わが国では米国と同様に前立腺癌に対するロボット支援手術が急速に普及した
深く狭い骨盤腔での鉗子操作を要する前立腺,子宮,直腸などで有用性が高い
米国ではロボット支援手術が,子宮悪性腫瘍に対する子宮全摘術のゴールドスタンダード術式である
世界的に最も行われるロボット支援手術は子宮全摘術である
2018年の診療報酬改定で,腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(子宮体癌に限る)と良性腫瘍に対する腹腔鏡下腟式子宮全摘術が保険収載された
わが国における婦人科腹腔鏡下手術は,良性腫瘍を中心として普及してきた経緯がある。悪性腫瘍については,子宮頸癌の系統的術式である岡林術式をはじめとして,既に多くの開腹術式が確立されていたことから,婦人科腫瘍医は,腹腔鏡下手術の導入には積極的ではなかった。その根底には,開腹手術と同様の手技がはたして腹腔鏡下手術で施行可能であるのか,そしてその根治性は担保されるのかなどの懐疑的な思考があったのではないだろうか。当然のことながら,新しいものがその信頼を得るにはやはり長い時間を要する。
腹腔鏡下手術は低侵襲性といった,開腹手術にはない多くの優れた面を持っているが,一方で,その習得には長い期間を要するといった手技的な問題も存在する。開腹手術において,長い修練の末に難しい術式を取得した術者が,電気メスやバイポーラ等の便利なエナジーデバイスを使って難しい手術手技を容易に行うなら問題ないであろうが,腹腔鏡下手術では,それまで手を使って行っていた手術手技を鉗子に置き換えて行うことになる。それゆえ鉗子操作を納得できるレベルまでに到達させるには,長い修練期間が必要となる。この腹腔鏡下手術の長いラーニングカーブ(習熟曲線)が悪性腫瘍のような難度の高い手術においては,普及の足枷になっていると言っても過言ではない。
ロボット支援手術は,このように腹腔鏡下手術がなかなか開腹手術に取って代わることができない時期に登場してきた。驚くことに米国においては,前立腺癌や子宮癌に対してロボット支援手術が急速に普及して,瞬く間に開腹手術に代わるゴールドスタンダードの術式になってしまった。これは,ロボット支援手術の特徴である短いラーニングカーブ1)に起因することは容易に推測できる。わが国においても2012年に保険収載された前立腺癌については,米国と同様の現象が起きている。このような状況下において,2018年に婦人科ロボット支援手術の保険適用が認められたことは,その普及に大きな影響を及ぼすことは間違いない。婦人科ロボット支援手術の今後の動向が気になるところである。