3月17日から3日間、国際脳卒中学会(ISC)が行われた。Web上のみでの開催である。報告数は、Late Break-erが11報、一般演題はスライド報告、モデレートポスターとも約60報ずつ。ポスターのみの報告がおよそ850報だった。急性期治療についての報告が多い本学会だが、亜急性期、慢性期の話題も紹介したい。
機械的血栓除去術(MT)の適応がある脳梗塞例に対する、経静脈的血栓溶解療法(IVT)スキップの有用性が定まらない。わが国で実施されたSKIP試験では「IVT後MT」に対する非劣性は証明されなかったが1)、中国のDEVT試験では非劣性が確認された2)。さらに欧米人を対象としたランダム化試験“MR CLEAN-NO IV”においても、「IVT後MT」に対する非劣性は証明されなかった(本学会で報告)。このような知見に対しRaul G Nogueira氏(エモリー大学、米国)は、適応をより細かく見きわめるべきではないかと主張する。根拠となったのは上記SKIP、DEVT試験データを用いた“SHRINE”研究である。Late Breakerとして報告された。
SHRINE研究はSKIP、DEVT試験参加例の患者レベルデータ併合解析である。
対象は、両試験参加例中、発症後4.5時間以内で治療前の修正ランキンスケール(mRS)が「0ー1」、NIHSS「≧6」で、かつ画像上で虚血傷害が早期と判断された、頭蓋内内頸動脈/中大脳動脈本幹閉塞脳梗塞438例である。221例が「IVT後」MT群、217例は「IVTスキップ」MT群にランダム化されていた。両群間の背景因子に差はない。
平均年齢は72歳、治療前NIHSS中央値は16、ASPECTS中央値は8だった。またおよそ4分の1が頭蓋内内頸動脈閉塞例だった。「発症から穿刺までの時間」(中央値)は、「IVT後」MT群で188分、「IVTスキップ」MT群は170分と、有意差はなかった(P=0.06)。
その結果、1次評価項目である「90日後mRS:0-2」のオッズ比(OR)は、「IVTスキップ」群で、「IVT後」群に比べ、1.23となったが、95%信頼区間(CI)は「0.84ー1.79」であり、有意差とならなかった。さらに非劣性マージン下限である0.85も下回ったため、非劣性も確認されなかった。同様に「90日間生存」ORも、「IVTスキップ」群では1.06(95%CI:0.61ー1.84)という結果だった。
一方、サブグループ解析からは興味深い結果が得られた。すなわち、「発症から穿刺までの時間」が「180分」を超えると、「IVTスキップ」群の「90日後mRS:0ー2」ORは2.28(95%CI:1.18ー4.38)と「IVT後」群に比べ有意に高く、穿刺までの時間の長短による交互作用P値は0.02だった。また交互作用P値は0.06だったものの、内頸動脈閉塞では「IVTスキップ」群のORが有意に高く(3.04、1.16ー8.43)、病型により有効性に差がある可能性も示された。さらに心房細動(AF)合併例では、「IVTスキップ」群の90日死亡リスクは、「IVT後」群に比べ、低い傾向を認めた(ただし、交互作用P値=0.03)。症候性頭蓋内出血リスクも同様で、AF合併例で低い傾向を認めた(交互作用P値=0.02)。
Nogueira氏は、これらの患者集団に対する「IVTスキップMT」の有用性を今後検討する必要を訴えた。
非心原性と診断された脳梗塞の1割強に、AFが隠れている可能性がある。Lee H. Schwamm氏(マサチューセッツ総合病院、米国)がLate Breakerとして報告したランダム化試験(RCT)“STROKE-AF”の結果である。同氏は「非心原性」脳梗塞に対する抗血栓治療を再考する必要性を指摘した。
STROKE-AF試験の対象は、米国33施設にて「アテローム動脈硬化性脳梗塞」、または「ラクナ梗塞」と診断されてから10日以内だった50歳以上の496例。ただし60歳未満は脳梗塞に加え、脳卒中リスク因子を有する例に限定した。また上室性不整脈既往例は除外されている。
平均年齢は67歳、男性が62%を占めた。脳梗塞類型は57%がアテローム動脈硬化性脳梗塞、43%がラクナ梗塞で、NIHSS中央値は2.0と比較的軽症だった。またCHA2DS2-VAScスコア中央値は5.0と、AFがひそんでいた場合、抗凝固療法の対象となる例が多く含まれていた。
これらを心臓モニタ植込み(ICM)群と通常観察群にランダム化し、最低12カ月間、AF検出率を比較した。AFの定義は、2分30秒以上持続したP波消失の脈不整である。
その結果、ICM群では12カ月間に12.1%でAFが検出された。対通常観察群(1.8%)のハザード比(HR)は7.41(95%CI:2.60ー21.28)である。また、ICM群で検出されたAF中、観察開始後30日以内に検出されたのは22%のみだった。
興味深いのは、これらの数字は、潜因性脳梗塞例を対象にICM群と通常観察群を比較したRCT“CRYSTAL-AF”3)とほぼ同一だという点である。AF検出カプラン・マイヤー曲線も、ICM群、通常観察群を問わず、両試験間でほぼ同一だった。
なお、STROKE-AF試験の結果を、初発類型「アテローム動脈硬化性脳梗塞」、「ラクナ梗塞」別に分けて検討しても、AF検出率(12% vs. 13%)、AF検出カプラン・マイヤー曲線とも同様だった。
次にICM群のみで検討すると、まず、検出された初発AFの96%は無症状だった。さらに、56%のAFは1時間を超えて持続し、44%では4時間を超える持続時間が観察された。
またICM群AF検出例の67%で抗凝固療法が開始され、12カ月間の脳梗塞再発率は6.7%だった。9.8%だった通常観察群に比べHRは0.67となったが、95%CIは0.35ー1.28で有意差とはならなかった。
以上の結果よりSchwamm氏は、非心原性であっても脳梗塞再発抑制には、ICMを用いた1年間のAF探知が有用ではないかと述べた。本試験は最長36カ月まで観察予定であるため、AF検出例における抗凝固薬開始の有用性を今後も観察する予定だという。
本試験はMedtronic社から資金提供を受けて実施された。
Minor脳梗塞と一過性脳虚血発作(TIA)に対しては、急性期から亜急性期にかけての短期間抗血小板薬併用(DAPT)が、抗血小板薬単剤に比べ、虚血性脳血管障害再発抑制の観点から有用だとされている。これらは主に“CHANCE”4)、“POINT”5)という2つのランダム化試験が根拠になっているが、POINT試験の追加解析の結果、DAPTが有用な患者群は一部に限られる可能性が示された。Alexandra Kvernland氏(ニューヨーク大学ランゴーン医療センター)が報告した。
POINT試験の対象は、「NIHSS≦3」の脳梗塞、あるいは「ABCD2スコア≧4」のTIA(ランダム化時には症状消失)4881例である。発症後12時間以内に全例アスピリンを服用の上、クロピドグレル併用(DAPT)群とプラセボ(単剤)群にランダム化され、90日間二重盲検法で観察された。その結果、DAPT群では単剤群に比べ、90日間脳梗塞再発(2次評価項目)HRは0.72(95%CI:0.56ー0.92)と有意に低かったものの(5.0% vs. 6.5%)、大出血HRは2.32(95%CI:1.10ー4.87)の有意高値だった(0.9% vs. 0.4%)。
今回Kvernland氏らは、試験開始時の画像評価上「梗塞」の有無が、DAPTによる脳梗塞再発リスク低減に影響を与えるかを検討した。解析対象は、画像所見が欠落していた5例を除外した4876例である。
その結果、36.8%に試験開始時、画像上で梗塞が確認された(「梗塞」群)。ただし梗塞の有無を問わず、DAPT群と単剤群の割合は50%ずつだった。
脳梗塞再発リスクを梗塞の有無で分けて比較すると、「梗塞」群における諸因子補正後HRは3.21(95%CI:2.49ー4.14)と有意に高くなっていた。そしてこのような再発高リスクである「梗塞」群では、抗血小板薬「単剤」群に比べ「DAPT」群における脳梗塞再発リスクの有意低下が認められたものの(HR:0.56、95%CI:0.41ー0.77)、試験開始時に梗塞を認めなかった群では、DAPTによるリスク低下を認めなかった(同1.16、0.74ー1.65)。
さらにこの結果を「minor脳梗塞」と「TIA」に分けて解析すると、TIA例では梗塞の有無を問わず、DAPTによる脳梗塞再発リスク低減は観察されなかった。つまり、DAPTによる有意な脳梗塞再発抑制が認められたのは、画像上梗塞を認めた「minor脳梗塞」群のみである(minor脳梗塞群内のDAPT有無に伴う交互作用P値=0.005)。なお今回の検討対象4876例中、画像上梗塞を認めたminor脳梗塞例は27.4%だった。
DAPTが有用となる患者群を特定するために、minor脳梗塞とTIAの診断精度を向上させる必要がある。Kvernland氏はこのように主張した。
本試験は、国立神経疾患・脳卒中研究所から資金提供を受けて実施された。Kvernland氏に開示すべき利益相反はない。
国土の広い米国では、地域により脳卒中再発率に大きなばらつきがある。この原因を探ったところ、古典的リスク因子とは異なるいくつかの要因が見つかった。Erica C Leifheit氏(イエール大学、米国)が報告した。
同氏らが解析対象としたのは、米国の高齢者向け公的保健メディケアを受給している65歳以上住民である。2001〜04年、05〜08年、09〜12年、13〜16年の4期間に分け、脳卒中発症後1年間の再発率を調べた。その上で全米各地の「郡」(county)を、期間ごとの再発率5分位数で「最多」に分類された回数(0~4回)を基準として5つの地域に分けた(最多となった回数0回:再発低リスク地域~4回:再発高リスク地域)。
その上でこれら5地域の住民背景因子を比較すると、年齢、性別や人種分布に大きな差はなく、貧困者向け公的保険(メディケイド)二重受給者の占める割合も各地域間に大きな差はなかった。さらに興味深いことに、高血圧や糖尿病、腎不全、慢性心不全の合併率も5地域間で同様だった。
そこで次に、「地域特性」をいくつかの指標で比較してみた。すると「社会経済的背景」と「医療への易アクセス度」、「健康的行動」、「生活環境」の4因子の組み合わせで、脳卒中再発リスク差の多くが説明できることが明らかになった(C統計量=0.84)。これらのうち「医療への易アクセス度」は、人口あたりの「プライマリ・ケア医の数」、「歯科医の数」、マンモグラフィー実施やHbA1c検索実施で評価した「定期チェックの頻度」で評価されている。これらが多いほど再発リスクは少ない。また人口あたりの「レクリエーション施設数/フィットネス施設数」も多いほうが、再発リスクは低くなっていた。
Leifheit氏は、脳卒中再発減少を目指すのであれば、これらの要因も改善が必要ではないかと考察していた。
本研究は米国国立衛生研究所内、加齢研究所(NIA)と米国心臓協会(AHA)から資金を受けて実施された。Leifheit氏に開示すべき利益相反はない。
【文献】
1) Suzuki K, et al:JAMA. 2021;325(3):244-53.
2) Wenjie Zi, et al:JAMA. 2021;325(3):234-43.
3) Sanna T, et al:N Engl J Med. 2014;370(26):2478-86.
4) Wang Y, et al:N Engl J Med. 2013;369(1):11-9.
5) Johnston SC, et al:N Engl J Med. 2018;379(3): 215-25.