器質性疾患のない子宮からの不正出血をいう。出血性素因,排卵障害に伴う内分泌異常,子宮内膜の機能異常,医原性,そのほか(各用語の英語頭文字をとってCOEINという)が原因となるが,わが国では出血性素因によるものは多くない。
不正性器出血では,まず妊娠および子宮外からの出血を否定する。その後,器質性疾患(内膜ポリープ,腺筋症,筋腫,悪性腫瘍,そのほかの英語頭文字をとってPALMという)を除外することにより,機能性出血と診断する(「そのほか」には慢性子宮内膜炎や動静脈奇形などを含む)。
器質性疾患の除外には,超音波検査(必要により血流観察やソノヒステログラフィーを併用)を用いる。内膜ポリープの除外が必要なときは子宮鏡検査を行う。機能性出血の原因で最も頻度の高いのは内分泌異常である。内分泌異常・医原性・出血性素因・そのほか,のいずれにも当てはまらないときに子宮内膜の機能異常を考える。器質性疾患を否定した後,年齢・問診・基礎体温・血中ホルモン測定などに基づいて機能性出血の内分泌学的な機序を推定し,治療の参考にする。排卵周期を背景とする出血(排卵性出血)では,増殖期ならエストロゲンの不足による月経の遷延を,排卵期ならエストロゲンの一過性低下による破綻性出血(中間期出血)を,黄体期なら黄体ホルモンの不足による消退出血を推定する。一方,無排卵周期ならエストロゲン(高値)による破綻性出血が多く,思春期や更年期にみられることが多い。
急性に発症し大量出血への緊急対応が必要となる場合と,慢性に経過し少量の出血(過多月経を含む)を反復する場合とにわけて治療方針を決める。
まず,循環管理(補液)を行い,輸血が必要かを検討する。機能性出血と推定した場合には,続けてエストロゲン(E)・プロゲスチン(P)投与により早急に止血を図る。中用量ピル相当あるいはそれ以上の量のEPを投与する。内因性のEレベルが高い場合には,P単独投与を選択することがある。逆にE単独で投与を開始することもできる。EP投与にトランサミン®(トラネキサム酸)を併用することも多い。
止血あるいは出血量が減少した場合,2~4週間EPを継続してから投与を中止する。その後の消退性出血や不正出血に対しては,慢性的な不正出血の管理と同様に,ホルモン量を減じた低用量(L)EPにより管理することが多い。出血性素因では,原因に対する個別の治療を行うが,抗凝固薬の継続が必要な症例などでは,LEPでの長期管理が難しくGnRHアゴニストやアンタゴニスト投与が必要となることがある(いずれも機能性出血が保険適用となっていない)。
EPで止血が得られないときに,子宮内留置バルーンによるタンポナーデ(ジエノゲスト投与中の子宮腺筋症からの出血にも有効),子宮内膜搔爬術(術後にEP療法を行う)や子宮動脈塞栓術を行う。子宮温存を要さないのであれば,子宮摘出術や子宮内膜アブレーションも選択肢となる。
注意:子宮動脈塞栓術は,術後に子宮内膜や卵巣の恒久的な機能障害(アッシャーマン症候群,早発閉経)をきたすことがあるので,妊孕性温存の必要な症例には原則として選択しない。生命に関わる大量出血で,開腹手術を回避して迅速に止血をめざす場合などに適用される。
中間期出血や更年期にみられる月経前の少量出血で,日常生活に支障を感じていない場合などは治療の対象としない。悪性の可能性を否定し,心配ないことを伝えて経過を観察する。出血のパターンを把握するために基礎体温表に出血の有無と量を記載(2~3カ月)してもらうこともある。
内分泌異常長期管理では,LEPを投与して月経周期をコントロールすることにより不正出血を防止する(ただし,LEPの適応症は月経困難症)。周期投与を継続することで月経量の減少も期待できる。LEPでは初めの数周期に多少の不正出血を認めることがあるが,投与継続により不正出血は減少する(完全には止血しないこともある)。過多月経に対しては,レボノルゲストレル放出子宮内システム(levonorgestrel-releasing intrauterine system:LNG-IUS)を使用する。無排卵性の破綻出血や黄体機能不全による不正出血で妊娠希望のある症例では,排卵誘発薬が適応となる。妊娠希望のない黄体機能不全では,黄体期にのみプロゲスチン投与を行う(Holmström療法)こともできる。
高プロラクチン血症ではドパミンアゴニストを,甲状腺機能異常では甲状腺薬の投与を考慮する。出血性素因が疑われる場合には,専門医にコンサルトする。
注意:EP,LEPの投与にあたっては,年齢・喫煙歴・静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)の既往に注意する。VTE症状(腹痛,胸痛,頭痛,眼症状,下肢痛の英語頭文字をとってACHESという)を患者に説明し,症状発現時の対応(緊急受診先など)を具体的に伝えておく。肝機能障害や乳癌,動脈血栓症の既往,心血管リスクがあれば,投与を控える。
鉄欠乏性貧血に対しては,必要量の鉄剤を投与する。
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