMI 53”において心不全(HF)入院が相対的に27%増加したため6)、心臓に対する安全性に懸念を感ずる向きもあった。しかしHF合併2型DM例をMRIで評価したところ、DPP-4阻害薬の少なくとも24週間服用では、心臓に対する影響はプラセボと同等だった。RCT“MEASURE-HF”の結果として、Benjamin Scirica氏(ブリガム&ウィメンズ病院、米国)が報告した。

MEASURE-HF試験の対象は、HF標準治療を受けながらも「左室駆出率(EF)≦45%」、かつ「NT-proBNP>300 pg/mL」の2型DM 348例である。世界10カ国から登録され、アジア・太平洋地域からの参加例も13.8%含まれている。平均年齢は約65歳、男性が7割弱を占めた。SGLT2阻害薬の服用率は約10%だった。

これら348例は、SAVOR-TIMI 53試験で用いられたDPP-4阻害薬であるサキサグリプチン群(112例)、対照としてシタグリプチン群(115例)とプラセボ群(120例)にランダム化され24週間、二重盲検法で観察された。

その結果、1次評価項目であるMRI評価「左室拡張末期容積係数(LVEDVi)」は、サキサグリプチン群で0.93mL /m2、シタグリプチン群も1.09mL/m2、プラセボ群で3.53mL/m2の増加を認めたが、群間に有意差はなかった(MRI評価は中央単一施設で実施)。同様に、左室収縮末期容積係数とEFの変化にも、サキサグリプチン群とプラセボ群間に有意差はなかった。またNT-proBNPは両群とも、20pg/mL前後の有意な低下を認めた。

参考までにHF入院率を比較すると、サキサグリプチン群6.3%、シタグリプチン群5.2%、プラセボ群5.8%という結果だった(検定なし)。

本試験はAstraZenecaから資金提供を受けて実施された。

TOPIC 5
CV高リスク2型糖尿病例に対する、SGLT2阻害薬の尿酸低下・痛風抑制作用はクラスエフェクト?:EMPA-REG OUTCOME後付解析

SGLT2阻害薬による、心血管系(CV)高リスク2型糖尿病(DM)例に対する「尿酸値低下」・「痛風発作・尿酸低下薬服用減少」作用は2019年、CANVAS Programの後付解析で示されている7)。そこで注目されたのは、SGLT2阻害薬の尿酸低下作用がアロプリノールやフェブキソスタットに比べ弱いにもかかわらず、有意な「痛風発作抑制・尿酸低下薬服用減少」が認められた点である。尿酸低下を介さない痛風抑制作用の存在も示唆された。

そして今回、EMPA-REG OUTCOME試験の後付解析でも同様の知見が得られ、クラスエフェクトの可能性が高くなった。João Pedro Ferreira氏(ロレーヌ大学、フランス)が報告した。

EMPA-REG OUTCOME試験に登録されたのは、CV高リスクの2型DM 7020例である。SGLT2阻害薬群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で観察された。

試験開始時に尿酸低下薬を服用していたのは6%のみ。尿酸値は、尿酸低下薬非服用群で平均5.9mg/dL、服用群で6.4mg/dLだった。

試験開始52週間後の平均尿酸値は、SGLT2阻害薬群でプラセボ群に比べ、0.37mg/dLのみだが、有意に低値となっていた。

次に「痛風発作出現・尿酸低下薬服用」の頻度を、試験開始時尿酸低下薬「非服用」の6607例で比較すると、SGLT2阻害薬群:14.1/1000例・年 vs.プラセボ群:21.6/1000例・年となり、SGLT2阻害薬群におけるハザード比(HR)は0.67(95%信頼区間[CI]:0.53-0.85)だった。両群の発生率曲線が乖離し始めたのは、試験開始1年後である。

なお、先述CANVAS Programにおける「痛風発作出現・尿酸低下薬服用」頻度は、SGLT2阻害薬群:4.1/1000例・年、プラセボ群:6.6/1000例・年であり、HRは0.53(95%CI:0.40-0.71)だった。両群間における平均尿酸値の差は0.39mg/dL。今回の報告と同程度である。

質疑応答では座長のJan Eriksson氏が、SGLT2阻害薬による痛風発作抑制作用の機序について問うたが、報告者のFerreira氏が報告終了と同時にウェブから退出したため、回答は得られなかった。ライブ開催の学会ではまず見られない(珍)光景だった。

本試験はBoehringer Ingelheim(BI) & Eli Lilly and Company Diabetes Allianceの出資を受け実施された。また今回の報告に当たっては、BI出資による外部会社の編集補助を受けた。

【文献】

1) Angwin C, et al:BMJ Open. 2020;10(12):e042784.

2) Kahn SE, et al:N Engl J Med. 2006;355(23):2427-43.

3) Dennis JM, et al:Diabetes Care. 2018;41(4):705-12.

4) Dennis JM:Diabetes. 2020;69(10):2075-85.

5) Gæde P, et al:N Engl J Med. 2003;348(5):383-93.

6) Scirica BM, et al:N Engl J Med. 2013;369(14): 1317-26.

7) Li JW, et al:Lancet Rheumatol. 2019;1:e220–8.

このコンテンツはプレミアム(有料)会員限定コンテンツです。

Webコンテンツサービスについて

ログインした状態でないとご利用いただけません ログイン画面へ
Web医事新報の有料会員向けコンテンツを読みたい サービス一覧へ
本コンテンツ以外のWebコンテンツや電子書籍を知りたい コンテンツ一覧へ

関連記事・論文

もっと見る

page top