月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)は,黄体期に認める多彩な精神症状(いらいら・うつ症状・気分の不安定さなど),身体症状(乳房痛・下腹部膨満感・浮腫など)から成り立ち,月経開始4日以内に減弱・消失することを特徴とする1)。特に,精神症状主体で重症の場合は,月経前不快気分障害(premenstrual dysphoric disorder:PMDD)に分類される。病因は不明であるが,黄体ホルモン,ホルモン変動,セロトニン・GABAの関与などが想定されている2)。
疾患マーカーは存在せず,通常測定するホルモン値などには異常を認めない。自覚症状に基づいて診断・治療を行う。
PMSは米国産婦人科学会診断基準,PMDDはDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)に基づく。両者を連続的にとらえる,premenstrual disorders(PMDs)の概念が世界的に主流となっている。うつ病,パニック障害などの月経前増悪(premenstrual exacerbation:PME)の除外に注意が必要である。PMSは,卵胞期5日目以降になると症状がほとんどなくなるのに対し,PMEではかなりの症状が持続するのが特徴である。
生活指導で多くの症状が改善可能である。最初に生活指導を行い,改善しなければ薬物治療を併用する。ルナルナⓇなどのアプリや簡単なカレンダーの利用でかまわないので,症状日誌をつけ,症状発現時期・程度を認識させる。調子の悪い時期には大事な用事を入れない,周囲の協力を得られるようにする,などの生活指導を行う。また,長時間のインターネット利用を避ける,睡眠不足改善などの規則正しい生活,適度の定期的運動も推奨される。
食事指導では,炭水化物摂取促進,精製糖・人工甘味料摂取制限,牛肉などの赤色肉摂取を控え,鶏肉や魚・緑黄色野菜の摂取促進が推奨される。
薬物療法は,軽症例に対して鎮痛薬・利尿薬・漢方薬を症状に合わせて使用する。根本治療としては,大きくわけて排卵抑制目的の低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)とセロトニン系をターゲットとした選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)投与の2つがあり,中等症以上に対して使用する。
わが国においてはLEP,SSRIともにPMSやPMDDに対する保険適用はない。LEPの投与には,血栓症に十分留意する。35歳以上で1日15本以上の喫煙者,術前・術後,前兆のある片頭痛,血栓既往,抗リン脂質抗体症候群など様々な禁忌症例があることに注意する。
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