心膜の線維性肥厚と癒着のために,心臓の拡張期充満が障害された病態である。以前は原因として結核を主体とする感染性が多いとされたが,心臓手術を含む外傷後や特発性が増加している。
本症を鑑別診断として拠出できるかが,最大の診断ポイントである。原因不明の右心不全や心臓弁膜症,収縮の保たれた心不全(HFpEF)の診断のもと,治療抵抗性をきたした心不全例では,本症の可能性を意識すべきである。
右心不全に基づく肝腫大や腹水による腹満感や浮腫が特徴的で,時に心拍出量低下を伴う呼吸困難などの心症状が併発する。しかし,病初期には無症状であることも多く,症状の進展は緩慢であることが多い。
身体所見:頸静脈怒張が際立ち,深いY谷が特徴でKussmaul徴候を随伴する。心膜ノック音は,広範囲に聴取される拡張早期過剰心音である。高度な肝腫大と腹水貯留が認められ,時に下腿浮腫より著明である。
画像診断:単純X線の側面像で心膜の石灰化像がみられるが,診断能力としてはCTが格段に上である。心エコー図では,心房に比し心室が狭小化している不均等と,心室中隔の奇異性運動(early-diastolic dip)が特徴的である。
心臓カテーテル検査:右房,右室拡張期,肺動脈楔入圧,左室拡張期圧が上昇し,5mmHg以内の範囲で心内腔圧が同一化する。心室圧曲線では拡張の中断に基づき,拡張早期に急峻に下降して尖ったくぼみ(dip)となり,直ちに上昇して高い平坦な拡張期圧(plateau)を形成する(dip and plateau)。
鎧心と呼ばれる機械的な拡張障害のため,薬剤による心不全コントロールには限界があり,手術による「鎧の除去」が根本的かつ有効な治療である。
減塩や利尿薬による体液コントロールが対症療法の基軸となるが,他の心不全治療薬は有効性が低い。対症療法での管理が不十分な場合は,心臓悪液質が招来する前に速やかに心膜切除術を施行する。利尿薬などの体液コントロールは,あくまでも一時しのぎの管理法であることを自覚し,常に外科的治療のタイミングを図る(可能な限り早期に施行する)態度を忘れないでおく。
心膜切除術/剝離術は,早期ほど手術死亡率が低く,症状や予後の改善率が高い。一方,心膜切除術後も拘束性の病態が完全に解除できないことが多く(特に癒着や石灰化が強い場合は,部分心膜切除とならざるをえない),引き続き体液コントロールを図る必要がある。
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