骨盤臓器脱(pelvic organ prolapse:POP)は腟を中心とした骨盤底臓器(膀胱,直腸,会陰)の解剖学的な支持が失われ,腟壁が弛緩,下垂して膀胱,子宮,ダグラス窩,直腸,会陰などが脱出する状態を言う。脱出の部位によって子宮脱(子宮摘出後腟脱),尿道過可動,膀胱瘤,小腸瘤,直腸瘤,会陰裂傷,直腸脱(肛門脱)に分類される。患者は腟の膨隆を視認,触知して受診することが多い。
仰臥位,立位で開脚させ腹圧(バルサルバ法)による腟の脱出を確認する。婦人科では内診台で確認する。尿道,膀胱,子宮円蓋部,ダグラス窩,直腸,会陰体を評価する。進行度の分類には国際的にはPelvic organ prolapse quantitative description system(POP-Q)の客観的評価法を用いる1)。POP-Q stage 2以上で尿路症状,排便障害,性交障害などの症状があれば治療を開始する。
QOLを低下させるPOP stage 2以上では保存的治療を行う。保存的治療には骨盤底筋体操とPOP矯正用の腟内ペッサリーがある。生殖期女性では挙児完了まで保存的治療で症状を軽減する。高齢者で重篤な内科的合併症があり,麻酔のリスクの高い場合にも保存的治療を行う。骨盤底筋体操は肛門挙筋と会陰筋を強化する体操で,骨盤底筋の改善が期待できる。助長因子である肥満,慢性咳嗽,慢性便秘,重労働は生活指導も重要である。エストロゲンは腟壁や尿道の萎縮の軽減には有効であるが,腹圧性尿失禁に関しては長期投与で悪化する。
腟ペッサリーは70%以上のPOP患者に適合させることが可能で,自己着脱を指導すると長期的な使用も可能である。ウォーレスリングや北里コーポレーションのソフトリング(O型,M型リング)が保険診療で使用できる。合併する下部尿路症状や外陰部萎縮,疼痛に対しては薬物療法としてホルモン補充療法,抗コリン薬,β3作動薬,漢方薬などが使用される。
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