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140回:学会レポート─2022年国際脳卒中学会(ISC)

登録日:
2022-04-14
最終更新日:
2022-04-14

執筆:宇津貴史(医学レポーター/J-CLEAR会員)

2月8日から4日間、米国ニューオーリンズ(ルイジアナ州)において国際脳卒中学会(ISC)学術集会が開催された。すべてウェブでも配信されるハイブリッド開催である。現地では入場にあたり、ワクチン接種証明書に加え、24時間以内の陰性証明の提出が求められた。また、会場での抗体検査も可能だった。日本で実施された大規模試験“RESCUE-Japan LIMIT”、さらに予防・慢性期管理に関する話題を紹介したい。

TOPIC 1
広範囲脳梗塞にも血管内治療は有用: 日本発RCT“RESCUE-Japan LIMIT”がISCのLate Breakerを飾る

学会初日、日本で実施されたランダム化試験が、Late Breaker(学術集会のメインとなる重要な試験)として報告された。吉村紳一氏(兵庫医科大学)が報告した“RESCUE-Japan LIMIT”である。現在、経皮的血栓回収術の適応となっていない広範囲脳梗塞に対する、同手技の有用性が検討された。

対象は、全国45施設から3年間弱かけて登録された内頸動脈・中大脳動脈主幹部閉塞で「ASPECTS:3ー5」(86.2%がMRI評価)、かつ「修正ランキンスケール(mRS):0ー1」の、脳梗塞急性期203例である。

平均年齢は76歳、44.3%を女性が占めた。入院時のASPECTS中央値は3だった。

これら203例は、tPAを含む薬剤療法のみを実施する(薬剤治療単独)群と、薬剤療法に血栓回収術を追加する(血管内治療追加)群にランダム化され、非盲検下で90日間観察された。なおASPECTS中央値は「血管内治療追加」群で「3」となり、「薬剤治療単独」群の「4」よりも低値だった。またtPA施行率は25%強だった(「血管内治療追加」群:26.7%、「薬剤治療単独」群:28.4%)。

その結果、1次評価項目である90日後「mRS:0ー3」の割合は、「血管内治療追加」群で31.0%となり、「薬剤治療単独」群(12.8%)よりも達成可能性は有意に高かった(相対リスク[RR]:2.43、95%信頼区間[CI]:1.35ー4.37)。

一方、安全性評価項目であるランダム化後48時間以内の「症候性(NIHSS 4ポイント以上増悪)頭蓋内出血」の発生率は、「血管内治療追加」群:9.0%、「薬剤治療単独」群:4.9%でリスクに有意差はなかった(1.84、0.64ー5.29)が、「全頭蓋内出血」は58.0%と31.4%となり、「血管内治療追加」群における有意なリスク増加を認めた(1.85、1.33ー2.58)。しかし、90日死亡リスクに有意差はなかった(0.77、0.44ー1.32、18.0 vs. 23.5%)。

本研究は、美原脳血管障害研究振興基金、ならびに日本脳神経血管内治療学会から資金提供を受けて実施された。

また報告と同時に論文もNEJM誌ウェブサイトにて公開された1)。わが国で実施された心臓血管系ランダム化試験がNEJM誌に掲載されるのは、本報告が3報目(前2報はいずれもDOAC関連)。脳血管領域では初の掲載である。

TOPIC 2
SPRINT試験再検討:超積極降圧が「脳卒中」リスクに及ぼす影響は?

2015年に報告された大規模降圧ランダム化試験“SPRINT”は2)、報告直後から様々な議論を呼んだ。その1つが「脳卒中」である。心血管系(CV)イベントの中でも血圧に鋭敏とされる脳卒中だが、SPRINT試験では「超積極」降圧群と「通常」降圧群間に有意なリスクの差を認めず(「超積極」降圧群におけるハザード比:0.89、95%信頼区間:0.63ー1.25)、多くの専門家がこの結果に首をひねった。

しかし、試験開始時に軽度の認知機能低下を認める例では、超積極降圧による脳卒中抑制作用が認められる可能性があるようだ。後付け解析の結果として、Adam de Havenon氏(イエール大学、米国)が報告した。

よく知られている通り、SPRINT試験は超積極降圧の有用性をCV高リスク高血圧例(除:脳血管障害既往例、糖尿病合併例)で検討した二重盲検試験である。医療機関における診察室外自動測定(±医療従事者立ち会い)3)による収縮期血圧(SBP)目標値「<120mmHg」群と「<140mmHg」群にランダム化された。

今回、後付け解析の対象となったのは、試験開始時にMoCAスコア「19ー25」だった5507例である。平均年齢は67.8歳、66.6%が女性だった。「超積極」降圧群と「通常」降圧群の背景因子に差は認めない(MoCAスコア中央値に統計学上有意差があったが、22.4 vs. 22.5で臨床上意味はないとHavenon氏)。

平均3.8年間の観察期間中、1.7%(95例)が脳卒中を発症した。内訳は「超積極」降圧群:1.5%、「通常」降圧群:2.3%であり、両群のリスクには有意差が認められた(P=0.04)。なお両群のカプラン・マイヤー曲線は、試験開始後200日ほどで乖離を始めるも、600日ごろには一度重なり、その後再び乖離し始める─という経過をたどった。これらの結果は、対象を試験開始時MoCAスコア「20ー26」例に変更して解析しても同じだった。

なお、本発表の数字から算出すると、試験開始時に軽度認知機能低下を認めなかった4253例の脳卒中発症率は、「超積極」降圧群で1.1%となり、「通常」降圧群の0.61%よりも(少なくとも見かけ上は)2倍近い「高値」となる。こちらも詳細な亜集団解析を待ちたい。

本解析は研究者発案で実施され、Regeneron、AMGEN、AMAG pharmaceuticalsからの資金提供を受けた。

TOPIC 3
妊娠脳卒中の院内死亡率は5%強:米国実態調査

妊産婦の脳卒中は、リスク因子や予後に不明な点が多い。これは米国でも同様だという。そこでAayushi Garg氏(アイオワ大学、米国)は米国大規模データベースを用いてそれらを検討した。脳循環の器質的障害だけでなく、生活習慣病も大きなリスク因子である可能性が示された。

今回解析対象となったのは、全国データベースへ2016~18年に登録された妊娠脳卒中3498例と、脳卒中以外の妊娠関連入院例の5%標本となる62万8106例である。平均年齢は29歳。脳卒中の内訳は、脳出血が56%、脳梗塞が47%、脳静脈洞血栓症が3%だった(重複あり)。

これら63万例強から、妊娠脳卒中と独立して相関する発症前因子を洗い出したところ、「可逆性脳血管攣縮症候群」(オッズ比[OR]:690.1)、「脳動静脈奇形」(209.8)、「もやもや病」(103.6)、「頭蓋内動脈瘤」(86.0)といった器質的異常のみならず、「高血圧」(12.4、95%信頼区間[CI]:9.8ー15.8)、「脂質異常症」(9.0、6.7ー12.1)、「心房細動」(7.1、3.8ー13.3)、さらに「片頭痛」(4.8、3.9ー6.0)などが挙がった。なお「妊娠高血圧症候群」のORは2.5(2.2ー2.8)、「10歳加齢」は1.3(1.1ー1.4)だった。

次に転帰だが、脳卒中例の院内死亡率は5.3%(非脳卒中入院例の院内死亡率は0.01%)、自宅以外への退院率は29.7%だった。なお、脳梗塞例のうちtPA静注を受けていたのは4%のみで、血管内治療が7%だった。

脳卒中再発は、退院後平均183日の間に1.9%で観察された。再発までの期間平均値は43日だった。再発率は脳出血よりも脳梗塞で高い傾向が見られた。
本研究には開示すべきCOIは存在しないとされた。

TOPIC 4
脳卒中後の機能回復評価はmRSだけでOK?

修正ランキンスケール(mRS)は、脳卒中後の機能回復指標として最も汎用されている。しかし、患者目線の生活自立度まで適切に評価しているだろうか─。そのような観点からSIS-ADL(Stroke Impact Scale-Activities of Daily Living)の有用性を検討した結果が、Steven C. Cramer氏(カリフォルニア大学、米国)により報告された。mRSの代替、あるいは補完評価法としての有用性が示唆された。

SIS-ADLは、脳卒中に特異的な健康状態の評価法(SIS)から日常生活動作(ADL)に関する10項目を抽出した質問票である4)。それぞれの項目につき、患者本人が5段階で評価する(困難なほど低ポイント)。今回Cramer氏は脳卒中後の機能評価をmRSとSIS-ADL間で比較した。

対象となったのは、脳梗塞・脳出血発症後2~10日の763例中、90日後に評価可能だった511例である。平均年齢は62.3歳、急性期NIHSS平均は4と、基本的に中等症以下の患者が多かった。
さて90日後のmRS平均値は2、SIS-ADLは87.5ポイントで、両者間には良好な負の相関が認められた(r=ー0.74、P<0.0001)。

ただし、SIS-ADLのほうがより詳細に、生活自立度を評価できる可能性も示された。すなわち、mRS「1」(明らかな障害なし)だった167例でも57.5%はSIS-ADL上で何らかの困難を訴えていた。また、同じmRS「1」の中でも、SIS-ADL「65」ポイント例と「72.5」ポイント例が混在していた。

またmRSは、SIS-ADLで評価した「排尿」、「排便」コントロール困難との相関が低いことも明らかになった。さらにSIS-ADLは「抑うつ」状態(PHQ-8評価)との相関も、mRSに比べ良好だった。

「SIS-ADLのほうがより鋭敏な指標である」とCramer氏は結論した。

本試験、ならびに本解析に関するCOIは開示されなかった。


*食事、着衣、入浴、爪切り、トイレ、排泄(大小)コントロール、家事(軽重)、買い物。

TOPIC 5
脳卒中だけでなく心筋梗塞後も認知機能低下に要注意?:大規模前向きコホート併合解析

脳卒中が認知機能低下の一因であるのはよく知られているところだが、心筋梗塞(MI)も同様に認知機能低下リスクを増加させる可能性が示された。Michelle C. Johansen氏(ジョンズホプキンス大学、米国)が、大規模観察研究を併合した結果として報告した。

解析対象とされたデータは、1970年代から2010年代に実施された、Framingham Offspring研究、ARIC研究、MESA研究など、6つの前向きコホート研究から提供を受けた。初回の認知機能評価時にMI既往と認知症を認めなかった3万1377例が解析対象になった。

これらを観察期間中のMI発症で2群に分け、発症後の認知機能の推移を比較した。

観察期間中央値6.4年の間に、1047例がMIを発症した。MI発症例は非発症例に比べ高齢(59 vs. 54歳)で、喫煙者が多く(21 vs. 18%)、また収縮期血圧(142 vs. 134mmHg)、LDLコレステロール(135 vs. 123mg/dL)とも高値だった(いずれ意差)。その上で、MI再発例と脳卒中発症例を除外した成績が示された。

まず包括的認知機能だが、MI非発症例では観察期間を通じて「0.5ポイント/年」低下した。MI発症例も発症までは非発症例と差を認めなかったが、発症後は低下率が「0.15ポイント/年」増悪していた(P<0.0001)。ただし、この低下率増加が認められたのはMI発症後2年以上経過後であり、MI発症直後には観察されなかった。「実行機能」、「記憶」のみで検討しても同様の結果だった。

Johansen氏は本解析が、「MIへの治療の影響を考慮していない」などの限界があるとしながらも、MI後認知機能低下をもたらす機序や、効果的な介入法を探るべきだとの見解を示した。

解析対象となったコホート研究を含め、本研究への資金は公的機関から提供されている。

【文献】

1) Yoshimura S, et al:N Engl J Med. 2022. Feb 9. doi: 10.1056/NEJMoa2118191. Online ahead of print.

2) SPRINT Research Group:N Engl J Med. 2015;373 (22):2103-16.

3) Johnson KC, et al:Hypertension. 2018;71(5):848-57.

4) Duncan PW, et al:Arch Phys Med Rehabil. 2003;84 (7):950-63.

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