本治療はCHADS2スコアまたはCHA2DS2-VAScスコアに基づく脳卒中および全身 性塞栓症のリスクが高く,長期的に抗凝固療法が推奨されるNVAF患者に考慮される12)。そして,HAS-BLEDスコア≧3,BARC出血基準タイプ3に該当する出血既往,2剤以上の抗血小板薬が1年以上必要,転倒に伴う外傷に対し複数回の治療を必要とした既往,びまん性脳アミロイド血管症の既往,これらの要因を1つまたは複数有する患者に対して,長期的抗凝固療法の代替として検討される治療である。なお,機械的人工弁の植込み患者,凝固能亢進状態の患者,または再発性深部静脈血栓症患者など,NVAF以外の理由で経口抗凝固薬の長期使用が必要な患者は,本治療の適応ではないとされている。
2021年の「日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療」12)において,「NVAFに対する血栓塞栓症の予防が必要とされ,かつ長期的な抗凝固療法の代替が検討される症例に左心耳閉鎖術を考慮してもよい」として,「推奨クラスⅡb」と記されており(表1)12),これは欧米のガイドラインにおいても同様である。
現在使用可能となっているWATCHMAN FLXTMの場合,まず手技前日からアスピリンを開始し,術中は活性化凝固時間(activated clotting time:ACT)200~300秒を目標としてヘパリンを投与する。留置後の薬物療法の推奨は,留置後から45日までアスピリン+抗凝固薬,留置後45日の経食道心エコーで左心耳の適切な閉鎖が確認されれば,その後は6カ月までアスピリン+チエノピリジン系薬剤,そして6カ月以降はアスピリンとされている13)。
しかし,DRTの危険因子を複数もつ患者や脳出血後の患者,比較的不安定な消化管出血患者などに上記プロトコールが適当であるか,また全例において終生アスピリンを継続するべきかなど,術後の抗血栓療法に関するエビデンスはいまだ乏しく,今後十分な検討の余地がある。
わが国ならびに欧米においても,現状ではまだ経カテーテル的左心耳閉鎖術は「推奨クラスⅡb」で,今後さらなる安全性・有効性に関するエビデンス蓄積が必要である。
DRTの正確な評価や発生予防は経カテーテル的左心耳閉鎖術におけるひとつの大きな課題である。また,適切な患者選択や術後抗血栓療法に関しても,今後さらなる検討が必要である。ただし,抗凝固療法下に塞栓症を繰り返す患者や透析患者への使用,心房細動アブレーションとの併用など,左心耳閉鎖術が今後重要な役割を担う可能性は高い。
そして65歳以上が人口の約30%を占め,超高齢社会となっているわが国では,さらなる心房細動患者の増加が予想され,経カテーテル的左心耳閉鎖術は,心房細動患者における血栓塞栓症予防の重要な選択肢のひとつとしてますます期待される。
【文献】
1) Holmes DR, et al:Lancet. 2009;374(9689):534-42.
2)Reddy VY, et al:JAMA. 2014;312(19):1988-98.
3)Osmancik P, et al:J Am Coll Cardiol. 2020;75(25):3122-35.
4)Osmancik P, et al:J Am Coll Cardiol. 2022;79(1):1-14.
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6)Main ML, et al:Am J Cardiol. 2016;117(7):1127-34.
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9)Asmarats L, et al:Circulation. 2019;140(17):1441-3.
10)Boston Scientific:WATCHMANサイト.
https://www.watchman.com/en-us-implanter/home.html
11)Kar S, et al:Circulation. 2021;143(18):1754-62.
12)日本循環器学会/日本不整脈心電学会:2021年 JCS/JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Kurita_Nogami.pdf
13)WATCHMAN FLX 左心耳閉鎖システム 添付文書.
https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/md/PDF/300500/300500_30200BZX00383000_A_01_02.pdf