遺伝性大腸癌は全大腸癌の約5%とされ,原因遺伝子が同定されている代表的な疾患として,家族性大腸腺腫症とLynch症候群が挙げられる。
家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis:FAP)の診断は,大腸にほぼ100個以上の腺腫を有する場合,もしくは腺腫の数は100個未満であるが,FAPの家族歴を有する場合,また,APC遺伝子の生殖細胞系列バリアントを有する場合に行われる。腺腫の個数によって,密生型(1000個より多い)と非密生型(100~1000個)に分類される。
FAPは40歳代で約50%,60歳頃にはほぼ100%の確率で大腸癌を発症するため,予防的大腸切除が確実な治療法である。一般的に20歳代で手術を受けることが推奨される。一方,近年内視鏡治療によって腺腫を徹底的に摘除する方法や,薬物療法(低用量アスピリン内服)など,侵襲の少ない新たな治療法の開発が試みられている。
FAPの標準術式は,大腸全摘・回腸囊肛門(管)吻合術であり,自然肛門機能が温存できる。非密生型や直腸に腺腫が少ない患者では,結腸全摘・回腸直腸吻合術も選択肢になる。ただし,術後も回腸囊内や残存した直腸粘膜にがんが発生するリスクは残るため,年1回の内視鏡検査と,腺腫を認めた場合は摘除あるいは焼灼治療が必要である。
FAPは,大腸以外の臓器にも腫瘍を発生するリスクが高く,代表的なものとして胃底腺ポリポーシス,十二指腸腺腫・癌,デスモイド腫瘍,甲状腺癌などが挙げられる。定期的な内視鏡検査や超音波検査,CT・MRI検査などによるサーベイランスが必要である。
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