炎症性腸疾患(IBD)における細胞移植治療として,これまで造血幹細胞移植・間葉系幹細胞移植が試みられてきた。造血幹細胞移植の有効性については限界があることが示されつつある一方,間葉系幹細胞移植はクローン病における瘻孔治療等,一定の局面における有効性が期待されている
IBDにおいて,粘膜上皮の再生を指す「粘膜治癒」の重要性が示され,治療目標のコンセンサスとなっている。既存薬剤による「粘膜治癒」の達成率には限界があり,同達成率の改善には難治性潰瘍に対する新規治療等が求められている
難治性潰瘍に対する細胞移植治療として,腸上皮幹細胞移植の開発が進められている。この基盤技術として,①体外で腸上皮幹細胞を培養・増幅する技術および,②体外で増幅した腸上皮幹細胞を消化管内腔側より移植する技術がわが国の研究者により開発された
腸上皮幹細胞移植がIBDの治療として確立するまでには,①安全かつ効率的なドナー細胞の製造法,②移植細胞を安全かつ効率的に目的部位に集積する技術の開発等の未解決の問題が残されている
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)は主に潰瘍性大腸炎とクローン病からなる,消化管を主座とする難病である。現在,わが国においては両疾患併せて22万人を超える患者が存在するとされており,厚生労働省の「指定難病」においては最も患者数の多い疾患となっている。
IBDは「消化管に発生する原因不明の慢性・再発性の炎症」が共通する病態であることから,これまで「炎症を抑え,制御する」ことを目標とした治療法の開発が進められてきた。この結果,抗TNF-α抗体製剤や免疫調整薬等の画期的な治療薬が登場し,重篤・難治な症例に対しても内科的治療の選択の幅が広がってきている。
一方,これら薬剤による治療法開発と並んで「細胞移植を用いた再生医療」により,本疾患を治療する試みが続けられてきた1)。このような治療法開発にこれまで用いられてきた代表的な細胞として,造血幹細胞と間葉系幹細胞の2つが挙げられる(図1)。
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