厚生労働省の人口動態統計によると,日本の老衰死は2021年に全死亡数の10.6%と10%を超えた。先進諸国では老衰死は少なく,WHOでは老衰は「不適切な診断名の一群」とされる。日本の老衰死に特徴的なものとして栄養性消耗症,嚥下障害などが死因欄に記載されることが挙げられている1)。
近年急速に発展した嚥下治療によって従来経口栄養不能とされた患者でも十分な経口栄養を安全に実施できることが多くなった。それでも重度のADL障害と低栄養状態が加わると炎症性合併症の発症リスクが高くなり救命が困難になることが多い。
補中益気湯は適応症に「病後の体力増強,感冒,食欲不振,半身不随」などを持ち,免疫賦活に対する作用が報告されている。
我々の研究2)で補中益気湯が脳血管障害治療中で低栄養と重度ADL障害がみられるグループで炎症性合併症の発症リスクを減らすことがわかった(図)。老衰と診断されたケースでは嚥下障害,栄養障害が原因になって一見不可逆的な衰弱にいたっていることがある。リハビリテーション医療と漢方は従来回復不能とされてきた状態からの回復を実現できる強力なツールになっている。