卵巣囊腫は囊胞状に腫大した卵巣の中に液体を含むものを示し,一般的に良性の腫瘍と類腫瘍(機能性)に分類される。形態は単房性と多房性のものがあり,囊腫内容は漿液性,粘液性,血性,脂肪成分まで様々である。治療法は経過観察,薬物療法,手術療法があるが,年齢,卵巣予備能,囊腫の大きさなどを考慮して決定される。
診断には経腟超音波検査がきわめて有用である。さらに良・悪性や組織型の推定には腫瘍マーカーやMRIが役に立つ。
卵巣に腫瘍が発症する頻度は女性の全生涯でみると5~7%とされている。卵巣腫瘍は多様であるが,組織学的に表層上皮性・間質性腫瘍,性索間質性腫瘍,胚細胞腫瘍,の大きく3つに分類される1)。また,他臓器癌の転移による卵巣腫瘍も重要である。さらに,真の腫瘍ではない類腫瘍性病変が存在する。機能性囊胞とも言われ,出現にはホルモンの影響が示唆される。その多くが時間経過とともに消退することが多いため,診断は単回で行わず,複数回の診察によって行う。卵巣子宮内膜性囊胞も類腫瘍性病変に分類され,がん化,疼痛や不妊症との関連が問題となる。
腫瘍性の卵巣囊腫においては,腫瘍の長径が6cm以上であれば捻転のリスクが高いため手術を勧める。6cm未満では悪性を疑う所見がなければ直ちに手術療法を行う必要はない2)。経過観察の場合は,腫瘍の増大や形状の変化,症状に注意して観察を行う。ただし,奇形腫を疑う場合はこの限りではない。未熟奇形腫は若年者に多く,全奇形腫の3%にみられることや,高齢では悪性転化の可能性があることから,6cm未満であっても手術を考慮する。
卵巣囊腫の診断において最も重要なのが卵巣癌との鑑別である。卵巣癌は閉経後に好発するため,特に高齢の患者では念頭に置く必要がある。経腟超音波検査は簡便かつ有用であり,良・悪性の正診率は90%程度とされている。充実部の存在や隔壁の肥厚などがあれば,悪性の可能性も考慮してさらなる検査を行う。腫瘍マーカーはCA125を基本としてCA19-9,CA72-4,CEA,HE4,STNの中から組み合わせを考える。若年者の場合は胚細胞腫瘍を念頭に置きAFPやhCGの検査も考慮する。MRIは囊胞内容が明瞭となるため,組織推定に有用である。
卵巣子宮内膜症性囊胞は,超音波検査で単房性もしくは多房性の囊胞性病変を呈し,囊胞内部はびまん性・均一で,典型例では微細点状エコーを認める。超音波検査ではしばしば成熟奇形腫や出血性黄体囊胞などとの鑑別が難しい場合がある。また,時に囊胞内に凝血塊や囊胞壁の脱落膜化による充実性病変を認める場合もあるため,診断にはMRIが有用である。卵巣内膜症性囊胞から卵巣癌が発生する頻度は0.7%程度と推定され,特に40歳以上,腫瘍径10cm以上あるいは急速に増大する場合はがん化のリスクが高いとされているため,これらの条件を有する症例は手術療法を勧める。若年でも疼痛や不妊症との関連が問題となる場合があり,挙児希望の有無や卵巣予備能に応じて治療法を選択する必要がある。挙児希望がない場合の第一選択は薬物療法であり,低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)やジエノゲスト,GnRHアゴニスト・アンタゴニストといったホルモン療法がある。核出術後の再発予防としてもこれらの薬剤の有効性が示されている3)。
卵巣囊腫は無症状である場合が多いが,急性腹症を呈する場合があり,その原因として茎捻転と破裂が挙げられる。茎捻転は,前述したように囊腫の長径が6cmを超えるとそのリスクは高くなると考えられている。茎捻転を起こすと卵巣への血流が阻害され卵巣が壊死に陥り,患側の卵巣の温存が困難な場合があるため,生殖可能年齢の卵巣囊腫を経過観察する際は,増大や症状に注意して観察することが必要である。卵巣囊腫の破裂は卵巣内膜症性囊胞でみられることがあるが,保存的治療で軽快する場合も多い。
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