【ラジカル捕捉活性など,機序に関しては様々な報告あり。750mgの酢酸を含む食酢約1.9mL摂取で降圧効果が期待できる】
酢の摂取が,血圧が比較的高い人に対して降圧作用を示すことは古くから知られています。酢を調味に用いることにより,味を損ねることなく塩分摂取を減らせることが理由のひとつに挙げられます。加えて近年,酢そのものに降圧効果があるというエビデンスが示されています。
酢には,米酢,玄米酢,黒酢といった穀物酢,りんご酢,ぶどう酢等の果実酢など多くの種類があります。主成分の酢酸以外に,クエン酸や乳酸など他の有機酸をはじめ,様々なビタミン,ミネラルが含まれ,その割合は酢によって異なります。それら各成分の効果や相互作用も無視できないとも思われますが,これまでのところ示されているのは,それぞれの酢および酢酸の効果が中心です。
正常高値血圧者と軽症高血圧者が玄米酢飲料またはりんご酢飲料それぞれ1日当たり酢酸を750 mg含む量を10週間摂取すると,2~6週目以降10週まで,収縮期・拡張期血圧の有意な低下(141/83 mmHgから129~135/77~78mmHgへの低下)がみられたとの報告があります1)。
一方,血圧は正常で肥満のある中年期男女が酢酸750mgを12週間毎日摂取したときには,4週目から体重は有意に減少したものの,収縮期・拡張期血圧の低下はみられていません。ただし,同じ実験で酢酸を毎日1500mgずつ摂取した群においては,当初約125mmHgだった収縮期血圧がわずかな減少(3~4mmHg)を示したとのことです2)。また,中年期の男女が2.07gの酢と0.15gのかつお節を含む飲料を16週間毎日飲用した実験では,中等度あるいは軽度の高血圧患者の場合は収縮期・拡張期血圧がそれぞれ10週,4週以降有意に低下したが,正常血圧群では血圧に有意な変化はみられなかったという報告があります3)。
さらに,私たちの動物実験でも腎血管性高血圧モデルラットでは米酢摂取による降圧作用を観察しましたが,正常血圧を示す対照群ではその効果は認められませんでした。これらのことから,酢の摂取は特に正常高値血圧以上の血圧に対して降圧効果を示す可能性が高いと考えられます。
降圧メカニズムについては,in vitroの実験で様々な種類の酢にラジカル捕捉活性やアンジオテンシン変換酵素阻害活性がみられたとの報告があるほか,ヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cells:HUVEC)において酢酸が内皮型一酸化窒素合成酵素を活性化し,プロテインキナーゼAやAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の阻害薬投与によりこの活性化が阻害されることが報告されています4)。
また,高血圧自然発症ラット(spontaneously hypertensive rat:SHR)に酢や酢酸を摂取させると,血圧の低下とともに血清レニン活性やアルドステロン活性の有意な低下がみられたとの報告があります5)。さらに近年,SHRにおいて酢や酢酸の投与がAMPK活性化を通してペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)γ共役因子-1α(PGC-1α)やPPARγを増加させ,アンジオテンシンⅡ1型受容体(AT1R)の発現を低下させることで血圧低下をもたらす経路が示されるなど6),メカニズムの解明が進められているところです。
有効な食用方法は現在まで確立していませんが,上に示した知見から,正常高値血圧以上の場合,750mgの酢酸を含む食酢約1.5〜2mL(大匙1杯強)を飲用または食事とともに摂取すると,一定の降圧効果が期待できると考えられます。
【文献】
1) 梶本修身, 他:健康・栄養⾷品研究. 2003;6(1):51-68.
2) Kondo T, et al:Biosci Biotechnol Biochem. 2009; 73(8):1837-43.
3) Tanaka H, et al:J Clin Biochem Nutr. 2009;45(1): 93-100.
4) Sakakibara S, et al:Biosci Biotechnol Biochem. 2010;74(5):1055-61.
5) Kondo S, et al:Biosci Biotechnol Biochem. 2001; 65(12):2690-4.
6) Na L, et al:Eur J Nutr. 2016;55(3):1245-53.
【回答者】
栗原伸公 神戸女子大学大学院家政学研究科食物栄養学専攻教授