心筋炎はウイルス感染,膠原病,薬剤などを原因として生じ,わが国ではウイルス性のものが多い。病理所見からリンパ球性,巨細胞性などに分類される。心筋炎のほぼ全例で心膜炎も合併している。病態,重症度は症例によって多彩であり,軽症で安静のみで治癒するものもあれば,急激に心原性ショックに至る劇症型心筋炎もある。重症例でも急性期の循環動態を維持すれば回復することが多いので,必要ならば補助循環装置の使用も積極的に考慮する。
症状は炎症による発熱,軽微な胸部不快といったものから,心不全による呼吸困難,不整脈による症状,さらには急速に心原性ショックに陥るものまで様々である。
ウイルス性心筋炎の場合,問診により先行する上気道感染が確認されることがある。そのほかの原因に関しても,基礎疾患の有無,治療歴などの問診は重要な意味を持つ。ウイルス性心筋炎を疑う場合,ペア血清によるウイルス抗体価測定を行うが,原因ウイルスが特定されることは比較的少ない。病因となる主なウイルスとして,コクサッキーウイルス,アデノウイルス,パルボウイルスなどが知られている。そのほかの血液検査所見として,CRP上昇などの炎症所見やトロポニン,CK- MBなど心筋逸脱酵素の上昇がみられる。
12誘導心電図では,冠動脈の支配領域に一致しないST上昇がみられ,対側の誘導でのST低下がみられないことなどが特徴的である。心筋浮腫や心膜炎による心膜液貯留を反映して低電位を認めることもある。
心エコーで,びまん性の壁運動低下ないしは冠動脈の支配領域に一致しない局所壁運動異常,心筋浮腫による心室の壁肥厚,心膜液貯留などの所見を認める。心筋浮腫は心臓MRIにおけるT2強調画像の高信号としてもとらえることができる。
心筋生検で炎症細胞浸潤,心筋細胞壊死などの所見が確認されれば確定診断となる。ただし,病変が偏在する場合もあるため,こうした所見が認められなくても心筋炎を完全に除外することはできない。心筋生検は治療法の決定にも寄与する。特に劇症型心筋炎には,副腎皮質ステロイド治療の早期開始が予後を左右する巨細胞性心筋炎がしばしば含まれており,合併症のリスクが高い急性期であっても,疑わしい場合には心筋生検を考慮する。巨細胞性心筋炎の病理組織所見では多核巨細胞を認め,時に活動性の心臓サルコイドーシスとの鑑別が必要となるが,巨細胞性心筋炎で認められる高度の心筋細胞壊死や好酸球・リンパ球浸潤は,心臓サルコイドーシスでは稀である。好酸球性心筋炎もまた副腎皮質ステロイド治療の適応となるが,末梢血中の好酸球はあまり上昇していない場合もあり,心筋生検の意義が大きい疾患である。
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