【質問者】
鈴木 直 聖マリアンナ医科大学産婦人科学講座教授
腹腔鏡下手術は,現在では胃癌,大腸癌をはじめとする様々な領域の悪性腫瘍に対して行われていますが,婦人科領域では,不妊症例の検査から始まったため,子宮筋腫や良性卵巣腫瘍などの良性疾患に対して腹腔鏡下手術が行われ普及してきました。婦人科悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術は諸外国と比べて遅れていましたが,2014年4月に初期子宮体癌に対して腹腔鏡下根治術が保険適用となり,わが国でも広がりつつあります。また,先進医療ではありますが,2014年12月に1A2期から2A1期までの子宮頸癌に対する腹腔鏡下広汎子宮全摘手術が認可され,ようやく始まったのが現状です。
子宮頸癌の主治療である広汎子宮全摘手術は,1921年に京都大学の岡林秀一教授により発表された岡林術式が世界的に有名ですが,この術式は子宮頸部を大きく切除することによって排尿障害が必発するという問題と,骨盤腔内の奥深くの血管,靱帯処理を行うため術中出血が多くなる危険性があることで技術的に難しい手術とされています。その後,根治性を保ちながら排尿障害を軽減するための神経温存広汎子宮全摘出手術の開発や様々なデバイスの登場により,出血量の軽減や排尿障害の軽減に向けた工夫がなされてきましたが,いまだ完全ではありません。
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