本年度のESC学術集会は,新型コロナ流行の影響を受け,8月29日から4日間,Web上のみの開催となった(録画での視聴も可)。それ自体は珍しくないが,ESCの場合,Web開催に加え,登録費の完全無料化に踏み切った。その結果,参加者は211カ国から11万6000名超(半数以上が40歳未満)という前代未聞の数字となった。なお,演題投稿数が最多の国は,今年も日本だった。ここでは実臨床に近い話題を,学会における討論も含め,紹介したい。
SARS-CoV-2ウイルスはACE2を介して感染するため,ACE2を代償的に増加させる可能性のあるレニン・アンジオテンシン系阻害薬(RAS-i)はCOVID-19発症を増やす,あるいは症状を増悪させる可能性が指摘されていた。しかしその後の観察研究からは逆に,RAS-iによるCOVID-19重症化抑制なども報告され,COVID-19に対するRAS-iの影響は明らかでなかった。そのため,RAS-iを服用中のCOVID-19例を,RAS-i「継続」群と「中止」群にランダム化して転帰を比較するBRACE-CORONA試験が実施され,その結果が本学会でデューク大学(米国)のRenato D. Lopes氏により報告された。
BRACE-CORONA試験の対象は,ACE阻害薬かARBを服用中で,COVID-19と確定診断された659例である。重症COVID-19例,非代償性心不全による入院既往(直近1年間)例,3剤以上の降圧薬服用例,エントレスト服用例,COVID-19診断時血行動態不安定例は除外されている。
平均年齢は56歳,BMI平均値は31.0kg/m2。全例高血圧を合併しており,糖尿病も32%で認められた。RAS-iの内訳は,ACE阻害薬が17%,ARBが83%だった。試験導入前RAS-i服用期間平均値はおよそ1.5年間だったという。
COVID-19の入院直後重症度は,軽症が57%,残りの43%はすべて中等症だった。また「SaO2<94%」だった例の割合は27%だった。
これら659例はRAS-i「中止」群(334例)と「継続」群(325例)にランダム化され,30日間観察された。
その結果,1次評価項目である「退院後生存日数」は「中止」群:21.9日,「継続」群:22.9日となり,有意差は認められなかった。退院後生存率も同様で,「中止」群は91.8%,「継続」群も95.0%で有意差はなかった。
RAS-iを中止しても臨床的に何も利益がなかったためLopes氏は,中等症以下のCOVID-19例にRAS-iの適応がある場合,中止すべきではないと結論した。
この結果に対し,指定討論者である聖ルカ病院(イタリア)のGianfranco Parati氏は①対象年齢が若い,②(欧米にしては)死亡率が低すぎる点を指摘し,このデータを一般に当てはめられるか疑問を呈した。
これに対しLopes氏は,「対象の4割弱が65歳以上」,「65歳以上と以下に分けて比較したが,年齢による有意な交互作用はなかった」と答え,また低死亡率については(ショックを避けるため必然的に降圧薬を中止せざるを得ない)重症例が除外されているためだと説明した。なおACE阻害薬,ARBを分けて解析しても,有意な交互作用は観察されなかったという。
BRACE-CORONA試験は3月21日にプロトコール立案,4月9日に患者登録を開始。7月26日には追跡が終了し,データベースのロックは8月17日。そこから1カ月を待たずに報告にこぎつけた。この迅速な日程には,指定討論者,座長とも,最大の賛辞を惜しまなかった。
本試験は研究者発案で行われ,非営利団体であるD’Or Institute for Research and Educationから資金提供を受け実施された。
昨年の国際腎臓学会ではランダム化試験“CREDENCE”が報告され,腎疾患を合併した2型糖尿病例に対するSGLT2阻害薬の心腎保護作用が示された1)。本学会では非糖尿病をも含む腎機能低下例を対象としたDAPA-CKD試験が報告され,SGLT2阻害薬は2型糖尿病合併の有無にかかわらず,腎機能低下例に対する心腎保護作用が示された。フローニンゲン大学(オランダ)のHiddo Heerspink氏が報告した。
DAPA-CKD試験の対象は,推算糸球体濾過率(eGFR)が「25~75mL/分/1.73m2」かつ,尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR)が「200~5000mg/g」で,忍容最大用量のRAS-iを服用していた4304例である。1型糖尿病,器質的腎疾患が明らかになっている例は除外されている。
平均年齢は62歳,約3分の1が東洋人だった(日本からも244例を登録)。eGFR平均値は43mL/分/1.73m2,UACR中央値は950mg/g前後だった。また95%以上がRAS-iを服用していた。
これら4304例はSGLT2阻害薬ダパグリフロジン10mg/日群とプラセボ群にランダム化され,二重盲検法で2.4年間(中央値)観察された。SGLT2阻害薬群における優位が明らかになったため,早期中止となっている。
その結果,1次評価項目である「eGFRの持続的半減,末期腎不全移行,心・腎疾患による死亡」のリスクは,SGLT2阻害薬群で相対的に39%の有意低値となった(ハザード比[HR]:0.61,95%信頼区間[CI]:0.51−0.72)。Heerspink氏によれば,1イベント減少させるために必要な治療数(NNT)は19だという。またSGLT2阻害薬群におけるこれらイベントの有意減少は,2型糖尿病合併の有無にかかわらず認められた(交互作用P=0.24)。
また重篤な有害事象,有害事象による服薬中止はいずれも,SGLT2阻害薬群で低い傾向が見られた。
さて,2次評価項目の1つである腎複合イベント(eGFRの持続的半減,末期腎不全移行,腎疾患による死亡)も,SGLT2阻害薬群におけるHRは0.56(0.45−0.68)だった。同じく2次評価項目の「心血管系(CV)死亡・心不全入院」(HR:0.71,0.55−0.92),「総死亡」(HR:0.69,0.53−0.88)のいずれも,SGLT2阻害薬群でリスクは有意に低下していた。
一方「CV死亡」は,SGLT2阻害薬群における有意なリスク減少を認めなかった(HR:0.81,0.58−1.12)。そこで議論になったのが,ならば総死亡のリスク減少は何によってもたらされたのかという点だ。Heerspink氏は今後の検討が必要だとしながらも,「死因の分類ミス」に加え「感染症死の減少」が寄与している可能性があるとの見解を示した。今後の報告を待ちたい。
本試験は,AstraZenecaから資金提供を受けて実施された。また報告後,NEJM誌にオンライン掲載された2)。
2017年に報告されたCANTOS試験において3),インターロイキン-1βを標的としたカナキヌマブによる動脈硬化性イベント抑制が示されて以来,抗炎症療法による冠動脈疾患治療に関心が集まっている。本学会では,わが国では痛風発作などに用いられているコルヒチンの安定冠動脈疾患例に対する有用性が,ランダム化試験“LoDoCo2”として発表された。ジェネシスケア(豪州)のMark Nidorf氏が報告した。
安定冠動脈疾患例に対するコルヒチンのCVイベント抑制作用はすでに,非盲検化試験“LoDoCo”4)で示されている。今回はその結果を,二重盲検試験で確認する形となった。LoDoCo2試験の対象は,6カ月間以上状態が安定していた冠動脈疾患例である。重症腎疾患,心不全,重度弁膜症の合併例は除外された。参加適格者は全例,コルヒチン0.5mg/日を30日間服用し,忍容可能(91.3%)で試験参加意思を有した5522例が,コルヒチン0.5mg/日群とプラセボ群にランダム化された。
患者の平均年齢は66歳,約85%が男性だった。また85%に急性冠症候群(ACS)の既往があったが,その7割弱は2年以上前に発症したものだった(学会報告数字)。治療薬を見ると,95%近くがスタチン,約90%が抗血小板薬,7割強がRAS-i,6割強がβ遮断薬を服用していた。
28.6カ月(中央値)の観察期間を通じ,両群とも90.3%が試験薬の服用継続が可能だった。
その結果,1次評価項目である「CV死亡,心筋梗塞(MI),脳梗塞,虚血症状解消のための冠血行再建」の,コルヒチン群(2.5%/年)における対プラセボ群(3.6%/年)HRは0.69(0.57−0.83)となった。このコルヒチン群における1次評価項目抑制は,ACS既往,血行再建術既往(84%)の有無にかかわらず認められた。
また上記から血行再建を除いた「CV死亡,MI,脳梗塞」のみで比較しても,コルヒチン群におけるHRは0.72(0.57−0.92)と有意に低値となっていた。MIのみで比較しても同様である(HR:0.70,0.53−0.93)。
なおコルヒチン群では,CV死亡は減少傾向を認めたものの(0.7% vs. 0.9%,HR:0.80,0.44−1.44),総死亡は逆に,多い傾向にあった(2.6% vs. 2.2%,HR:1.21,0.86−1.71)。
有害事象は,発癌,感染症入院,消化器症状による入院とも,両群間に差はなかった。加えて,スタチンとの相互作用による筋障害増加が懸念されていたが,発生率は両群とも0.1%のみだった。
ディスカッションでは,ACS既往例がこれだけ含まれる(高リスク例を対象とした)本データを,冠動脈イベント既往のない安定冠動脈疾患例に当てはめ得るのかとの疑問が出された。しかしNidorf氏は,プラセボ群のイベント発生率を見る限り,決して高リスク患者とは言えないと反論していた。なお,コルヒチン群における総死亡,非CV死亡の増加傾向についての議論はなかった。
本試験は,研究者主導試験であり,豪州政府をメインに,豪州,オランダの民間企業6社などから資金提供を受けて行われた。また報告と同時に,NEJM誌にオンライン公開された5)。
昨年の本学会では,ランダム化試験“DAPA-HF”が報告され,収縮障害心不全(HFrEF)例におけるSGLT2阻害薬の「CV死亡・心不全入院」,「総死亡」抑制作用が明らかになった6)。本年は異なるSGLT2阻害薬を用いたEMPEROR-Reduced試験が報告され,「CV死亡・心不全入院」抑制作用は認められたものの,生存に対する影響はDAPA-HF試験と異なる結果となった。ベイラー大学(米国)のMilton Packer氏が報告した。
EMPEROR-Reduced試験の対象は,「左室駆出率(EF)<30%」,ないしは「EF≧30%」ながら,「NTpro-BNP高値,または直近1年間に心不全入院既往」を認めた3730例である(学会報告における説明)。2型糖尿病合併の有無は問わない。また全例,標準的心不全治療を受けていた。
EF平均値は27%と,DAPA-HF試験の31%よりも低く,eGFR平均値も62%で,DAPA-HF試験の66%よりも低値だった。さらに,DAPA-HFでは11%でしか用いられていなかったARB・ネプリライシン阻害薬(ARNi)を20%が服用していた。
これら3730例はSGLT2阻害薬エンパグリフロジン10mg/日群とプラセボ群にランダム化され,二重盲検法で観察された。
中央値16カ月の観察期間中,1次評価項目である「CV死亡・心不全入院(初回)」はSGLT2阻害薬群で,プラセボ群に比べ,相対的に25%の有意なリスク減少が認められた(HR:0.75,0.65−0.86)。また糖尿病合併の有無,心不全重症度,ARNi服用の有無など,事前設定された亜集団のいずれにおいても,SGLT2阻害薬による抑制作用が認められた。
なおプラセボ群における1次評価項目発生率は21.0/100例・年であり,DAPA-HF試験プラセボ群の15.6/100例・年に比べ著明に高かった(両試験の1次評価項目は同一)。
さて,1次評価項目減少の内訳を見ると,有意減少が認められたのは「心不全入院」(HR:0.69,0.59−0.81)のみであり,CV死亡には有意差はなかった(HR:0.92,0.75−1.12)。この点は,SGLT2阻害薬ダパグリフロジンによるCV死亡の有意減少が認められた,DAPA-HF試験と異なる(HR:0.82,0.69−0.98)。また総死亡も,DAPA-HF試験では,SGLT2阻害薬群における有意減少が観察されたが(HR:0.83,0.71−0.97),本試験では認められなかった(HR:0.92,0.77−1.10)。
この点についてPacker氏は,CV高リスク2型糖尿病を対象としたランダム化試験,“DECLARE-TIMI58”7)と“EMPA-REG OUTCOME”8)では逆の結果になっていたと指摘(エンパグリフロジンはCV死亡を有意に抑制[HR:0.62,0.49−0.77]も,ダパグリフロジンでは有意減少を認めず[HR:0.98,0.82−1.17]。総死亡も同様)。試験間の単純比較により薬効を論ずるのは勧められないとコメントしていた。
本試験はBoehringer IngelheimとEli Lilly and Companyから資金提供を受け行われた。また報告と同時にNEJM誌にオンライン掲載された9)。
2018年の米国心臓協会(AHA)学術集会で報告されたREDUCE-IT試験により10),高用量イコサペント酸エチル(EPA)製剤は,スタチン服用下で高トリグリセライド(TG)血症を呈する例のCVイベントを抑制した初のTG低下薬となった。そしてその作用機序を探るべく,並行して行われていたランダム化試験“EVAPORATE”の最終結果が本学会で発表され,高用量EPA製剤によるプラーク退縮作用が確認された。ランドキスト研究所(米国)のMatthew Budoff氏が報告した。
EVAPORATE試験の対象は,スタチン服用下でTG「135〜499mg/dL」(REDUCE-IT試験と同一),かつ冠動脈に20%以上の狭窄を認めた80例である。冠動脈バイパス術既往例,あるいは直近6カ月にMI,脳卒中,生死にかかわる不整脈,いずれかの既往を有する例は除外されている。
平均年齢は57歳,男性が54%を占めた。合併症は高血圧が77%,糖尿病が69%だった。また54%がアスピリンを服用していた。
これら80例は,EPA製剤4g/日群とプラセボ群にランダム化され,18カ月,二重盲検法で観察された。
その結果,1次評価項目である「低吸収プラーク」(不安定プラーク)の体積は,プラセボ群で0.9mm3増加したのに対し,EPA製剤群では0.3mm3の退縮が認められた(P=0.006)。また「プラーク総体積」もプラセボ群で11%増加したのに対し,EPA製剤群では9%減少していた(P=0.002)。
本試験は昨年のAHA学術集会にて,9カ月観察の中間解析が報告されている。その時点では,「プラーク総体積」こそEPA製剤群でプラセボ群に比べ有意に低値となっていたものの,1次評価項目である「低吸収プラーク」体積には有意差を認めなかった。しかしながらBudoff氏は「EPA製剤は比較的早期からプラーク進展抑制作用を示す」と述べ,本年5月の心血管造影・インターベンション学会(SCAI)で報告されたREDUCE-IT試験事前設定追加解析(REDUCE-IT REVASC)において,EPA製剤群における冠血行再建術リスクが,試験開始11カ月後にはプラセボ群に比べ有意に低くなっていたのとよく一致すると評価した。
本試験は研究者発案によるものであり,Amarin Pharma, Incの資金提供を受けて行われた。また報告と同時に,Eur Heart J誌にオンライン掲載された11)。
【文献】
1) Perkovic V, et al:N Engl J Med. 2019;380(24):2295-306.
2) Heerspink HL, et al:N Engl J Med. 2020. Sept 24.
3) Ridker PM, et al:N Engl J Med. 2017;377(12):1119-31.
4) Nidorf SM, et al:J Am Coll Cardiol. 2013;61(4):404-10.
5) Nidorf SM, et al:N Engl J Med. 2020. Aug 31.
6) McMurray JJV, et al:N Engl J Med. 2019;381(21): 1995-2008.
7) Wiviott SD, et al:N Engl J Med. 2019;380(4):347-57.
8) Zinman B, et al:N Engl J Med. 2015;373(22):2117-28.
9) Packer M, et al:N Engl J Med. 2020. Aug 29.
10) Bhatt DL, et al:N Engl J Med. 2019;380(1):11-22.
11) Budoff MJ, et al:Eur Heart J. 2020. Aug 29.