編集: | 高橋 智(岩手医科大学神経内科・老年科准教授) |
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判型: | B5判 |
頁数: | 192頁 |
装丁: | 2色刷 |
発行日: | 2010年12月25日 |
ISBN: | 978-4-7849-6410-9 |
付録: | - |
医師が認知症の患者さんを「診る」だけでなく、患者さんやご家族も含めて温かく「見守る」という視点で編集!かかりつけ医の先生方が認知症の患者さんやご家族を診る・見守る際にお役立て頂けるよう、すべての項目で執筆者に診察室で実際に経験する患者さんやそのご家族との会話を取り入れて書いて頂きました。早期発見・早期対応を軸として、かかりつけ医ならではの「家族ごと見守る認知症医療」を行って頂くことで、「認知症の患者さんが最後まで笑顔を保つことができる医療」が実現できます!
第1章 認知症ってどんな病気?
1 認知症をかかりつけ医がみるメリットは?
2 認知症の診断基準は何ですか?
3 わが国,そして世界における認知症の患者さんの現状と将来は?
4 認知症の中核症状とは?
5 認知症に伴う行動障害・精神症状(BPSD)とは?
6 アルツハイマー病の臨床経過は?
7 血管性認知症ってどんな病気?
8 レビー小体型認知症ってどんな病気?
9 FTD(前頭側頭型認知症)ってどんな病気?
10 軽度認知障害(MCI)とは?
11 外科的治療でよくなる可能性のある認知症は?
12 その他の認知症の原因は?
第2章 認知症の診断は難しい?認知症を見つけるには?
13 簡単に記憶障害を見つける方法は?
14 改訂長谷川式簡易知能評価スケール,ミニメンタルステートとは?
15 認知症に合併するパーキンソニズムの意義と診察法とは
16 認知症に合併する前頭葉徴候の意義と診察法とは?
17 アルツハイマー病でよくみられるCT所見は?
18 MRIやSPECTでわかることは?必要とする場合は?
19 認知症の原因となる,あるいは認知症を増悪させる薬剤は?
20 高齢者のうつ状態と認知症の鑑別は?
21 せん妄とは?
第3章 認知症における薬の使い方とそのケアの仕方は?
22 ドネペジルの作用機序,エビデンスは?子
23 ドネペジルの使い方と効果,副作用は?増量のタイミングは?
24 近い将来使える可能性のあるアルツハイマー病の薬は?
25 今,開発されている認知症(アルツハイマー病)の根本治療薬は?
26 BPSDの薬物療法の実際は?
27 BPSDへの対応,ケアの指導をどうする?
28 認知症の患者さんが眠れないときの対応は?
29 認知症高齢者への非薬物的療法はどうする?
第4章 認知症の患者・家族への告知とサポートおよびフォローはどうする?
30 認知症の介護予防の指導のポイントは?
31 認知症の告知と経過中の患者さんと家族の支援は?
32 認知症に関わる遺伝と患者・家族への遺伝の説明は?
33 認知症の患者さんの血管障害のリスクの管理の仕方は?
34 認知症の患者さんへの日常生活指導(食事,運動,お酒,たばこ)はどうする?
35 認知症の患者さんの車の運転についてはどう考える?
36 認知症の訪問診療,ターミナルケアのポイントは?
37 介護保険を利用した認知症のサポートとは?
38 認知症疾患医療センターの役割は?
診療お役立ちコラム
1 長生きできたからこそ…
2 年を取って失うもの,年を取っても失われないもの
3 血管性認知症は減少した?
4 楽しい思い出を残す薬
5 在宅介護と施設入所をボーダーレスに!
巻頭言
かつて、わが国では高齢者は大家族の中で、多少物忘れがあっても、段取りが悪くても、家族に支えられ、地域に見守られながら不自由なく日常生活を送っていました。しかし、核家族化が進み、高齢者夫婦の2人暮らしあるいは独居の家庭が増え、高齢者には暮らしにくい高度情報社会になってきた昨今、「スーパーで買い物ができない」、「キャッシュカードを使えない」など、日常生活に支障をきたして医療機関を受診する軽症認知症高齢者が急増しています。
認知症への対応で最も重要なことは、「その人らしさ」の尊重です。そして、認知症患者さんの「その人らしさ」として一番に認識すべきことは、実は「健常者となんら変わりない」ことなのです。うれしい、恥ずかしい、喜ぶ、怒るといった患者さんの行動のすべては、「もし自分が同じ立場であればどう感じるか、どう行動するか」と考えると、納得がいくことばかりです。それを、「認知症だから、○○だろう」と周囲が勝手に推量して対応することで様々な介護上の問題が生じます。唯一異なるのは、認知症では過去と現在、現在と未来をつなぐ記憶の絆が断ち切れていることです。そのために、患者さんは省みることができない不安、予測できない不安に常に苛まれています。その思いに気づき、対応することで患者さんは安心を得て、穏やかな生活を送ることができます。
人は生後3カ月で微笑む能力を獲得します。そして、アルツハイマー病で最後まで保たれるのも微笑みの能力です。さらに認知症では、軽蔑や恐怖といった相手の表情を認識するのは不得意だが、喜びの表情の認識は後期までほぼ正常に保たれることがわかっています。
本書では、かかりつけ医の先生方にも診察室でお役立て頂ければと、すべての項目で、執筆者に診察室で実際に経験する患者さんやそのご家族とのやりとり(会話)を取り入れて書いて頂きました。また本書は、「エピソード記憶が失われた患者さんが最後まで笑顔を保つことができる医療」を念頭に置いてまとめました。患者さんの身近にいるかかりつけ医の先生方が主導し、早期発見・早期対応を軸として、かかりつけ医ならではの「家族ごと見守る認知症医療」を行って頂くことこそが、最後まで笑顔を保つことができる医療の実現に繋がると信じています。
2010年12月
岩手医科大学神経内科・老年科准教授 高橋 智