子宮筋腫に対する手術治療として,腹腔鏡下子宮全摘術は多くの施設で行われるようになっていますが,子宮筋腫に子宮内膜症が合併し,後腹膜を含み広範囲で強固な癒着を伴う症例では様々な困難が予想されます。
筋腫に内膜症を合併し,高度の癒着を伴う症例に対する腹腔鏡下子宮全摘術における注意すべきポイントとコツについて,多くの症例をご経験されている大阪中央病院・松本 貴先生にご教示頂きたいと思います。
【質問者】
市村友季 大阪市立大学女性病態医学講師
【ダグラス窩閉塞に対するアプローチが重要である】
子宮内膜症を合併する症例に子宮全摘術を行う場合,多くの術者が最も苦慮するのは,ダグラス窩閉塞に対するアプローチであると思われます。そのようなケースで安全に手術を進めるためには,①ダグラス窩の正常解剖をどうとらえるか,②子宮内膜症によって解剖はどのように変化しているのか,③それに対してどのようにアプローチするのか,ということを考える必要があります。
ダグラス窩は,子宮頸部後壁および後腟円蓋・左右仙骨子宮靱帯・直腸および腸間膜に囲まれる骨盤腹膜腔で,生殖器(子宮と腟)と消化管(直腸および腸間膜)によって形成されています。腟と直腸の間は,その境界にrectovaginal fasciaすなわち直腸腟筋膜があるとされています。側方にその筋膜がどこまで延長されているのかは明らかではありませんが,解剖学的には生殖器と消化器の境界が骨盤側方まで続いていると考えたほうが自然でしょう。
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