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第162回:学会レポート―2023年欧州心臓病学会(ESC)

登録日:
2024-01-17
最終更新日:
2024-02-27

執筆:宇津貴史(医学レポーター/J-CLEAR会員)

さる2023年8月25日から4日間、オランダ・アムステルダムにて欧州心臓病学会(ESC)学術集会が開催された。参加者は医療従事者に限ってもおよそ3万人(ライブ参加が8割)。日本からの参加者はブラジルに次ぐ9番目の600名弱だった。採択演題数は米、独に次ぐ3位である(284報)。本年は昨年に比べ、議論の淡白さが残念に思われた。ここでは大規模臨床試験を中心に紹介したい(8月下旬のウェブ速報を整理・加筆)。

TOPIC 1
ACS/出血高リスク例に対するDES留置直後からの「アスピリン抜きSAPT」には有用性なし?─日本発大規模RCT“STOPDAPT3”

急性冠症候群(ACS)において、薬剤溶出性ステント(DES)留置直後からの「P2Y12阻害薬」単剤(アスピリン抜きSAPT)は「アスピリン・P2Y12阻害薬」併用(DAPT)に比べ、大出血リスクを抑制しないだけでなく、心血管系(CV)転帰を増悪させる可能性があることが明らかになった。わが国で実施されたランダム化比較試験(RCT)“STOPDAPT3”の結果である。夏秋政浩氏(佐賀大学・循環器内科)が報告した。

「アスピリン抜きSAPT」は、DAPT 1カ月継続後からの変更/開始であれば、「3カ月DAPT継続」に比べ「死亡・心筋梗塞(MI)・脳卒中」リスクを増やすことなく「大出血リスク」を有意に減少させる。これは既に、出血高リスク例を対象としたRCT“MASTER DAPT”1)で明らかになっている。しかし、より早期における「アスピリン抜きSAPT」開始で同様の有用性が得られるかは明らかでなかった。

【対象】

STOPDAPT3試験の対象となったのはDESが留置された、出血高リスク冠動脈疾患、あるいはACS発症6002例である。試験設計時に予定通りの例数登録に成功した。

平均年齢は72歳、ACS例が75%を占めた。また55%は「出血高リスク」だった。抗血栓療法については34%が、試験前7日間に抗血小板薬を服用していた。抗凝固薬使用例はいずれも、9%前後だった。

【方法】

これら6002例を「アスピリン抜きSAPT」群(P2Y12阻害薬[プラスグレル]3.75mg/日)と「DAPT」群(同薬+アスピリン81~100mg/日併用)にランダム化し1カ月間、非盲検下で観察した。

両群とも追跡不能例は0.1〜0.2%のみだった。

【結果】

その結果、1次評価項目の1つである1カ月間の「大出血」(BARC出血基準3-5)発生率は、「アスピリン抜きSAPT」群4.47%、「DAPT」群4.71%で群間に有意差はなかった。

これら出血イベント発生率はほぼ試験開始時の想定通りであり、検出力不足の可能性は低い。

なおこの結果は、対象疾患がACSであるかどうかにかかわらず一貫していた(交互作用P=0.69)。

同様に、もう1つの1次評価項目である「CV死亡・MI・ステント血栓症(definite[血栓の存在を確認])・脳梗塞」発生率も「アスピリン抜きSAPT」群4.12%、「DAPT」群3.69%で有意差はなかった。イベントの発生率はこちらも試験開始時の想定通りだった。この結果もACS、非ACS例を問わず一貫していた(交互作用P=0.16)。

加えて「アスピリン抜きSAPT」による上記CVイベント抑制作用は、「DAPT」に対する「非劣性」も確認された。ただし非劣性マージンは「1.5」と比較的広い。

他方、CVイベント中「亜急性期ステント血栓症」のみで比較すると、「アスピリン抜きSAPT」群での発生率は0.58%となり、「DAPT」群の0.17%よりもリスクは有意に高くなっていた(ハザード比[HR]:3.40、95%信頼区間[CI]:1.26-9.23)。

同様に「緊急冠血行再建術施行(標的病変以外も含む)」リスクも「アスピリン抜きSAPT」群(1.05%)で「DAPT」群(0.57%)に比べ有意に上昇していた(HR:1.83、95%CI:1.01-3.30)。

【考察など】

指定討論者であるMarco Valgimigli氏(ティチーノ心臓センター財団、スイス)は「出血高リスク群」のみを対象とした解析も見たいとコメントしていた。

本研究はアボットジャパン合同会社からの資金提供を受け実施された。

なお本試験が報告された「HOTLINE」セッションは、ESC学術集会きっての檜舞台である。臨床に大きな影響を及ぼすと考えられる質の高い臨床試験のみが採択され、1、2を争う大会場で報告される。また学会報告とは別に記者会見の場も用意されており、テレビカメラが入ることもある。

TOPIC 2
高齢フレイルAF例ではDOACよりVKAのほうが安全性高い可能性─大規模RCT“FRAIL-AF”

心房細動(AF)例の約2割を占めるとされるフレイル2)例だが、これらに対する直接経口抗凝固薬(DOAC)はビタミンK阻害薬(VKA)よりも出血リスクがはるかに高い可能性が明らかになった。ランダム化比較試験(RCT)“FRAIL-AF”の結果、「VKAからDOACへの切り替え」群では「VKA継続」群に比べ出血リスクが1.5倍以上に増加していた。Linda P.T. Joosten氏(ユトレヒト大学、オランダ)による発表を中心に紹介する。

【対象】

FRAIL-AF試験の対象は、75歳以上で「Groningen Frailty Indicator(GFI)≧3」のフレイルを認める、外来管理下でVKA服用中の非弁膜症性AF 1330例である。「推算糸球体濾過率<30mL/分/1.73m2」例は除外されている。

平均年齢は83歳、CHA2DS2-VAScスコア中央値は4、GFI中央値は4だった。

【方法】

これら1330例は「VKA継続」群(アセノクマロール、フェンプロクモン)と「DOAC切り替え」群〔VKA中止後「INR<2.0」ならDOAC開始。のちに「INR<1.3」に変更(出血多発のため)〕にランダム化され、平均344日観察された。

「VKA継続」群の目標INRは「2.0~3.0」、「DOAC切り替え」群のDOAC選択は担当医に任された。

証明すべき仮説は「DOACへの変更で出血が減少する」である。

【結果】

しかし、1次評価項目である「大出血・要対応非大出血」発生率は逆に、「DOAC切り替え」群(15.3%)で「VKA継続」群(9.4%)に比べ有意に高く(P=0.00112)、ハザード比(HR)も1.69(95%信頼区間[CI]:1.23-2.32)の有意高値だった。

この「DOAC切り替え」群におけるリスク増加は「要対応非大出血」で特に著明だった。

2次評価項目である「血栓塞栓症イベント」も「DOAC切り替え」群におけるHRは1.26だったが有意ではなく(95%CI:0.60-2.61)、「総死亡」HRも0.96(95%CI:0.64-1.45)と有意差を認めなかった。

【考察】

この結果について指定討論者であるIsabelle C Van Gelder氏(フローニンゲン大学、オランダ)は以下を指摘した。

・安全性でDOACがVKAを上回った4つのランドマークRCTの対象平均年齢が70歳代前半だったのに対し、FRAIL-AF試験では83歳だった。まったく異なる患者群と考えるべきだろう。

・特にFRAIL-AF試験参加例の「9割近くが常時4種以上の薬剤を服用」「約半数が視覚や聴覚に問題」「4割弱が記憶力低下に困惑」などの患者特性には注意が必要。

・両群の出血発生曲線が乖離しはじめるのは、試験開始後90日前後なので、「抗凝固薬切り替え」そのものが出血リスクを増やしたとは考えられない。

・本試験「VKA継続」群のINR TTR(目標域達成時間の割合)中央値は上記ランドマークRCTと同等なので、FRAIL- AF試験におけるINR管理の良さが「VKA継続」群の出血を減少させたわけではなさそうだ。

・DOACの不適切減量も6.6%のみだった。

・フレイル例に対する有用性がDOAC間で異なる可能性を示唆するデータもあるため3)、本試験で多用されていたDOACよりも出血リスクの低い薬剤が多く用いられていれば、DOAC群の出血が減少した可能性はある。しかしそれだけで今回の結果が説明できるとは思えない。

・(詰まるところ)DOACはまだ比較的臨床経験の少ない薬剤であり、未知の相互作用が隠れている可能性もある。それゆえINRを目安に調節できるVKAのほうが安全だったのかもしれない。

さらにJoosten氏、Gelder氏ともに強調したのが「RCTに基づかないコンセンサスベース推奨」の危うさだった。

欧州不整脈学会は本年4月、フレイル例の不整脈管理に関するコンセンサス文書を公表し、「DOACのVKAに対する優位性はフレイル、非フレイルいずれのAF例でも一貫しているだろう」「DOACの恩恵はフレイル例でより大きいだろう」と記している4)。今回のFRAIL-AF試験はDOAC治療開始とVKA治療開始を直接比較しているわけではないが、少なくともこのコンセンサスを支持するものではない。

本研究はオランダ政府、ならびにDOAC製造4社すべてから資金提供を受けた。

また報告と同時に、Circulation誌ウェブサイトに論文5)が掲出された。

TOPIC 3
GLP-1-RA皮下注は非糖尿病・肥満心不全(EF≧45%)の症状を改善、長期CV転帰への影響は不明─RCT“STEP-HFpEF”

左室収縮能が著明低下していない心不全(HFmr/pEF)が肥満である場合、2型糖尿病を合併していなくても、GLP-1受容体作動薬(GLP-1-RA)でQOLを改善できることが明らかになった。ただし長期心血管系(CV)転帰に対する影響は不明である。Mikhail N. Kosiborod氏(ミズーリ大学カンザスシティ校、米国)が、ランダム化比較試験(RCT)“STEP-HFpEF”の結果として報告した。なお既報では、HFpEFに占める肥満例の割合は4割と報告されている6)

【対象】

STEP-HFpEF試験の対象は、「BMI≧30kg/m2」で「左室駆出率(EF)≧45%」、加えてうっ血所見のある症候性心不全529例である。ただし「KCCQ-CSS(心不全QOL指標)≧90」や「6分間歩行距離<100m」「糖尿病例」などは除外されている。

年齢中央値は69歳、56%を女性が占めた。BMI中央値は37kg/m2、EF中央値は57%だった。

またKCCQ-CSS中央値は59、6分間歩行距離中央値が320mと「症状は強く運動耐容能もかなり損なわれていた」(Kosiborod氏)。

心不全治療薬は、79%がβ遮断薬、80%がレニン・アンジオテンシン系阻害薬(含ARNi)、81%が利尿薬を用いていたが、SGLT2阻害薬を服用していたのは3.6%のみだった(患者登録完了は2022年3月)。

【方法】

これら529例はGLP-1-RA(セマグルチド0.25→2.4 mg/週)皮下注群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で52週間観察された。

【結果と考察】

その結果、1次評価項目の1つである試験開始52週間後の「KCCQ-CSS」は、GLP-1-RA群、プラセボ群とも試験開始時に比べ増加したが、GLP-1-RA群のほうが7.8点の有意高値となった。両群間の差は試験開始直後から認められ、試験期間を通じて広がり続けた。

なおKCCQ-CSSの変化は「5点」以上で臨床的に有意とされるが、転帰に影響するのは「10点」以上の変化だという7)

もう1つの1次評価項目である「体重低下」幅も同様に、GLP-1-RA群で10.7%、有意に大きかった。

2次評価項目である「6分間歩行距離」も、GLP-1-RA群で20.3mの有意高値となった。

さらにCRP(2次評価項目)とNT-proBNP(探索的評価項目)も、GLP-1-RA群で有意に低値となっていた。

安全性については、有害事象による服薬中止がGLP-1-RA群で多かった(13.3% vs. 5.3%[検定なし])。一方「死亡」は、両群とも1%強のみで群間差はなかった。

気になったのは心拍数である。GLP-1-RA群で平均「3拍/分」、プラセボ群に比べ高値だったという(“Ask the Trialists”セッションにおけるKosiborod氏発言)。この増加幅は先に2型糖尿病例で報告されている値と同等である8)。一般論として心不全患者ではHFpEFでも、心拍数増加に伴う(CV)死亡リスク上昇が報告されている9)

そのため関心は、GLP-1-RAがHFpEF例の長期CV転帰を改善しうるか否かに移る。しかし現時点で、それを検討している大規模RCTはないようだ。

本試験はNovo Nordiskからの資金提供を受けて実施された。

また報告と同時に論文がNEJM誌ウェブサイトで公開10)された。

TOPIC 4
SGLT2阻害薬の心不全増悪抑制作用は服用中止直後に消失─RCT“EMPEROR”2試験併合事前設定観察

SGLT2阻害薬は慢性心不全(HF)例のHF入院を抑制するが、その機序は明らかでない。しかし少なくとも器質的な改善作用は小さいのかもしれない。長期服薬継続後でも服薬を中止すると直後から、服薬開始時の改善を逆回しするような増悪が観察されたためである。ランダム化比較試験(RCT)“EMPEROR”2試験の併合解析としてMilton Packer氏(ベイラー大学、米国)が報告した。

【対象と方法】

今回の解析対象は、EMPEROR“Reduced”(HFrEF対象)、“Preserved”(HFmr/pEF対象)に参加した増悪高リスクの症候性HF 9178例中、試験終了まで残っていた6799例のうち、終了に伴う試験薬服用中止の30日後再評価に応じた3981例である(SGLT2阻害薬群:1961例、プラセボ群:2020例)。

「観察研究と異なり『薬剤を服用できなくなった集団』ではない。そのため『服薬中止を余儀なくされた要因』による交絡を受けることなく服薬中止の影響を観察できる」とPacker氏は説明した。

両群の背景因子だが、年齢、性別、左室駆出率、NYHA分類は両群間で有意差を認めなかった。

これら3981例を対象に、試験薬服用中止30日後の諸指標変化を調べ、試験開始後30日間の変化と比較した。

本解析は試験設計時から予定されていたもので、これらの比較終了まで二重盲検は維持されている。

【結果】

まず両試験の1次評価項目の「心血管系(CV)死亡・HF入院」は、プラセボ群では服用中止30日後も中止前に比べハザード比(HR)に有意な変動を認めなかった(1.12、95%信頼区間[CI]:0.76-1.66)。一方SGLT2阻害薬群では、有意に増加していた(同1.75、1.20-2.54)。特に「HF入院」リスクの増加が著明だった。この結果はHFrEF、HFmr/pEFにわけて解析しても同様だった。

SGLT2阻害薬群の「CV死亡・HF入院」HRは、プラセボ群との比較においても、服薬中止前90日間の有意低値(同0.76、0.60-0.96)から中止30日後の時点で増加傾向に転じていた(同1.18、0.78-1.80)。

KCCQ-CSS(心不全QOL指標)も同様に服用中止30日後、SGLT2阻害薬群ではプラセボ群に比べ1.6ポイント、有意に増悪していた。同集団の試験開始30日後データでは、SGLT2阻害薬群のほうが1.3ポイントの有意高値となっていたため、SGLT2阻害薬服用中止後、服用開始直後の改善作用を鏡に映したかのような増悪となった。

SGLT2阻害薬群における、この服薬中止後の「鏡面対称的増悪」は、「NT-proBNP」「収縮期血圧」「血中ヘモグロビン濃度」「ヘマトクリット」「体重」「尿酸値」でも同様に認められた。

一方、SGLT2阻害薬開始後に減少した「バイカーボネート血中濃度」(近位尿細管吸収マーカー)と「推算糸球体濾過率」(尿細管糸球体フィードバック機構正常化の指標)は逆に、SGLT2阻害薬中止後、鏡面対称的に増加した。

【考察と結論】

この結果からPacker氏は以下のように考察した。

(1)SGLT2阻害薬は長期服用後も、服用開始時と同様に作用している(試験期間中央値は“Reduced”試験が16カ月間、“Preserved”試験は26.2カ月間)。治療抵抗性は生じていない。

(2)SGLT2阻害薬は代償的な抗Na利尿、抗水利尿作用を引き起こし、服薬中止直後はこの代償作用が前面に出るためHFが増悪するのではないか。

(3)30日間という短期間であってもSGLT2阻害薬を中止するとHF例の「CV死亡・HF入院」リスクは増加する(そのため注意が必要)。

本研究はBoehringer IngelheimとEli Lilly & Companyから資金提供を受けた。

また報告と同時に論文11)がCirculation誌ウェブサイトで公開された。

TOPIC 5
急性心不全入院例に対する非侵襲的肺うっ血モニタに基づく利尿薬調節で退院後短期の転帰を有意に改善─小規模RCT“ReDS-SAFE HF”

急性非代償性心不全入院例では、退院時の肺うっ血改善が不十分であるほど退院後短期の心不全転帰は増悪する12)。しかし非侵襲的肺うっ血評価デバイスを用いて入院中の利尿薬を調節すれば、退院後1カ月間の「心不全再入院・心血管系(CV)死亡」を減少させうることが明らかになった。小規模ランダム化比較試験(RCT) “ReDS-SAFE HF”の結果として、Jesus Alvarez-Garcia氏(ラモン・イ・カハル大学病院、スペイン)が報告した。

【背景と対象】

本試験で検討されたのはRemote Dielectric Sensing(ReDS)システムを用いた「肺うっ血評価に基づく利尿薬治療調節」の有用性である。本システムは胸郭内の水分量を非侵襲的に着衣の上から定量化し送信できるもので13)、胸部CT所見との良好な相関が確認されている14)

対象となったのは、容量負荷と(NT-pro)BNP上昇を認めた急性非代償性心不全101例だった。

【方法】

入院後2日以内に「通常治療」群と「ReDSモニタ追加」群にランダム化された。 「ReDSモニタ追加」群ではReDSで評価した肺うっ血(ReDSスコア)に応じたアルゴリズム15)に従い利尿薬が調整された。

両群とも肺うっ血解除が確認できた時点で退院となったが、この際もReDS群ではReDSスコアを用いて肺うっ血が評価された。

また退院後7日目の外来受診でも同様に肺うっ血が評価され、必要に応じて利尿薬の調節が加えられた。

なお「通常治療」群でもReDSモニタは実施したが、医師は結果を知らされなかった。

【結果】

・退院時

退院時における「入院時からの体重減少幅」と「起座呼吸・浮腫重症度」は両群間に差を認めなかった。しかし入院時からの「ReDSスコア減少幅・率」はいずれも、「ReDSモニタ追加」群で有意に大きかった。

なお退院時の心不全治療薬は、「ループ利尿薬」や「チアジド系利尿薬」「レニン・アンジオテンシン系阻害薬」「β遮断薬」「ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬」「SGLT2阻害薬」いずれの使用率も、両群間に差はなかった。

・退院7日後

にもかかわらず、退院7日後には、「通常治療」群では「起座呼吸・浮腫」増悪例の割合が有意に増えていた(32% vs. 10%)。繰り返しになるが、この時点で両群とも利尿薬治療は調節の上、継続している。

・退院1カ月後

そして退院1カ月後の1次評価項目である「心不全再入院・死亡」の発生率は、「ReDSモニタ追加」群で有意に低くなっていた(2% vs. 20%、P=0.005)。NTT(治療必要者数)は「6」だった。減少が著明だったのは「心不全再入院」である。

なお「腎機能増悪」発現は両群間に差はなく、「症候性低血圧」と「電解質異常」は両群とも報告されていない。

【考察】

本検討は症例数が少ないため、あくまでも「着想実証試験」であり、可能であればより大規模かつ長期間の検討を実施したいとGarcia氏は述べた。

本試験は研究者主導研究であり、Sensible MedicalとMedical SorevanからReDSデバイスの提供を受けた。資金提供については開示がなかった。

TOPIC 6
下腿限局型DVT既往のある活動性がん患者へのOACは長期間のほうが有用?─日本発RCT“ONCO DVT”

がん治療の進歩に伴い生存率が改善された結果、がん患者の心血管系(CV)疾患リスクに注目が集まるようになった(cardio-oncology:腫瘍循環器学)。「がん治療は成功したがCV疾患で早死にした」という事態を避けるためである。しかしエビデンスは不足している。

「活動性がん患者の深部静脈血栓症(DVT)抑制における経口抗凝固薬(OAC)長期服用」もその1つである。この有用性を明らかにすべくランダム化比較試験(RCT)“ONCO DVT”が実施され、山下侑吾氏(京都大学・循環器内科)が「HOTLINEセッション」にて発表した。

下腿限局型DVT(isolated distal DVT:id-DVT)例に対するOAC継続は3カ月間よりも12カ月間のほうが、 大出血を増やすことなく静脈血栓塞栓症(VTE)を抑制できるようだ。

【背景と目的】

VTEはがん患者に13~67/1000人年で発生し、非がん患者に比べ相対リスクは4~7倍とされている16)。またがん患者の約2割がDVTを発症17)し、入院患者DVTの6割はid-DVTだという18)

しかしがん患者のVTEのみを対象とした大規模RCTはなく、各種ガイドラインはコンセンサスベースの推奨を掲げている。

そこで山下氏らは、id-DVT既往のあるがん患者のみを対象に、長短期の抗凝固療法の有用性を比較することにした。

【対象と方法】

対象は、id-DVTと新たに診断された活動性がん患者604例である。「既に抗凝固薬を用いている例」、「肺塞栓症合併例」などは除外されている。なおこの症例数は、試験開始時の目標登録数にほぼ等しい。

平均年齢は71歳、約3割が男性で、平均体重はおよそ55kgだった。また約25%にがん転移を認めた。

これら604例はDOAC(エドキサバン60mg/日、減量基準適格例は30mg/日)「3カ月継続」群と「12カ月継続」群にランダム化され、非盲検下で観察された(評価項目判定者は盲検)。

【結果】

両群とも服薬継続率は低かった。

特に「3カ月継続」群では、開始後2カ月を経過すると服薬中止率が著増した。試験開始後2カ月の時点で15.2%だった服薬中止率がその後1カ月で倍増以上の41.4%まで上昇したのである。プロトコル通り3カ月間DOACを飲み続けたのは「3カ月継続」群の58.6%のみだった。

一方、「12カ月継続」群ではこのような急峻な服薬中止率の増加は認めない。試験開始3カ月後の中止率は16.4%、12カ月後で41.3%だった。

このように試験開始後3カ月時点のDOAC服薬率には両群間で25.0%の差が生じていたが、その時点での1次評価項目(症候性VTE再発/VTE関連死亡)発生率に差はない(両群とも0.7%)。

しかしそれ以降は差が開き、試験開始1年後には「12カ月継続」群で1.2%、「3カ月継続」群は8.5%と有意差を認め(P<0.001)、「12カ月継続」群におけるオッズ比(OR)は0.31(95%信頼区間[CI]:0.03-0.44)となった(ロジスティック回帰分析)。

なお試験設計時に想定していた発生率は「12カ月継続」群が6%、「3カ月継続」群が12%である。

一方2次評価項目の「大出血(ISTH基準)」は「12カ月継続」群のほうが「3カ月継続」群に比べ高値となる傾向を示したものの、有意差には至らなかった(10.2% vs. 7.6%、OR:1.34、95%CI:0.75-2.41)。両群の発生率曲線は、試験期間を通じてほぼ重なり合ったまま推移した。「症候性VTE再発/VTE関連死亡」と対照的である。

【考察】

指定討論者であるTeresa Lopez Fernandez氏(ラパス大学、スペイン)は上記結果から、本試験の対象になるような患者では長期の抗凝固療法が支持されるとする一方、出血高リスク例の事前特定も重要だと指摘した。

山下氏もこれを受け「全員に長期の抗凝固療法の適応があるとは考えていない」と述べ、出血高リスク例特定の重要性を認めた。

またFernandez氏は「12カ月継続」群の服薬アドヒアランスの低さに言及し、「12カ月継続」という治療方針そのものの出血リスクは過小評価されている可能性も指摘した。

本試験は第一三共株式会社から資金提供を受けて実施された。また報告と同時にCirculation誌ウェブサイトで公開された19)

TOPIC 7
経皮的左心耳閉鎖術の実臨床4年間成績が明らかに─米国NCDR・LAAOレジストリ

わが国でも臨床応用から4年以上を経た経皮的左心耳閉鎖術(LAAO)だが、長期の有効性と安全性が米国実臨床データから明らかになった。James V. Freeman氏(イエール大学、米国)が米国大規模レジストリの解析結果として報告した。

【対象と方法】

今回の解析対象は、米国で経皮的LAAO(WATCHMAN)を施行された、米国高齢者公的医療保険(メディケア)受給の3万4975例である。全国心血管データレジストリ(NCDR)中のLAAOレジストリから抽出した。

平均年齢は77.5歳、女性が41.8%を占めた。CHA2 DS2-VAScスコア平均は4.7、HAS-BLEDスコア平均は3.1だった。なおLAAO施行後遠隔期の抗血栓療法については示されなかった。

これら3万4975例の「脳卒中」「脳梗塞」と「死亡」リスクを、メディケア診療記録から探った。

【結果】

・脳卒中

「死亡」を競合リスクとして扱った場合の「脳卒中」発生率は、時間経過とともにほぼ直線的な増加を認めた(≒脳卒中抑制作用の経時的減弱なし)。具体的にはLAAO施行1年後で1.84%、2年後3.45%、3年後4.46%、3.7年後が5.52%である。

年率に換算すると1.89%となった。「脳梗塞」のみなら1.55%である。

「血栓塞栓症リスクが高い(CHA2DS2-VAScスコア平均4.7[前出])患者集団としては発生率が低い」とFreeman氏は評価した。

・死亡

生存率も同じく直線的に推移した。すなわちLAAO施行1年後は91.4%、2年後82.6%、3年後74.4%、4年後で63.8%となった。

ただし1年当たりの死亡率は9.51%に上る。Freeman氏はこの死亡率を「比較的高い」と評価し、低リスク例選択が重要だと述べた。

死亡と関連する要因としては、「低BMI」(ハザード比:2.2)と「転倒リスク高」(同1.46)、「心不全」(同1.44)が主なものだった。

本研究における利益相反は開示されなかった。

TOPIC 8
年2回注射型LDL-C低下薬「インクリシラン」の6年間有効性・安全性が明らかに─観察研究“ORION-8”

わが国でも9月に製造承認された、年2回注射型LDL- C低下薬「インクリシラン」による長期成績が、R. Scott Wright氏(メイヨークリニック、米国)により“ORION-8”として報告された。6年継続使用後もLDL-C低下作用は減弱せず、新たな安全性の懸念も生じなかった。インクリシランは肝mRNAへの干渉を介し、PCSK9合成を阻害。その結果、LDL-Cが低下する。初回投与、初回投与3カ月後、それ以降は6カ月ごとの皮下注で済む。

【対象と方法】

解析対象は、インクリシランを用いたランダム化比較試験に参加した3275例中(含プラセボ群)、全例インクリシラン服用のオープンラベル観察研究に参加した3274例である。心血管系(CV)高リスク(±アテローム動脈硬化性心血管疾患[ASCVD])既往例(ORION-1、3、11)、ASCVD例(ORION-10)、ヘテロ接合型家族性高コレステロール血症例(ORION-9)が含まれる。いずれも対象は、最大用量のスタチン服用下でLDL-C低下不十分、またはスタチン不忍容例である。

平均年齢は64.9歳で、65歳以上が56.5%を占めた。男性の割合が67.7%、82.7%がASCVD既往例だった。

脂質低下薬非服用は6.8%のみ。88.6%がスタチンを服用、16.6%がエゼチミブを服用していた(重複あり)。

インクリシラン使用期間は平均で3.70年、中央値が3.27年、最長で6.84年だった。

これら3274例を対象にインクリシラン使用時のLDL-C値と安全性を検討した。

【結果】

・有効性

LDL-C目標値達成率は観察終了時も78.4%で、使用開始90日後の74.7%と同等だった。

ASCVD例(LDL-C目標値「<70mg/dL」)のみでも79.4%、非ASCVD高リスク例(同「<100mg/dL」)は74.3%だった。

LDL-C値低下幅も同様に経時的な減少は見られず、使用開始90日後に観察された約50%の低下幅が観察終了時まで維持された。

・安全性

薬剤関連有害事象は9.1%に見られたが、使用中止に至る有害事象の発現率は2.4%だった。

薬剤関連有害事象で多かったのはやはり「注射部位反応」(5.4%)で、「肝イベント」(0.3%)、「糖尿病発症・増悪」(1.1%)は稀だった。

なお、5.1%で抗薬物抗体が出現したが、抗体の有無はインクリシランによるLDL-C低下作用や有害事象リスクに影響を与えていなかった。

一連のORION試験はMedicines Companyからの資金提供を受け実施されている。

【文献】

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