閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea:OSA)例が高血圧や心房細動を合併する場合、β遮断薬の服薬は選択肢の1つだが、長期的に見ると心血管系(CV)転帰を増悪させる可能性が明らかになった。短期間の観察が有用性を示唆していたのと対照的である。英国・ノッティンガム大学のAnthony Chen氏らがLancet Regional Health-Europe誌に8月4日付で報告した。
今回の解析対象となったのは英国データベースに登録された、OSAと新規診断された3万7581例である。
これら3万7581例をOSA診断後1年以内にβ遮断薬の服薬を開始した群(1236例)と開始しなかった(非開始)群(3万1868例)に分け、「死亡」と「CVイベント」リスクを比較した。CVイベントの内訳は「狭心症・心筋梗塞・虚血性脳血管障害・心不全・心房細動」である。
比較にあたっては、観察データを用いてランダム化比較試験(RCT)を模した因果推論を可能とする"target trial emulation"(標的試験[RCT]模倣)という手法を用いた。
・死亡
5年間の「死亡」率はβ遮断薬「開始」群で4.9%、「非開始」群が4.0%だった。しかし「開始」群における諸因子補正後のハザード比(HR)は1.21(95%信頼区間[CI]:0.96-1.51)で、「非開始」群との有意差は認めなかった。
・CVイベント
一方、「CVイベント」発生率は「開始」群13.0%、「非開始」群9.4%となり、こちらは「開始」群における有意なリスク上昇が認められた(HR:1.35、95%CI:1.17-1.56)。
この「CVイベント」の内訳を見るとβ遮断薬「開始」群では「非開始」群に比べ、「心筋梗塞」「虚血性脳血管障害」「心不全」「心房細動」の発生率に有意差はなかったものの(増加傾向のみ)、「狭心症」発生率が2.1%の有意高値となり、リスク比も2.11(同:1.55-2.82)と有意な上昇を認めた。
心保護薬と考えられているβ遮断薬でCVイベントが増加した理由としてChen氏らは、OSAでの頻発が報告されている徐脈をβ遮断薬が程度を越して増悪させた可能性などを指摘している。
本研究は香港特別行政区政府機関からの資金提供を受けた。