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第155回:学会レポート―2023年米国心臓病学会(ACC)

登録日:
2023-07-03
最終更新日:
2024-01-10

執筆:宇津貴史(医学レポーター/J-CLEAR会員)

2023年3月4日から3日間、米国心臓病学会(ACC)学術集会が米国ニューオーリンズで開催された。参加者は2万名弱(うちバーチャルが2000人弱)だった。なおバーチャル参加にはライブ配信はなく、即日配信される演題もきわめて限られていた。ここではその中から、慢性期管理に関連する演題を紹介したい。

TOPIC 1 アントラサイクリン系薬剤治療下のリンパ腫例の心毒性をスタチンが抑制? ─大規模RCT“STOP-CA”

近年、がん化学療法に伴う心毒性を抑制すべく、さまざまな薬剤治療が試みられている。その1つがスタチンだ。小規模なランダム化比較試験(RCT)ではアントラサイクリン系薬剤使用に伴う左室駆出率(EF)低下に対する抑制作用が報告されていたものの1)、近時の296例を対象としたRCT“PREVENT”はEF低下抑制を認めなかった2)

これに対し本学会では、アントラサイクリン系薬剤治療下のリンパ腫例EF低下をスタチンが抑制したと結論する大規模RCT、“STOP-CA”が報告された。では、どれほど抑制されたのか。Tomas G. Neilan氏(マサチューセッツ総合病院、米国)の報告を紹介する。


STOP-CA試験の対象は、アントラサイクリン系薬剤で治療予定のリンパ腫300例である。スタチンの適応がある例は除外されている。米国とカナダの9施設で登録された。

平均年齢は50歳(中央値は52歳)、女性が47%を占め、89%が白人だった。BMIの平均値は28kg/m2である。

アントラサイクリン系薬剤用量は平均で264mg/m2、中央値は300mg/m2だった(ドキソルビシン換算)。

リンパ腫例を対象としたのは、患者数が多く生命予後が良好な上、乳癌よりもアントラサイクリン系薬剤に伴う左室機能低下が著明だから、だという。

これら300例はアントラサイクリン系薬剤の投与開始前にスタチン群(アトルバスタチン40mg/日)とプラセボ群に150例ずつランダム化され、二重盲検下で1年間観察された。化学療法開始前のEF平均値は63%である(心臓MRI評価)。

その結果、1次評価項目である「EFが10%以上低下し55%未満まで増悪」の発生率はプラセボ群の22%に対し、スタチン群では9%の有意低値だった(P=0.002)。

なおClinicalTrials.gov記載の1次評価項目は、「12カ月時点でのEFがスタチンで維持されるかを検討」である。

一方、探索的評価項目として比較された群全体としてのEF低下幅は、スタチン群で4%。プラセボ群(5%)との差は1%のみだった(P=0.029)。

また、心不全を発症したのは全体で11例で、両群間に差はなかった。ただし本試験は心不全発症率の差を検討できるだけの検出力はないという。

有害事象は、筋症状、腎不全とも両群間に有意差を認めなかった。

前出のネガティブ試験PREVENTとの差が生じた要因を問われたNeilan氏は、①対象となるがん種の違い(PREVENTでは85.3%が乳癌)、②アントラサイクリン系薬剤用量の違い(PREVENTでは中央値240mg/m2)─を挙げた。

ちなみにPREVENT試験の1次評価項目は「24カ月後のEF差」である(群間差は0.08%)。

本試験は米国国立衛生研究所と国立心肺血液研究所から資金提供を受けた。

また報告と同時の論文公表はなかった。

TOPIC 2 冠動脈疾患例に対するスタチン「Fire and Forget」は「Treat to Target」に非劣性? ─大規模RCT“LODESTAR”

2013年、米国心臓協会(AHA)とACCが合同で公表した高コレステロール血症治療ガイドライン3)は、LDL-C管理目標値をなくし(十分なエビデンスがないと説明)、患者ごとに推奨されるスタチンの「強度」を明示するにとどめるようになった。スタチン「強度」は心血管系(CV)リスクと治療前のLDL-C値に応じて決められる。LDL-C到達値測定を必要としないこの方法は、軍事用語になぞらえて「Fire and Forget」(撃ちっぱなし)と呼ばれている。一方、従来型のLDL-C管理目標値に向けて薬剤の種類や用量を工夫するのが「Treat to Target」(目標達成に向けた治療)である。わが国のガイドラインでは今日まで一貫して「Treat to Target」方式が採用されてきた。

ではこの2種類のアプローチ、CVイベント抑制の観点からはどちらが優れているのだろうか? その問いに答えを出すべく実施されたRCTが、本学会で報告された“LODESTAR”である。Myeong-Ki Hong氏(延世大学、韓国)の報告を紹介したい。


LODESTAR試験の対象となったのは、冠動脈疾患(安定冠動脈疾患または急性冠症候群)診断歴のある4400例である。LDL-C値の高低は問わない。

平均年齢は65歳、女性は3割弱のみだった。56%にPCI、8%にCABGの施行歴があった。

試験開始前にスタチンを服用していなかったのは全体の16%で、全体のLDL-C平均値は87mg/dLだった。

これら4400例は「LDL-C<70mg/dL」をめざす「Treat to Target」群(<50mg/dLまで低下した際には減量)と「Fire and Forget」群にランダム化され、非盲検下で3年間観察された。「Fire and Forget」群では、先述AHA/ACCガイドラインで中等強度スタチンの適応があればロスバスタチン10mg/日かアトルバスタチン20mg/日、高強度スタチンが必要な患者ではその倍量が用いられた(プロトコール書類、ClinicalTrials.govでは、全例「アトルバスタチン20mg/日かロスバスタチン40mg/日」)。

その結果、1次評価項目である「死亡・心筋梗塞・冠血行再建・脳卒中」の3年間発生率は「Fire and Forget」群で8.7%、「Treat to Target」群が8.1%となり、「Treat to Target」群に対する「Fire and Forget」群の「非劣性」が確認された(非劣性マージン:3.0%)。

ただし試験設計時には両群とも12%のイベント発生率が前提となっており、上記解析は検出力が不足している可能性がディスカッションで指摘されている。

なお両群のカプランマイヤー曲線は乖離とオーバーラップ、時には交差しながら推移していた。

脂質代謝だが、各群平均LDL-C値は試験開始後1.5カ月の時点で「Fire and Forget」群で有意低値となったものの、その後は両群間に差を認めず、おおむね70mg/dL弱で推移した。「LDL-C<70mg/dL」達成率も同様の経過をたどった。

なお「Treat to Target」群でスタチンが当初用量から増量されたのは17%、試験終了時には20%がエゼチミブを併用していた。一方「Fire and Forget」群における最終的なエゼチミブ併用率は11%だった。

安全性については、「スタチン中止」は「Treat to Tar-get」群:1.5%、「Fire and Forget」群:2.2%で有意差なく(P=0.09)、「糖尿病発症」や「筋障害」にも有意差はなかった。

「Treat to Target」に比べ医師の手間は省ける「Fire and Forget」だが、非盲検試験ということもあり、「この試験だけで臨床を変えてよいか」という疑問もディスカッションでは聞かれた(これに対するHong氏の明確な回答はなし)。

また「Treat to Target」群のLDL-C下限を50mg/dLに設定せず、さらに低値まで下げた場合も「Fire and Forget」は非劣性だろうかという声も上がった。

本試験はSamjin PharmaceuticalとChong Kun Dang Pharmaceuticalから資金提供を受けて実施された。

また報告と同時に論文4)が、JAMA誌ウェブサイトで公開された。

TOPIC 3 スタチン服用例のCVイベント抑制に「次の一手」は「LDL-C値低下」よりも「抗炎症」? ─大規模RCTメタ解析

2017年に報告されたRCT“CANTOS”5)、そして19年報告の“COLCOT”6)ではいずれも、脂質代謝改善作用をもたない抗炎症治療によるCVイベント抑制作用が示された。以来、アテローム性動脈硬化疾患に対する抗炎症治療が注目されている。

では、アテローム性動脈硬化疾患に対する標準治療であるスタチンが既に用いられている場合、追加治療では「LDL-C低下」と「抗炎症」のどちらに重きを置くべきだろうか? このような問いに答えるべく実施されたRCTメタ解析が、本学会で報告された。抗炎症治療は想像以上に重要なようだ。Paul M. Ridker氏(ブリガム&ウィミンズ病院、米国)による報告を紹介する。


解析対象となったのはスタチン治療下のCV高リスク例(1、2次予防)に対する、フィブラート、あるいはEPA製剤、オメガ3脂肪酸追加によるCVイベント抑制作用を検討したRCT “PROMINENT”7)(9988例登録)と“REDUCE-IT”8)(8179例)、“STRENGTH”9)(1万3078例)である。

まず各試験ごとに「CVイベント」と「CV死亡」、「総死亡」のリスクを、hsCRP濃度とLDL-C値の四分位群別に算出し、その結果をメタ解析した。なお「CVイベント」に統一の定義はない。

3RCT参加者(3万1245例)の平均年齢はおよそ63歳、女性が占める割合は3割前後だった。BMIは30kg/m2強、58~100%が糖尿病を合併していた。

全例がスタチンを服用しており、高強度スタチン服用例の割合は31~72%だった。

試験開始時のLDL-C平均値は75~78mg/dL強、hs CRP濃度平均は2.0~2.3mg/Lである。「きわめて良好に管理されている」とRidker氏は評した。

リスク評価の元になるhsCRP濃度、LDL-C値四分位群におけるそれぞれの値を、最小四分位群から順に見ると、hsCRP濃度(mg/L)は「<1.1~1.2」「1.1~2.3」「2.0~4.8」「>4.2~4.8」、LDL-C値(mg/dL)は「<56~60」「56~78」「75~102」「>99~102」だった。

そして解析の主題であるhsCRP濃度、LDL-C値四分位群別の、イベント発生リスクは以下の通り。

まず「CVイベント」だが、hsCRP濃度では最低四分位群に比べ第3四分位群で既にハザード比(HR)は1.17の有意高値となり(95%信頼区間[CI]:1.07-1.28)、最高四分位群ではHRは1.31(95%CI:1.20-1.43)まで上昇した。

一方、LDL-C値では「最高」四分位群におけるHRでさえ、「最低」群と有意差はなかった(HR:1.07、95%CI:0.98-1.17)。

CVイベントに与える影響は脂質代謝よりも炎症のほうが大きかった形だが、「この結果は意外だった」とRidker氏は述べた。

「CV死亡」も同様である。hsCRP濃度では最低四分位群に比べ第2四分位群で既に有意なリスク増加を認め、最高四分位群におけるHRは2.68(95%CI:2.22-3.23)に至ったのに対し、LDL-C値区分でリスクが有意に上昇していたのは最高四分位群のみ、しかもHRは1.27(95%CI:1.07-1.50)のみだった。hsCRP濃度最高四分位群に比べるとリスク上昇幅は有意に低値である。

「総死亡」もまったく同じパターンだった。

質疑応答では、hsCRP濃度上昇に伴うHR増加が「CVイベント」よりも「CV死亡」で高かった理由が話題になった。Ridker氏は「CV死因の詳細を把握していないため不明」としながらも、「hsCRP濃度上昇例ではより重篤な、つまり死亡リスクの高い虚血性心疾患をきたしていたのではないか」と推測していた。

次に、hsCRP濃度とLDL-C値の高低で4群にわけ、CV死亡リスクを比較した。脂質代謝と炎症ではCVリスクに与える影響が異なっている可能性があるからだ。

すると、「hsCRP濃度<2mg/L」ならばLDL-C値「<70mg/dL」と「≧70mg/dL」間でCV死亡リスクに差はなかった。一方、「hsCRP濃度≧2mg/L」であれば、LDL- C値が「<70mg/dL」であってもCV死亡HRは、同じく「LDL-C値<70mg/dL」ながら「hsCRP濃度<2mg/L」だった群の約1.7倍まで有意に跳ね上がった。そしてこのリスク増加幅は「hsCRP濃度≧2mg/L、かつLDL-C値≧70mg/dL」群と同等の大きさだった。

これらの結果からRidker氏は、CVイベント減少には強力なLDL-C低下治療に加え炎症抑制も必要だとの考えを示し、低用量コルヒチンやベンペド酸、そしてGLP-1受容体アゴニストが有用である可能性を示唆した。ベンペド酸は本学会で報告された“CLEAR outcomes”試験(後出)でも著明なhsCRP低下作用が報告されており、GLP-1受容体アゴニストはRCTメタ解析でCRP低下作用が確認されている10)

さらにRidker氏は減量や運動、健康な食事や禁煙にも抗炎症作用がある点に言及し、「抗炎症」という観点から生活習慣改善の重要性を再強調した。

解析対象となった3RCTの資金提供社は、今回の解析に一切関与していないという。

また本解析は報告と同時にLancet誌ウェブサイトで公開された11)

TOPIC 4 アルドステロン合成阻害薬にプラセボを上回る降圧作用を認めず ─管理不良高血圧対象RCT“HALO”

新規降圧薬として開発の進むアルドステロン合成阻害薬“Baxdrostat”(バキスドロスタット)だが、その有効性に「?」がともった。

治療抵抗性高血圧例に対する著明な降圧作用こそ、本年1月にRCT“BrigHTN”12)で報告されたばかりだが、管理不良高血圧を対象とした第Ⅱ相RCT“HALO”では、プラセボと降圧作用の差を認めなかったためだ。本学会における、Deepak L. Bhatt氏(マウント・サイナイ・アイカーン医科大学、米国)の報告を紹介する。

HALO試験の対象は、ACE阻害薬またはARB(±チアジド系利尿薬/Ca拮抗薬)服用下で収縮期血圧(SBP)「≧140mmHg」だった249例である。

平均年齢はおよそ60歳、男女はほぼ半数ずつだった。人種としては白人が7割強を占めた。

ランダム化時のSBP平均値は145mmHg強、推算糸球体濾過率(eGFR)平均値は90mL/分/1.73m2弱だった。

これら249例はバキスドロスタット0.5mg、1mg、2mg/日を追加する群またはプラセボ追加群の4群にランダム化され、二重盲検法で観察された。この3用量は前出BrigHTN試験と同じである。

なおランダム化の前にはアドヒアランス確認のため、単盲検導入期間が2~4週間設けられた。

8週間後、1次評価項目である「試験開始時からのSBP低下幅」はバキスドロスタット0.5mg/日群で17.0 mmHg、1mg/日群は16.0mmHg、2mg/日群ならば19.8mmHgだったが、プラセボ群も16.6mmHg低下していたため、プラセボ群との比較では有意差とならなかった。

拡張期血圧での比較も同様だった(プラセボ群でも5.9mmHg降圧)。

一方、アルドステロンの血中濃度はバキスドロスタット3群とも、プラセボ群に比べ著明かつ有意に低かった。また、プラセボに比べレニン活性が有意高値を示したのはバキスドロスタット1mg/日群のみだった。

安全性は4群間で同等だった。

なぜプラセボと降圧作用に差がつかなかったのか。Bhatt氏はアドヒアランス不良の可能性を挙げた。すなわち試験開始8週間後のバキスドロスタット2mg/日群を調べたところ、36%の患者で薬剤血中濃度は予測値の1%未満だったという。そして、それら36%を除外した後付解析では、同群における8週間SBP低下幅は24.3 mmHgとなり、プラセボ群に比べ有意に大きな降圧作用が認められた(P<0.01)。

指定討論者からはプラセボ群におけるSBP著明低下に着目し、本研究で採用された「血圧測定法」の適切さに対する疑義が示された。プラセボ群における大きな降圧幅をいぶかる声は、他の討論者からも聞かれた。

Bhatt氏も、試験参加の一部施設に問題があった可能性を匂わせた。上記のようなアドヒアランス不良が存在していたにもかかわらず、担当施設からは「ピルカウント」を根拠に良好なアドヒアランスが報告されていたためである。

なおClinicalTrials.govの記録13)によれば、本試験に参加した63施設はすべて米国内の施設だった〔米国における臨床試験の暗黒面はCarl Elliot著、“White Coat,Black Hat:Adventures on the Dark Side of Medicine”(2010年、Beacon Press)1章が詳しい〕。

本試験はCinCor Pharmaがスポンサーとなって実施された。

TOPIC 5 ベンペド酸がスタチン不耐例のCVイベントを抑制 ─大規模RCT “CLEAR outcomes”

LDL-C低下治療の絶対的第一選択薬であるスタチンだが、筋障害のため服用できない患者がいる。そのようなスタチン不耐の頻度はRCTのメタ解析で4.9%、コホート研究メタ解析ならば17%と報告されている14)。さらにスタチン不耐により服薬を中止した例では、継続可能例に比べCVイベントリスクが増加する。2万8266例を平均4.4年間観察した米国のデータでは、中止群において「死亡・心筋梗塞・脳卒中」絶対リスクが1.7%有意に上昇していた15)

そこで期待が集まったのが、スタチンよりも上流でコレステロール合成を阻害するベンペド酸である。スタチン不耐例においても21.4%のLDL-C低下作用がプラセボ対照RCTで確認されている16)。そして今回、CVイベント抑制作用も証明された。本学会における、Steven E. Nissen氏(クリーブランド・クリニック、米国)の報告を紹介したい。

“CLEAR outcomes”試験の対象は、CV高リスク1次予防、CV2次予防で、「LDL-C≧100mg/dL」ながらスタチン不耐の1万3970例である。世界32カ国から登録された。

平均年齢は65.5歳、女性が48%を占めた。LDL-C平均値は139mg/dL。30%が高リスク1次予防例、45%が糖尿病を合併していた。

これら1万3970例はベンペド酸(180mg/日)群(6992例)とプラセボ群(6978例)にランダム化され、二重盲検で40.6カ月間(中央値)追跡された。

なお承認最小用量スタチン忍容例も参加可能だったため、試験開始時、両群とも23%がスタチンを服用していた。また両群ともPCSK9抗体とエゼチミブは主治医の判断で使用可能だった。

■CVイベントリスクは相対的に13%の有意低下

その結果、1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞・冠血行再建術・脳卒中」の対プラセボ群HRは、0.87の有意低値となった(95%CI:0.79-0.96)。治療必要者数(number needed to treat:NNT)は63である。

両群のカプランマイヤー曲線は試験開始後1年を待たずに乖離しはじめ、その差は試験終了時まで開き続けた。

この傾向は、1次評価項目から「冠血行再建術」を除いた「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」でも同様だった(ベンペド酸群HR:0.85[95%CI:0.76-0.96])。

次にCVイベントの内訳を見ると、心筋梗塞(致死性・非致死性)と冠血行再建術はいずれもベンペド酸群で有意なリスク低下が認められた一方、脳卒中(致死性・非致死性)、CV死亡では有意差を認めなかった。

それぞれのHR(95%CI)は、
心筋梗塞:0.77(0.66-0.91)
冠血行再建術:0.81(0.72-0.92)
脳卒中:0.85(0.67-1.07)
CV死亡:1.04(0.88-1.24)
である。

なお総死亡HRも1.03(0.90-1.18)だった。

CV死亡・総死亡とも両群のカプランマイヤー曲線は乖離することなく、ほぼ重なったままで推移した。

脳卒中発症率に有意差を認めなかった理由としてNissen氏は「検出力不足」を挙げ、CV死亡と総死亡については「過去10年以上、LDL-C低下療法が生存を改善した臨床試験はない」とコメントしている。

■CRPが著明低下

CVイベント抑制の背景を見ると、 ベンペド酸群では試験開始3カ月後にはLDL-Cが21.7%低下し、観察期間を通じ同等の低下率が維持されていた。

またC反応性蛋白(CRP)も試験開始6カ月後には22.2%の低下を示し、この低下率も試験終了までほぼ維持されていた(プラセボ群では変化なし)。

次に有害事象だが、重篤な有害事象発現率は両群とも25%で、「有害事象による服薬中止」「糖尿病新規発症」「痛風」「胆石症」を含め発現率に有意差はなかった。

本試験はEsperion Therapeuticsからの資金提供を受けた。また報告と同時にNEJM誌に論文17)が掲載された。

余談だがNissen氏にとってニューオーリンズのコンベンションセンターは、「第二のスタチン」と期待されながらCVイベントを抑制できず、逆に死亡リスクを高めたCETP阻害薬の大規模RCT、“ILLUMINATE”を2007年に報告した会場である。今回の報告で悪い思い出は消え去っただろうか?

TOPIC 6 新型コロナ感染に伴う心血管系障害のリスク上昇幅とその種類は? ─最新メタ解析

わが国でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは収束に向かいつつある。そこで臨床家として気になるのが後遺症、いわゆる“Long COVID”だろう。わが国の単施設が実施した最新のアンケート調査では30.5%が感染回復1年後も何らかの異常を報告している18)。またCOVID-19感染後遺症としては「疲労」や「Brain Fog」「味覚障害」などがよく知られているが、心血管系の不調も見逃せない19)。ではCOVID-19感染により心血管系障害リスクはどれほど上昇するのだろう? その点を明らかにすべく実施されたメタ解析が、本学会で報告された。Joanna Lee氏(デイヴィッド・トヴィルディアーニ医科大学、米国)の報告を紹介する。同氏はまだ博士号未取得の医学部生である。


解析対象となったのは、18歳以上を対象にCOVID- 19感染後の症状として心血管系障害関連を報告している11報(588万5453例)である。前向きコホート研究が7報、後方視的研究が3報、症例・対象研究が1報だった。報告例数は600万例弱から数十例までとバラツキは大きい。ただし非ランダム化研究の質指標であるニューカッスル・オタワ・スケール20)は、いずれの研究も「良」とされる「7点以上」だった。

対象患者の平均年齢は26.5〜63歳と幅広く、重篤後遺症に限った1報告を除き中等度以下の症状も報告されていた。COVID-19感染から後遺症発症までの期間は3カ月前後が最も多かった(最短「1~2カ月」、最長「11.6カ月」)。なおワクチン接種の有無、接種者の割合などは不明だという。

これら11報を変量効果モデルでメタ解析した結果、COVID-19感染後に何らかの心血管系障害が発生するオッズ比(OR)は非感染者に比べ、2.35の有意高値となった(95%信頼区間[CI]:1.20-4.60)。ただしバラツキの指標であるI2は91%ときわめて高い。

次に感度分析として最も重みづけの大きかった報告(14.0%)を除外して再計算したが、やはりORは2.98(1.03-8.62)の有意高値が維持された(I2:92%)。さらに2番目に重みづけの大きかった1報(13.4%)を除外した感度分析でもORは有意高値で(OR:2.57、1.74-3.80)、I2も51%となった。

心血管系障害の内訳を見ると、症状としては「胸痛」と「労作時呼吸困難」「疲労」「動悸」が多く、疾患名では「不整脈」「心不全」「血栓症」「心筋炎」、画像所見は「心臓MR上LGE(心筋線維化指標)陽性」と「心エコー上GLS(左室機能指標)低下」が多かった。

これらのリスク因子は解析できなかったという。

本解析について開示すべき利益相反はないとのことである。

【文献】

1) Acar Z, et al:J Am Coll Cardiol. 2011;58(9):988-9.

2) Hundley WG, et al:NEJM Evid. 2022;1(9):doi: 10.1056/EVIDoa2200097.

3) Stone NJ, et al:J Am Coll Cardiol. 2014;63(25PtB): 2889-934.

4) Hong SJ, et al:JAMA. 2023;329(13):1078-87.

5) Ridker PM, et al:N Engl J Med. 2017;377(12):1119-31.

6) Tardif JC, et al:N Engl J Med. 2019;381(26):2497-505.

7) Pradahan AD, et al:N Engl J Med. 2022;387(21): 1923-34.

8) Bhatt DL, et al:N Engl J Med. 2019;380(1):11-22.

9) Nicholls SJ, et al:JAMA. 2020;324(22):2268-80.

10) Mazidi M, et al:Diabetes Complications. 2017;31(7): 1237-42.

11) Ridker PM, et al:Lancet. 2023;401(10384):1293-301.

12) Freeman MW, et al:N Engl J Med. 2023;388(5):395-405.

13) https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT05137002? term=CinCor&draw=2

14) Bytyçi I, et al:Eur Heart J. 2022;43(34):3213-23.

15) Zhang H, et al:Ann Intern Med. 2017;167(4):221-7.

16) Laufs U, et al:J Am Heart Assoc. 2019;8(7): e011662.

17) Nissen SE, et al:N Engl J Med. 2023;388(15):1353-64.

18) Morioka S, et al:Public Health. 2023;216:39-44.

19) Raman B, et al:Eur Heart J. 2022;43(11):1157-72.

20) McPheeters ML, et al:Evid Rep Technol Assess. 2012;208.3:1-475.

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