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月経随伴性気胸の確定診断と手術適応・術式

No.4776 (2015年11月07日発行) P.61

栗原正利 (公益財団法人日産厚生会玉川病院 気胸研究センター センター長)

登録日: 2015-11-07

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

月経随伴性気胸(あるいは子宮内膜症性気胸)の確定診断および手術適応と術式について,いくつかのcontroversyがありますが,現時点でのコンセンサスとなるのはどのあたりか,日産厚生会玉川病院・栗原正利先生のご教示をお願いします。
【質問者】
近藤晴彦:杏林大学呼吸器・甲状腺外科教授

【A】

月経随伴性気胸は子宮内膜症の増加とともに増加していると推定されます。しかしながら,依然として稀少疾患であり,明確なガイドラインはありません。月経随伴性気胸は胸郭子宮内膜症症候群,胸部子宮内膜症関連気胸など,新しい知見とともに定義も名称も変遷しています。現在では月経時以外でも胸部に転移した子宮内膜組織の影響により気胸を起こすことが知られており,胸部子宮内膜症関連気胸と呼ぶのが適しています。月経時期では判定できないので,私は局所麻酔下胸腔鏡検査を行って子宮内膜組織を確定診断しています。
月経随伴性気胸は婦人科領域では稀少部位子宮内膜症(婦人科領域では異所性子宮内膜症の用語は使われていません)に位置づけられ,転移する良性腫瘍または類腫瘍として分類されています。したがって,通常行われている横隔膜部分切除では,術後再発が多く(再発率40~70%),手術の効果は低いのです。なぜなら,子宮内膜組織が横隔膜にとどまらず,既に胸腔内に多数転移や播種している例が多いからです。
自験の約200例では月経随伴性気胸の60%は横隔膜のみでなく,胸腔内の肺や胸壁への転移または播種が多数認められていました。したがって,手術は横隔膜,肺,胸壁をくまなく探して,それぞれを摘出または切除することが重要です。
手術せずにまたは術後にホルモン療法を行う臨床家も多いのですが,胸腔内に広がった子宮内膜組織はホルモン療法の効果がないことが多く,投与中止によって,気胸再発が起こります。婦人科領域では,ホルモン療法は月経困難症や月経不順の改善目的で投与するのみで,根治できないことが知られています。原因として,子宮内膜のうちホルモン感受性の低い組織が存在すると同時に,遠隔転移や播種しやすい内膜組織ほどホルモン感受性が低いという印象を私は持っています。根治を期待した無駄なホルモン投与は控えるべきです。
横隔膜切除術後に再発した場合,胸膜癒着療法を行う医師が多くみられます。しかし,胸膜癒着療法は術後再発を防止できません。完全な全胸膜の癒着はありえず,胸腔内の微細な子宮内膜組織は葉間部や肺の辺縁部,背部胸壁に多いので,盲目的な癒着療法は推奨できません。
切除組織において内膜組織が診断できないとの声が多くあります。子宮内膜腺組織が証明されるのは自験例で約30%程度で,多くは間質組織が存在するのみです。したがって,病理組織学的に子宮内膜間質組織を証明することが重要です。ER(estrogen receptor),PgR(progesterone recep-tor),CD10などの免疫染色を駆使して診断することが必要で,私は間質組織が証明されれば確定診断と判断しています。

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