8月26日から4日間、欧州心臓病学会(ESC)学術集会が、2019年以来のライブ開催をバルセロナ(スペイン)で実施した。
事前登録だけで2万5000人弱が登録、その7割以上がライブ参加だった。日本からの演題採択数は231報で5位(アジアでは最多)だったが、参加者数は上位10番に入っていなかった。ここでは薬剤治療を中心に大規模臨床試験の結果を紹介したい。
左室収縮能の著明低下を認めない心不全(HFmrEF/pEF)は、転帰を改善する治療が長らく見つからなかったが、昨年の本学会でランダム化比較試験(RCT)“EMPEROR-Preserved”が報告され、SGLT2阻害薬による「心血管系(CV)死亡・心不全(初回)入院」抑制作用が明らかになった1)2)。加えて今年の本学会では、同様のデザインを持つRCT“DELIVER”が報告され、HFmrEF/pEFに対するSGLT2阻害薬の有用性が再確認された。Scott D Solomon氏(ハーバード大学、米国)による報告を紹介する。
DELIVER試験の対象は、40歳以上で左室駆出率(EF)「>40%」、かつ、「左房拡大/左室肥大」と「NT-proBNP上昇」を認め、利尿薬使用下で症候性だった慢性心不全6263例である(含:入院例)。日本を含む世界20カ国から登録された。平均年齢は72歳、女性が44%を占めた。EF平均値は54%、NYHA分類「Ⅱ度」心不全が75%を占めた。試験導入前の心不全治療は、77%でループ利尿薬、43%でアルドステロン拮抗薬が用いられていた。またレニン・アンジオテンシン系阻害薬も78%(5%前後のARNiを含む)、β遮断薬は83%で用いられていた。
これら6263例は上記治療を継続の上、SGLT2阻害薬(ダパグリフロジン10mg/日)群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検下で2.3年(中央値)観察された。
その結果、1次評価項目の「心不全増悪(心不全による緊急入院・救急外来受診)・CV死亡」発生率は、SGLT2阻害薬群で7.8/100例・年となり、プラセボ群(9.6/100例・年)に比べ、有意なリスク低下を認めた(ハザード比[HR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.73-0.92)。試験期間を通した治療必要数(NNT)は32だという。両群の発生率曲線は、試験開始直後から乖離が始まったものの、約1年経過以降、群間差は拡がらなかった。
ただし、上記評価項目の内訳をみると、有意低下が認められたのは「心不全増悪」(HR:0.79、95%CI:0.69-0.91)のみだった(「CV死亡」HR:0.88、0.74-1.05)。
また、2次評価項目であるKCCQ-TS(QOL指標)も、SGLT2阻害薬群で、プラセボ群に比べ、8カ月間で2.4ポイント、有意に増加していた。なお、HFpEF例におけるKCCQ-TS改善は「7ポイント以上」で初めて、患者の重症度に対する全体評価(PGIS)が改善するとの報告がある3)。
安全性については、治療中止・一時中断を要する有害事象のいずれも、発現率に群間差はなかった。
目を引いたのは、試験開始時「EF」高低別の解析である。「40-49%」、「50-59%」、「≧60%」の3群間で、SGLT2阻害薬による「心不全増悪・CV死亡」抑制作用に差がないだけでなく、試験開始時EFが高値になるほど抑制作用は大きくなる傾向が認められた。 この点を、指定討論者のTheresa A McDonagh氏(キングスカレッジ病院、英国)は、先述のEMPEROR-Preserved試験(EF高値に伴い「CV死亡・心不全入院」抑制作用に減弱傾向)との違いだと評した(原因についての考察はなし)。
本試験はAstraZenecaからの資金提供を受けて実施された。また報告と同時に、N Engl J Med誌ウェブサイトで公開された4)。
DELIVER試験の結果が明らかになり4)、SGLT2阻害薬による、左室収縮能の著明低下を認めない心不全(HFmrEF/pEF)転帰改善のエビデンスは、EMPEROR-Preserved試験1)と併せ、2つになった。
そこで、これら2つのランダム化比較試験(RCT)のメタ解析が実施され、Muthiah Vaduganathan氏(ハーバード大学、米国)によって報告された。
本メタ解析は、今回報告されたDELIVER試験の結果が明らかになる前に計画されたものである。評価項目はEMPEROR-Preserved試験の1次評価項目である「心血管系(CV)死亡・心不全初回入院」とした。DELIVER試験では1次評価項目が異なったため、患者個別データを用い、改めて再解析した。
試験の対象は、EMPEROR-Preserved試験、DELIVER試験とも、若干の違いはあるものの、基本的に左室駆出率(EF)「>40%」の症候性心不全。両試験合わせ、1万2251例である。
これらを併合して解析した結果、SGLT2阻害薬群における「CV死亡・心不全初回入院」の、対プラセボ群ハザード比(HR)は、0.80の有意低値だった(95%信頼区間[CI]:0.73-0.87)。
しかし内訳をみると、SGLT2阻害薬群で有意なリスク減少を認めたのは「心不全初回入院」のみであり(HR:0.74、95%CI:0.67-0.83)、「CV死亡」は有意差に至らなかった(同:0.88、0.77-1.00)。「総死亡」も同様で、有意なリスク減少は認められなかった(同:0.97、0.88-1.06)。
次に、同評価項目を試験開始時のEF別に解析すると、「41-49%」、「50-59%」、「≧60%」群のいずれにおいても、SGLT2阻害薬群ではリスクが有意に減少していた。また、EFの高低が抑制作用に及ぼす交互作用P値は0.42だった。
さらに、「年齢」、「人種」、「BMI:30kg/m2の上下」、「心房細動(AF)合併の有無」などでわけた13のサブグループすべてで、SGLT2阻害薬による「CV死亡・心不全初回入院」抑制作用は一貫していた。
これらよりVaduganathan氏は、患者背景やEFの高低を問わず、SGLT2阻害薬は心不全に有効だと述べた。本解析は報告と同時に、Lancet誌ウェブサイトにて無料公開されている5)。
なお本学会では、Roberto Tarantini(パヴィア大学、イタリア)から、少数例ながら関連する興味深い報告があった。イタリアで外来HFpEF患者75例を解析したところ、EMPEROR-Preserved試験、DELIVER試験に参加可能な背景因子を持つ患者の割合は、それぞれ18.1%と17.6%のみだった。
夜間血圧非低下(non-dipping)は、心血管系(CV)イベントの大きなリスクと認識されている。そのため、夜間血圧を低下させると考えられる就寝前の降圧薬服用は、起床後服用に比べより大きなCVイベント抑制作用が期待されてきた。
事実、高血圧1万9084例を登録したランダム化比較試験(RCT)“Hygia Chronotherapy Trial”では、就寝前服用により、起床後服用よりも、CVイベント抑制作用は有意に大きかった6)。ただし同試験には、方法論上の問題点などが指摘されていたため、より大規模なRCT“TIME”の結果が待たれており、本学会でTom MacDonald氏(ダンディー大学、英国)が報告した。しかし、降圧薬就寝前服用の優越性は認められなかった。
TIME試験の対象は、英国公的医療機関で、既に1日1回型降圧薬を処方されていた、高血圧患者2万1104例である。ウェブサイトで患者自身に参加を呼びかけた。この方法により健康意識の比較的高い患者が集まった可能性をMacDonald氏は指摘している。
平均年齢は65.1歳、男性が57.5%を占めた。13.0%にCV疾患既往を認め、試験開始時の家庭血圧は135/79mmHgだった。なお、上記Hygia試験でも、試験開始時の覚醒時の自由行動下血圧平均値は136/81mmHgだった(診療所血圧は149/86mmHg)。
これら2万1104例は、現在処方されている降圧薬を維持したまま、「就寝前服薬」(20時以降)群(1万503例)と「起床後服薬」(6~10時)群(1万601例)にランダム化され、非盲検下で5.2年間(中央値)観察された。
その結果、1次評価項目である「心筋梗塞・脳卒中・CV死亡」の発生率は、「就寝前服薬」群:3.4%(年間0.69%)、「起床後服薬」群:3.7%(同0.72%)で有意差を認めなかった(ハザード比:0.95、95%信頼区間:0.83-1.10)。また、1次評価項目イベントを個別に比較しても有意差はなく、「総死亡」や「心不全入院」「脳卒中」のリスクにも有意差はなかった。
さらに、年齢、性別、BMI、CV疾患既往の有無などで分けたサブグループ解析でも、「就寝前服薬」が有用な集団は見つからなかった。MacDonald氏は、夜間non-dipperが多いとされる糖尿病合併例7)(全体の13.8%)でも有意差とならなかった点に、落胆を隠さなかった。
一方、有害事象は、若干だが、「就寝前服薬」群で「転倒」が少ない傾向を認めた(21.1 vs. 22.2%、P=0.05)。ただし骨折発生率には、両群間でまったく差がなかった。
このように降圧薬の「就寝前服薬」でCVイベントが減らなかった原因を、MacDonald氏は「大きな謎」としたが、指定討論者であるRhian Touyz氏(グラスゴー大学、英国)は、就寝前降圧薬服用による早朝低血圧リスク増加の可能性を指摘していた[出典非提示]。
さて、先述のHygia試験では「夜服薬」群で「朝服薬」群に比べ、「就寝時血圧」が有意に低値となっていたが(114.7/64.5 vs. 118.0/66.1mmHg)、本試験では不明である。ちなみに、RCT“HARMONY”では、降圧薬を就寝前に服用しても、夜間血圧は低下しなかった8)。
なお、米国心臓協会発行のHypertension誌には昨年9)、また、欧州高血圧学会発行のJ Hypertension誌も一昨年10)、降圧薬就寝前服用はCVイベント抑制作用を増強しないとする論説を掲載している(前述Hygia試験批判にも言及)。
本試験は、British Heart Foundationからの資金提供を受けて実施された。
心血管系(CV)疾患1次予防例では、「スタチン+降圧薬(含レニン・アンジオテンシン系阻害薬)配合剤」と「アスピリン」の2剤併用による、プラセボを上回るCVイベント抑制作用が、ランダム化比較試験(RCT)“TIPS-3”にて報告されている11)12)。では、2次予防における有用性はどうか。
この点を検討すべく、心筋梗塞例を対象に、「アスピリン・スタチン・ACE阻害薬」配合剤の有用性を、通常の薬剤治療と比較するRCT“SECURE”が実施された。結果はポジティブ。Valentin Fuster氏(マウントサイナイ・ヘルスシステム、米国)が報告した。
SECURE試験の解析対象は、欧州7カ国から登録された、65歳以上の高リスク心筋梗塞亜急性期2466例である。心筋梗塞発症からの日数は中央値で8日、平均年齢は76歳、31%が女性、99%が白人だった。
当初2499例が「アスピリン・スタチン・ACE阻害薬」の3剤配合「ポリピル服用」群と、これら3剤を別個に用いる「通常薬剤服用」群にランダム化されたが、脱落例を除いた2466例が解析対象となった。追跡期間中央値は3年間で、盲検化はされていない。
その結果、「ポリピル服用」群では、「通常薬剤服用」群に比べ、1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中・緊急冠血行再建術」リスクが有意に低くなっていた(9.5 vs. 12.7%、ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.60-0.96)。両群の発生率曲線は、試験開始直後から乖離を始め、試験終了時まで開き続けた。「より長期に観察すれば、さらに大きな有効性が確認できただろう」とFuster氏はコメントしている。
また2次評価項目ではあるが、「冠血行再建術」を外した「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」のみで比較しても、「ポリピル服用」群における有意なリスク低下を認めた(HR:0.70、95%CI:0.54-0.90)。
これらのうち、リスク減少が最も著明だったのは「CV死亡」である(同:0.67、0.47-0.97)。一方、「総死亡」リスクは両群間に差を認めず(9.3 vs. 9.5%、同:0.97、0.75-1.25)、その背景には「ポリピル服用」群における非CV死亡の増加傾向があった(5.4 vs. 3.7%、同:1.42、0.97-2.07)。
さて、「ポリピル服用」群における、上記1、2次評価項目減少の要因を探ると、同群における有意に良好な「服薬アドヒアランス」が明らかになった。しかし、それにもかかわらず、観察期間中のLDL-C値、収縮期血圧、拡張期血圧は、両群間に有意差を認めなかった。
この点につき、座長のStephan Achenbach氏(フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルク、ドイツ)は、「通常薬剤服用」群のほうがより高用量・高力価スタチンを服用していた患者が多かった点に注目した。にもかかわらずLDL-C平均値が「ポリピル服用」群と同等だとすれば、「通常薬剤服用」群におけるLDL-C値変動がより大きかったのではないかと考察した。「LDL-C値変動の増加は、CVイベントリスクだったはずだ」と述べた。確かにRCT“IDEAL”の追加解析では、心筋梗塞後LDL-C値変動「大」に伴うCVイベントリスク増加が報告されている13)。
本試験は、European Union Horizon 2020(EUにおける研究費提供プログラム)から、資金提供を受けて実施された。また報告と同時に、N Engl J Med誌ウェブサイトで論文も公開された14)。
スマートウォッチが(正確性はともあれ)心房細動(AF)を検出できるようになり、患者自らがAFの存在に気づくようになった。AFを見つけた患者は当然、不安に感じ医師に相談するだろう。では、そのような自由行動下で検出されたAFに対し、抗凝固療法を開始すれば、脳卒中リスクは下がるのだろうか。残念ながら、昨年の本学会で報告されたランダム化比較試験(RCT)“LOOP”では、ループ式心電計植え込みによる「積極的AF検出・抗凝固療法開始」は、通常観察に比べ「脳卒中・全身性塞栓症」を減少させなかった2)15)。
しかし、上記試験で比較された評価項目は「脳卒中・全身性塞栓症」であり、AFに起因する「心原性脳塞栓症」のみへの影響は不明だ。
そこで今年の本学会では、「心原性脳塞栓症」が別名「ノックアウト型」と呼ばれる点に注目し、「重症脳卒中」のみなら「ループ式心電計植え込み」によりリスクが低減しているという仮説のもと、さらなる解析が実施された。Lucas Yixi Xing氏による報告から紹介したい。
LOOP試験の対象は、AF診断歴なく、かつ高血圧、糖尿病、心不全、脳卒中既往の少なくとも1つを認めた、70歳以上の6004例である(結果としてCHA2DS2-VAScスコア≧2)。その結果、91%に高血圧、29%に糖尿病、18%に脳卒中既往を認めたが、心不全は5%弱のみだった。
これら6004例は上述の通り、ループ式心電計を植え込む「常時観察」群と、「通常観察」群にランダム化され、「常時観察」群では、6分間以上持続するAFが検出されると、抗凝固薬開始が検討されることになっていた。観察期間中央値は64.5カ月である。
しかし今回の追加解析でも、「重症脳卒中」(mRS≧3)の発生リスクは、「常時観察」群で相対的に31%の減少傾向にとどまり、有意差には至らなかった(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.44-1.09。1.5 vs. 2.2%)。なおAF検出率は、「常時観察」群:32%、「通常観察」群:12%だった。
さらに「心原性塞栓症・潜因性脳梗塞」を比較しても、同様だった(HR:0.78、95%CI:0.50-1.22)。なおXing氏は、「重症脳卒中」の差が有意とならなかったのは、「検出力不足」(脳卒中発症数が想定よりも少ない)が理由である可能性を指摘していた。
このように、今回も仮説の確認には至らなかったが、その一方「脳卒中既往」の有無が、「ループ式心電計植え込み」の有用性に影響を与える可能性は示唆された。すなわち、探索的解析の結果、試験前「既往なし」の4948例では「常時観察」群における「重症脳卒中」のHRが0.54(95%CI:0.30-0.97)の有意低値となっていたのに対し、「既往あり」(1056例)では、「常時観察」群と「通常観察」群間に「重症脳卒中」リスクに差はなかった(ただし、脳卒中既往の有無による交互作用P値は0.12)。
なお全体で脳梗塞類型(TOAST分類)別の発生率を比べると、最も多かったのはラクナ梗塞(40%)、ついで「他原因・原因不明」(25%)だった(「アテローム血栓性」と「心原性」はいずれも15%前後のみ)。Xing氏はこのラクナ梗塞多発を「興味深い」と評価した。ラクナ梗塞例におけるAF検出率は未解析だという(質疑応答)。
本試験は研究者主導で実施され、Innovation Fund DenmarkやThe Research Foundation for the Capital Region of Denmark、Medtronicなどから資金提供を受けた。また報告と同時に、JAMA Neurol 誌ウェブサイトで公開された16)。
現在、冠動脈疾患(CAD)例に対する抗血小板薬併用(DAPT)終了後の単剤抗血小板薬(SAPT)としては、一般的にアスピリンが用いられている。しかしクロピドグレルなどのP2Y12阻害薬と比べた場合の「心血管系(CV)イベント抑制作用」や「出血安全性」の優劣は必ずしも明らかでない。そこで、既存ランダム化比較試験(RCT)の個別患者データを用いたメタ解析でこの点を明らかにすべく、PANTHER研究が実施された。Marco Valgimigli氏(ベルン大学病院、スイス)による報告を紹介する。
PANTHER研究の対象となったのは、CAD例において「アスピリン」単剤と「P2Y12阻害薬」単剤比較が事前に設定されていた、すべてのRCTである。DAPT期間先行の有無は問わない。ただし、経口抗凝固薬を併用した試験は除外された。その結果7つのRCT*が残り、それらから抽出したCAD患者2万4325例の個別データが解析対象とされた(アスピリン群:1万2147例、P2Y12阻害薬群:1万2178例)。
対象例の平均年齢は64.3歳、女性は21.7%、アジアからの登録例は23.7%だった。また56.2%に心筋梗塞既往、9.1%に末梢動脈疾患既往、6.6%に脳卒中既往があった。一方、出血既往は0.4%のみだった。
その結果、557日間(中央値)の観察期間中、「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」(CVイベント)発生率は、「P2Y12阻害薬」群:5.5%、「アスピリン」群:6.3%となり、「P2Y12阻害薬」群でリスクは有意に低下していた(ハザード比[HR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.79-0.97)。
一方、大出血リスクは、両群間に有意差はなかった(「P2Y12阻害薬」群HR:0.87、95%CI:0.70-1.09)。
なお「CVイベント」の内訳をみると、「P2Y12阻害薬」群でリスク低下が著明だったのは「心筋梗塞」のみであり(HR:0.77、95%CI:0.66-0.90)、「脳卒中」(同:0.85、0.70-1.02)と「CV死亡」(同:1.02、0.86-1.20)のリスクに、有意差はなかった。「総死亡」も同様だった(同:1.04、0.91-1.20)。
次にサブグループ別解析だが、「P2Y12阻害薬」群におけるCVイベント抑制は、「急性冠症候群vs.安定CAD」、「脳心腎合併症の有無」や「年齢の高低」、「性別」、「肥満度」、「喫煙の有無」、「地域」など16因子のいずれにも、有意な影響を受けていなかった。また「クロピドグレル(全体の62%) vs. チカグレロル」間にも有意な交互作用はなく、Valgimigli氏はこれを、いわゆる「クロピドグレル抵抗性」がCVイベント抑制作用に影響を及ぼしていない傍証になる、と記者会見にて述べた。
一方、唯一、有意に近い交互作用を認めたのが、血行再建法の違いだった(P=0.074)。CABG施行例(n= 2547)における「P2Y12阻害薬」群CVイベントHRが0.89(95%CI:0.68-1.17)だったのに対し、PCI例(n= 13241)では0.70(同:0.56-0.86)と減少率が著明に大きい傾向を認めた。
Valgimigli氏はこれらの結果から、CAD例に対するSAPTには、アスピリンよりもP2Y12阻害薬が推奨されるべきではないかと結論した。
これに対し指定討論者のSteffen Massberg氏(ミュンヘン大学、ドイツ)は、①対象患者(平均64歳)は実臨床よりも若いのではないか、②出血既往例が0.4%というのは低すぎないか(セレクションバイアスの存在)、③プラスグレルのデータはないのに(解析対象試験に含まれず)「P2Y12阻害薬」と括って良いか、④「総死亡」への影響を考えると費用対効果に問題はないか―などと指摘し、アスピリンよりもP2Y12阻害薬が優先されるべきCADはきわめて限られるとの見解を示した。
本試験はスイスの学術組織から資金提供を受けて実施され、営利企業は一切関与していないとのことである。
*ASCET、ACDET、CAPRIE、DACAB、GLASSY、HOST-EXAM、TiCAB。
非弁膜症性(NV)心房細動(AF)に頻用されている直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)だが、リウマチ性心疾患AFへの有用性は不明である。この点を明らかにすべく実施されたランダム化比較試験(RCT)“INVICTUS”が報告され、転帰改善作用はビタミンK拮抗薬(VKA)に有意に劣っていた。Ganesan Karthikeyan氏(全インド医科学研究所)による報告から紹介したい。
INVICTUS試験の対象は、「僧帽弁狭窄」、あるいは「CHA2DS2-VAScスコア≧2」か「心エコー上左房血栓」を認めた、AF合併リウマチ性心疾患4531例である。アフリカ、アジア、ラテンアメリカを中心とする24カ国から登録された。
患者背景は、既に報告されているNVAF対象大規模RCTとは大きく異なった。まず、より「若年」(平均年齢:50.5歳)で、「女性」の割合が高かった(72.3%)。また(当然だが)僧帽弁狭窄例の占める割合は85.3%と高く、一方、43.6%が「CHA2DS2-VAScスコア:0-1」だった。
これら4531例は、DOAC(リバーロキサバン20mg/日。腎機能低下例では減量)群(2275例)と、VKA(目標INR:2-3)群(2256例)にランダム化され、非盲検下で観察された。
その結果、平均3.1年間の観察後、「脳卒中・全身性塞栓症・心筋梗塞・血管系/原因不明死亡」(1次評価項目)の発生率は、DOAC群:8.2%/年、VKA群:6.5%/年となり、DOAC群でリスクは有意に高かった(ハザード比[HR]:1.25、95%信頼区間[CI]:1.10-1.41)。
これら1次評価項目中、大半を占めたのは「死亡」であり、やはりDOAC群のリスクが有意に高かった(HR:1.23、95%CI:1.09-1.40)。Karthikeyan氏によれば、両群間の死亡の差は主として、「心不全死」と「突然死」によりもたらされた(「心不全入院」には群間差なし)。
なお、試験期間中の心不全治療薬の使用状況は、両群間で同様だったという(VKA群におけるINR測定のための頻回受診が、心不全治療を変えたわけではない)。また、両群間の「大出血」と「頭蓋内出血」発現率には差がなかった。
いずれにせよ、脳卒中・塞栓症、出血の差だけではDOAC群における死亡リスク増加(「最も予想外の結果」とKarthikeyan氏)の説明はつかないため、さらなる解析が待たれる。
本試験でもう1つ目を引いたのは、VKA群の良好な「服薬コンプライアンス達成率」と「INR達成率」である。試験開始4年後で比べると、DOACコンプライアンス達成率が79%だったのに対し、VKAは96.4%だった。VKA群における高値の理由は不明だという。
さらに、VKA群の「INR:2-3」達成率の推移をみると、試験開始直後こそ33.2%だったものの、1年後には59.0%まで改善され、2年後にはさらに65.3%まで上昇。その後はそのレベルが維持された。
なお、両群の1次評価項目発生曲線は、当初VKA群が上を行っていたが、途中でDOAC群と交差して下となり、試験終了時まで差は拡大し続けた。そしてその交差を認めたのは、試験開始後およそ18カ月の時点だった(ただしKarthikeyan氏は、INR改善と転帰向上の因果関係に懐疑的)。
さて、予想外に低く感じられるDOAC群の継続率だが、先行するNVAF対象RCTでも同様だとKarthikeyan氏は指摘する。確かに、RE-LY、ROCKET-AF、ARISTOTLE、ENGAGE-AFの各試験においても、DOACの中止率は、20~35%だった。
本試験はBayerからの資金提供を受けて実施された。また報告と同時に、N Engl J Med誌ウェブサイトで公開された17)。
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