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アスリートの月経不順

No.4756 (2015年06月20日発行) P.58

難波 聡 (埼玉医科大学病院産婦人科講師)

登録日: 2015-06-20

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

実業団の陸上部に入部した19歳,女性。身長160cm,体重40kg。6カ月間の無月経を主訴に受診。妊娠は否定的ですが,今後,どのような検査,治療を行うべきですか。埼玉医科大学・難波 聡先生にご教示をお願いします。
【質問者】
倉林 工:新潟市民病院産科・婦人科部長

【A】

実業団チームに加入するような女性アスリートのほとんどは,中学~高校時代から専門的トレーニングを経験してきています。その負の側面として,「女性アスリートの3主徴」(エネルギー不足,無月経,骨粗鬆症)が問題となります。低体重・低体脂肪率が求められる競技,特に長距離走,器械体操,新体操の3つがこの3主徴を呈しやすいので注意が必要です。
こうしたアスリートの初診時には,初経発来年齢,月経の頻度,最終月経といった婦人科的問診に加え,これまでの故障,特に疲労骨折の既往,ベスト体重およびそれに対する本人のこだわり,食生活や食行動異常の有無についても聞き出していかなければなりません。
ホルモン状況や骨の状態を数値化することも重要です。すなわち,採血〔LH(luteinizing hormone),FSH(follicle stimulating hormone),エストラジオール,プロラクチン,TSH(thyroid stim-ulating hormone)〕を行って,低LH,低エストロゲン(20pg/mL未満)の視床下部・下垂体性無月経(WHO分類のgroup 1)であることを確認します。経腹超音波検査により,未発達の子宮ときわめて薄い子宮内膜も認められるはずです。なるべく(他施設に依頼してでも)骨密度(全身または腰椎+骨盤)測定を行いたいところです。また,身長・体重の標準成長曲線を渡して,これまでの自分のデータをプロットしてもらいます。
女性アスリートの3主徴の根本原因は,low energy availability,すなわち摂取エネルギーから消費エネルギーを差し引いたエネルギー余裕度とも言うべき指標の低下であると考えられています。
したがって,治療はまず,トレーニング強度・量の見直し,および栄養指導から始まります。これにはコーチ,栄養士の理解,協力が必要となります。摂食障害が背景にある場合には,心理カウンセリングを依頼する場合もあります。BMI 18.5未満の低体重である場合には,体重増加の指導も必要となるでしょう。
数カ月~1年のこうした努力がなされたにもかかわらず月経の回復をみない場合や,既に疲労骨折の既往がある場合には,いよいよホルモン療法を考慮します。閉経後女性のホルモン補充療法に準じて,経皮吸収エストラジオール製剤を用います。私たちの施設では,1~2カ月に1回,10日程度黄体ホルモンを内服してもらい,消退出血の有無を確認しています。適切な血中エストラジオール濃度(30~50pg/mL)が得られているか,3~6カ月に1回,採血検査も継続します。
黄体ホルモン内服後以外に不正性器出血が認められる場合は血中エストラジオール濃度が上昇していることが多いので,ホルモン療法を中止して基礎体温をつけてもらい,経過をみます。
こうしたアスリートに対するケアは長期間(数年単位)を要することが多く,チームドクター,栄養士,トレーナー,コーチなどチームスタッフの協力と理解を得る努力が欠かせません。

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