【静脈血栓塞栓症リスクを最小化するために,経皮エストロゲンまたは経口エストラジオール+ジドロゲステロン投与を】
閉経移行期または閉経後の女性に対するホルモン補充療法(HRT)は,エストロゲン(E)が肝代謝時に凝固因子産生を促進するため,わずかに静脈血栓塞栓症(VTE)リスクを増加させることが知られている。E経皮投与によって肝初回通過効果を避けることでVTEリスクを増加させないことが既にメタアナリシスによって示されているが1),成分の違いによるリスク差は明らかではなかった。
この点を最近明らかにしたのがVinogradovaらによる研究である2)。これは英国の公的保険データベース(QResearchとCPRD)を基に,VTEの診断を受けた8万396人の女性患者(40~79歳)と,年齢等をマッチさせた39万1494人の対照者とを比較した症例対照研究である。
従来示されてきたように,VTEリスクはE経皮投与では増加せず,E経口投与で増加する。E経口投与の中で最もVTEリスクが高いのは結合型Eとメドロキシプロゲステロンの組み合わせであり〔調整オッズ比(95%信頼区間)2.10(1.92~2.31)〕,一方で最も低いエストラジオール(E2)とジドロゲステロン(DYD)の組み合わせはVTEリスクを有意に増加させなかった〔同1.42(0.98~1.42)〕。
HRTを行う際には,VTE防止の面からは,経皮E投与もしくは経口E2+DYD投与が望ましい。
【文献】
1) Canonico M, et al:BMJ. 2008;336(7655):1227-31.
2) Vinogradova Y, et al:BMJ. 2019;364:k4810.
【解説】
寺内公一 東京医科歯科大学女性健康医学教授